統率されたチームプレーに、指揮官が魂を注入
ユーロバスケットのベスト16で、ニコラ・ヨキッチを擁する優勝候補のセルビアがイタリアに86-94で敗れた。ネームバリューからすればアップセットだろうが、内容はイタリアの完勝だった。
イタリアは前半多くの時間帯で2桁のビハインドを背負いながら、前半を45-51でしのぐとともに相手の攻めを学んでいた。その効果が第3クォーター後半から出て、ディフェンスのローテーションがセルビアの攻めに完璧にアジャスト。ズレを作られても瞬時に修正してシュートチャンスを与えない。ヨキッチに対しては個人ファウルの数がかさまないようシェアしながらファウルで止め、フリースローは与えてもイージーバスケットを与えず、ヨキッチがさばくパスを狙ってアシストも簡単には与えなかった。
ディフェンスの向上はオフェンスにも良い影響をもたらした。イタリアは速攻でセルビアを振り回し、ファストブレイクで確実な2点ではなく3点を狙う作戦に選手たちが応え、高確率で3ポイントシュートを沈めていく。マルコ・スピッスが3本連続で3ポイントシュートを決め、一気に差を詰めて逆転に持っていった。
この時点ではまだセルビアに余裕があり、2点リードで迎えた第4クォーター序盤、勝負どころはまだ先と見てヨキッチをベンチで休ませたのだが、結果的にこの判断が失敗だった。すでにヨキッチの打開以外にセルビアには有効な攻め手がない状況で、イタリアのディフェンスにつかまってはブレイクを食らった。イタリアもエースのシモーネ・フォンテッキオを休ませていたが、こちらは個人に依存する部分が少ない。スピッスがここでも3ポイントシュート連発にスティールからの速攻と大暴れ。第4クォーター開始から3分半で13-2のランで、試合の流れは一気にイタリアへと傾いた。
9点差でヨキッチがコートに戻るが、その最初のシュートをニコロ・メッリがブロックして速攻に繋ぎ、アキッレ・ポロナーラの3ポイントシュートで点差を広げる。ヨキッチはファウルを受けながらディープスリーを決める4点プレー、2人がかりのディフェンスをモノともしないバスケット・カウントとMVP級のパフォーマンスを見せるが、それぐらいのクラッチプレーでないとイタリアのディフェンスをこじ開けられず、セルビアの得点は伸びなかった。残り1分46秒、フォンテッキオがブロックショットを決めてそのまま走り、バスケット・カウントをもぎ取る。このボーナススローを決めた時点で12点差となり、勝負は決した。
スピッス「コーチの退場が僕たちの心にある何かを揺さぶった」
ヨキッチは32得点13リバウンドを記録したものの、アシストは4と伸びず。イタリアはここを抑えたことで勝機を見いだした。セルビアにとっては、ヨキッチがコートに立っていた28分半の得失点差は+11で、ヨキッチで押し切らなかった采配が悔やまれる。
イタリアの勝利にはもう一つの背景がある。ヘッドコーチ、ジャンマルコ・ポッチェッコの退場だ。コートサイドで大きな身振り手振り、そして叫び声で選手とともに戦う指揮官は、第3クォーター途中に2度目のテクニカルファウルで退席処分を受けると、選手スタッフの全員と熱いハグを交わした後にコートを去った。
3ポイントシュート6本成功でイタリアに流れを呼び込んだスピッスは「コーチの退場が僕たちの心にある何かを揺さぶった。『俺のために勝て』と言われたよ。僕たちは一丸となって彼の言葉を遂行しようとした」と言う。統率されたチームプレーに、ポッチェッコが魂を注入した結果が、第3クォーターに追い上げ、第4クォーターに一気に突き放す展開を生んだ。
ポッチェッコは試合後にこう語っている。「バスケはどんな試合であろうとチームで戦うものだし、それぞれの戦う気持ち、プレーする喜びを互いに高め合えば何だってできる。今回、我々は世界を驚かせた。イタリアバスケットボールの歴史に残る試合ができた。少なくともアテネオリンピックの準決勝以来のことだと思う。いや、それ以上かもしれない。全員がベストを尽くし、今のバスケ界におけるベストチームを倒したんだからね」
そのポッチェッコは試合終了間際、チームの勝利を見届けるために通路から出てきて、警備員とともに彼に気付いた選手に引き留められている。勝った瞬間は誰よりも大きなガッツポーズを見せた。彼は自分を止めに来た人数を「12人ぐらいだったかな」と笑い飛ばしたが、これで追加の処分が科される可能性がある。そうでなくともカンフル剤は何度も使えば効き目が薄れるもの。準々決勝の相手はフランス。勝ち上がるには今回以上に質の高いプレーを見せる必要がある。