RJ・バレット

粘り強い交渉でジャズの譲歩を引き出す戦略が裏目に

ドノバン・ミッチェルはニックスへの移籍を望んでいるとの報道があった。それでも、ジャズからキャバリアーズへのトレードが成立し、ダリアス・ガーランドやリッキー・ルビオによる歓迎のツィートへのレスを見れば、NBA6シーズン目を迎えての新天地がキャブズであることに嫌な感情は持ち合わせていないようだ。

このトレードではニックスが出し抜かれた形となった。若きエースのRJ・バレットだけでなくクエンティン・グライムズをトレード要員に加えるかどうか、また1巡目指名権をいくつ出すかでジャズとの交渉が折り合わなかった。

ニックスのレオン・ローズ球団社長の誤算は、競合相手の存在を見落としていたことだ。ルディ・ゴベアの放出で味をしめたジャズが再び過大な見返りを求めて、ライバルはいないと決めつけていた。ジャズはゴベア放出の時点で再建へと舵を切り、ミッチェルを残す意味はないため、粘り強く交渉していれば譲歩を引き出せると考えていたのだろう。そこをキャブズに出し抜かれた。

ミッチェルは来週に26歳とまだ若いが、すでにプレーオフチームのエースとしての実力は証明済みで、しかも契約は2026年まで残っている。これだけの選手がトレード市場に出てくることはまずない。すでに優勝を狙えるロスターを持つチームであれば見送るにせよ、これから上位にステップアップしようとするチームにとっては見逃せないタレントだった。ニックスもキャブズも有望な若手は揃っており、もう下位に甘んじていられないとなれば、若手を引っ張ってチームを勝たせるスター選手が必要だった。

ミッチェルのキャブズ移籍決定の一報に世間がざわついたまさにその時、ニックスのローズ球団社長は契約延長したばかりのバレットについて声明を発表している。「チームのコアとなるバレットとの契約延長を発表できて興奮している。まだ22歳だが、常に自分を高め、攻守への貢献を示してきた。彼の情熱と努力があれば、今後もさらに向上していくだろう。我々はRJのような価値観と才能を持った選手を中心に据えて、チームを高めていきたい」

ミッチェルのキャブズ移籍が決まった以上、ニックスとしてはトレード要員だと散々報じられたバレットの価値を再度アピールし、信頼を強調するしかない。一連の動きをバレットはどんな思いで眺めているのだろうか。

バレットが才能ある若手であることは間違いないし、手元には将来の1巡目指名権も残った。これがニックスの将来に大きなプラスとなる可能性はある。だが、ジュリアス・ランドルをチームの柱に、バレットをエースに据えるチームでは、昨シーズンは37勝しか挙げられず、プレーイン・トーナメント進出さえ逃した。そんな低迷がもう長く長く続いている。今回の決断が正しかったどうかは、数年後の結果を見るしかないが、チームを劇的に変える機会をあえて見送るのが正しかったのかどうか、それは疑わしいと言わざるを得ない。