スペイン代表

相手が強くなればなるほど『見えにくい強さ』は色濃く

スペインがディフェンス力で2桁リードを奪っては、ドイツがオフェンスを爆発させてリードを奪い返す。シーソーゲームではあるものの、時間帯によってどちらかのチームに流れが明確に傾く準決勝は、ホームのドイツが個人能力の差で押し切るかと思われましたが、終盤になってスペインの試合巧者ぶりが際立ちました。

スターターの戦いでは明らかにドイツに分がありました。30得点8アシストを記録したデニス・シュルーダーのスピードを止めるのは難しく、NBAのスター候補であるフランツ・ワグナーの1on1の強さはユーロバスケでは圧倒的で、アンドレアス・オブストは難しい体勢でも迷うことなく3ポイントシュートを放ち、8本中5本を決めてきました。警戒されていても決めてくるオフェンス力を持つドイツの強さは、ある意味で『分かりやすい強さ』でした。

正面から戦っては分が悪いことを理解したスペインは、後半のスタートからディフェンスに特長のあるアルベルト・ディアズを起用し、シュルーダーへの嫌がらせのような守り方でドイツオフェンスを乱しに行きました。また、ビハインドの状況でもエースのビリー・エルナンゴメスをベンチに置いてまで、素早いヘルプディフェンスでリムプロテクトに長けたウスマン・ガルバを起用し、ディアズが抜かれても見事なブロックショットでカバーしました。特にディアズがプレーした16分間、スペインの得失点差は+25と際立っており、エースキラーのディフェンス力で勝利を引き寄せました。

スペインの強さはスターターとは全く違う特徴を持った選手が出てきても、違和感なくチーム戦術が機能する事であり、その中で各選手の特長が存分に発揮されることです。それまではスイッチディフェンスをしていたのに、相手エースを消すのが仕事のディアズが出てくるとスクリーンがあってもスイッチを避けるようなシステムに変更され、またビリーのようなペイント内での得点能力がないガルバが入れば、フアンチョ・エルナンゴメスを使ってカットプレーと3ポイントシュートを増やすなど、戦術と個性が見事に組み合わさります。スペインが持つ『見えにくい強さ』は相手が強くなればなるほど色濃くなってきます。

さらにリードして迎えた終盤には、1ポゼッションごとに細かく選手交代を行い、一切の妥協がない采配でドイツの反撃を封じ込めました。オフェンスのポゼッションではスティールを狙うドイツに対し、ビリーの高さと強さを使って確実にパスを繋ぐとともにファウルゲームでのフリースローを確実に決め、そのフリースローの2本目が決まると交代でガルバが出てきてイージーシュートを許さないディフェンスを敷きました。

残り36秒の時点でスペインのリードは8点あり、そこまでこだわる必要はなさそうでしたが、ドイツは難しい3ポイントシュートを立て続けに決め、ここから11得点を返しました。終わってみれば妥協なき采配が逆転の芽を摘んでおり、この細かさもスペインの強さであることをあらためて感じさせました。

リッキー・ルビオが不参加の今大会、スペイン代表は際立ったタレントがおらず、しかも37歳のルディ・フェルナンデスから20歳のガルバまで幅広い年齢の選手が集まっており、ガソル兄弟から次の世代へとバトンタッチする狭間のチームになっていますが、誰もが自分の持ち味を明確に発揮することでファイナルまで勝ち上がってきました。育成年代から一貫したチーム作りを進めてきたことで、世代の壁を感じさせることもなく、代表チームとは思えないレベルで『個性の調和』を成し遂げていることが強さの根源になっています。

名将セルジョ・スカリオーロの見事な采配が光った準決勝でしたが、喜びに沸く選手たちを横目にスカリオーロ本人は笑顔一つ見せずロッカールームへと引き上げていきました。スペインの指揮官にとっては、ファイナル進出さえも通過点に過ぎないようです。