「どう考えても荒谷(裕秀)のおかげで勝ちませんでした?」
宇都宮ブレックスは名古屋ダイヤモンドドルフィンズとの第1戦を80-79で制した。12月に行われた4試合のホーム戦をすべて落としていただけに、新年最初のホームゲームでの勝利はファンにとてお年玉となったはずだ。
1点差での勝利だけに、勝因を一つに絞ることは難しい。それでも、宇都宮の佐々宜央ヘッドコーチが「オフィシャルタイムアウト明けで、あそこでポンポンと決めてくれた。どう考えても荒谷(裕秀)のおかげで勝ちませんでした?」と、試合後の会見で語ったように、劣勢を挽回するきっかけとなった荒谷の活躍は見逃せない。
最終クォーター開始3分、宇都宮は比江島慎の3ポイントシュートで逆転したが、連続でオフェンスリバウンドを奪われ、セカンドチャンスから3ポイントシュートを射抜かれてしまう。さらに齋藤拓実の絶妙なアシストからモリス・ンドゥールにイージーシュートを許し、3点ビハインドでオフィシャルタイムアウトを迎えた。嫌な失点の仕方で逆転されたが、ここで荒谷が大仕事をやってのけた。
「佐々さんが自分のやりやすいプレーを選んでくれたので、思いきりアタックすればいいと思いました」と、そのシーンを振り返ったように、荒谷はアイザック・フォトゥとのピックからリングにアタックし、そのままレイアップを決めると、その直後にも、トランジションからのコーナースリーを沈めて再びチームを逆転に導いた。
結果的に残り8秒で同点に追いつかれはしたが、荒谷のプレーで逆転して以降は長い間リードを保っており、劣勢を覆したという意味でも価値のある5点だった。
「考え過ぎないようにしたのが良い方向に向いた」
昨シーズンの荒谷は50試合中2試合で先発を務めるなど特別指定選手だった1年目よりも出番を増やすと、チャンピオンシップでは3ポイントシュート成功率が50%とさらにパフォーマンスを向上させて王座奪還に貢献した。飛躍が期待されたが、今シーズンはここまで平均12分のプレータイムで3.2得点、3ポイントシュート成功率20.8%と精彩を欠いている。本人も「今のところ、ずっとうまくいっていないシーズン」と、悩んでいた。
不振の最大の理由はコミュニケーション不足だと言う。「自分がドライブにいくためにはビッグマンとのコミュニケーションが必要になってきます。特にセカンドユニットが遠慮がちになったり、パスを回し過ぎちゃったり、リズムがつかめないことが多かったです。今シーズンはセカンドユニットで練習する時間が短くて、まず良い形で入れていないことが課題でした」
それでも、第1戦を迎える前日、指揮官との会話が殻を破るきっかけとなった。「昨日、佐々さんと話をして『思い切りよくやればいいから、考え過ぎないようにやれ』と言われました。あまり考え過ぎないようにしたのが良い方向に向いたかなと思います」
荒谷は18分の出場で9得点3リバウンド2アシストを記録。今シーズン2度目の2桁超えとまではいかなかったが、復調を予感させるパフォーマンスを見せ、佐々ヘッドコーチも彼に期待を寄せている。「今シーズン、自分が思っているようにプレーできていないと彼も思っていたと思います。なりたい像はブラすなと伝えてきて、イメージした形でできました。彼はできる選手なので、これからはそれをいかに継続できるかですね」
荒谷が「今日は本当にチームとしても個人としても良い流れでした。これをきっかけにできればいいと思っています」と言ったように、名古屋Dとの初戦は彼が上向くターニングポイントになるはずだ。そして、強豪との戦いで上昇のきっかけをつかんだのは荒谷だけではない。佐々ヘッドコーチも気づきを得たという。
「長いシーズンをやっていれば相手から学ぶものもあって、簡単に2点を取っていくヒントを得ました。名古屋さんは攻守の切り替えが早くて、ウチが決めてもすぐに返されました。ウチもビッグマンは走れるのでそこを狙っていく。あとは単純に言ったらカッティングです。ハーフコートでレイアップで得点を取れるオプションがむこうのほうが選択肢が多かったです。スペーシングを大事にしながらも、カッティングで簡単な2点をどれだけ取っていくか」
名古屋Dとの死闘は荒谷の復調と戦術面での収穫をもたらした。特に戦術面の変化はすぐに効果が表れにくいが、長いシーズンを終えた時に今回の初戦がターニングポイントになることは十分にあり得るだろう。宇都宮の逆襲がこれから始まる。