マテウス・ポニツカ

「どんな大会にもシンデレラは現れる。今、僕たちがそのシンデレラだ」

ポーランド代表はユーロバスケットのサプライズチームとなっている。グループリーグでは2敗を喫したが、その相手であるフィンランドとセルビアはすでに敗退。今夜の準決勝でフランスに勝てば、ドイツvsスペインの勝者とファイナルで激突する。

準々決勝でルカ・ドンチッチを擁するスロベニア代表を相手にトリプル・ダブルを記録し、勝利の立役者となったマテウス・ポニツカは「どんな大会にもシンデレラは現れる。今、僕たちがそのシンデレラだ」と話す。

「本当に素晴らしい気分だし、自分たちを誇りに思うよ。これはポーランドにとって歴史的な成功だ。ポーランドでバスケはそれほど人気があるわけじゃない。だからこそ僕たちは、何か特別なことを成し遂げたいと思っている」

ユーロバスケットでは1960年代に準優勝1回、2回の3位という結果を残しているが、1967年を最後に入賞から遠ざかっている。オリンピックではメダル獲得の経験がなく、1980年を最後に本大会への出場がない。世界的なバスケ人気の高まりに取り残された自国の状況を、彼らは変えようとしている。

「55年ぶりにメダルを獲得できたら最高だ。メダルを取るだけでもすごいけど、みんな金メダルを夢見ている。でも僕たちは謙虚でありたい。どの試合でも僕たちが勝つとは思われてこなかったんだから」

トリプル・ダブルを記録しても、彼はスタッツを見ていない。「正直どうでもいいよ。トリプル・ダブルがなくても、チームが勝ったら同じだけうれしいんだから。スタッツが何であれ、僕の考えることは同じだ。仲間たちが成長し、チームが勝つこと。そしてバスケをプレーしたい、というのが僕の願いだ」

マテウス・ポニツカ

「今の僕は、何カ月も逃していたバスケの試合を楽しみたいだけ」

今夜の準決勝ではフランスと対戦する。フランスは決勝トーナメントに入ってトルコ、イタリアを破ってベスト4進出を果たしたが、すっきりした勝ち方ができているとは言い難い。「いや、そうじゃないよ」とポニツカは言う。「フランスは間違いなくヨーロッパのトップ4であり、しかも運を味方に付けている。本当に良いチームだし、勝つたびに強さを増している。僕たちは疲れも溜まっているし、本当に難しいゲームになるだろう」

「でも、僕たちはコートに出て戦うだけだ。失うものは何もない」

ただ、彼個人として見た場合、ユーロバスケットで勝ち続けることで見えてくるNBA行きの可能性を失うかもしれない。ポニツカは16歳でプロ契約を得て、17歳で『バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ』のキャンプに参加してMVPになっている。だが、2016年のNBAドラフトにエントリーするも指名を得られず、ナゲッツの一員としてサマーリーグに参加したものの次に繋がるアピールはできなかった。

その後はヨーロッパで多くのクラブを転々とし、それなりの結果は残せても確たる評価は得られず、トラブルに巻き込まれることも多々あった。昨シーズンはゼニトでプレーしていたが、ロシアのウクライナ侵攻が始まると「ロシアを支持するのか」と非難されて退団を余儀なくされた。しかも鼻のケガで満足にプレーできない時期が長く続いてもいる。今の所属クラブはイタリアのレッジョ・エミーリアで、3カ月ごとの短期契約。つまり彼にとってユーロバスケットは、キャリアと生活のためにアピールしなければいけない場だ。

ドンチッチから「間違いなくNBAでもやれる」との褒め言葉をもらったユーロバスケットでの今と、大会後に彼が戻る現実とでは天と地の差がある。彼はカボチャの馬車でアリーナ入りし、ガラスのバッシュでプレーする『シンデレラ』なのだ。

ただ、ポニツカは自分の立つ現実を見失ってはいない。「僕はNBAどころかユーロリーグでプレーする選手でもない。NBAでも活躍できると言われても、正直ピンと来ないよ。高いところにありすぎて期待すらしない。今の僕は、何カ月も逃していたバスケの試合を楽しみたいだけなんだ。自分がどこにいるべきなのか、これからどうなるのか、そんなことは考えずにただ楽しみたい」