ロレンツォ・ブラウン

スペインでのプレー経験がない選手の招集に反発する声も

スペイン代表はパウとマルクのガソル兄弟に代表される『黄金世代』に、2006年のワールドカップ優勝から長く支えられてきた。レジェンドのファン・カルロス・ナバーロが2018年夏に引退した後も、黄金世代は2019年のワールドカップ優勝を達成している。それでも、東京オリンピックでベスト8に終わると、これを機に多くのベテランが代表引退を選択した。

スペイン代表がタレント豊富な強豪であることは変わらないにせよ、常にチームに揺るぎない核が存在したこれまでとは違う苦労がチーム作りには出てくる。今回はリッキー・ルビオのような経験豊富なリーダーがケガで参加していない影響も重なる。指揮官セルジョ・スカリオーロは「ベストプレーヤーを8人も9人も欠いて戦えるチームは、アメリカ以外にどれだけあるだろうか」と苦笑交じりの皮肉を語っている。

そんなスペインが、ロレンツォ・ブラウンを招集する奇策に出た。ブラウンは間もなく32歳になるポイントガード。アメリカのジョージア州で生まれ育ち、2013年のNBAドラフトで52位指名を受けている。Gリーグでは2018年にMVPを受賞するなど注目されたが、NBAではチャンスを生かすことができずに海外へと活躍の舞台を移し、今はマッカビ・テル・アビブでプレーしている。

セルビア、トルコ、ロシアを経て今はイスラエルのチームでプレーしているが、スペインで暮らし、プレーした経験はなく、スペイン語も満足には話せない。スペインのパスポートは持っていても、スペイン代表との繋がりとして挙げられるのはラプターズに所属した時期にスカリオーロの指導を受けたことぐらい。その反発は大きく、スペインの選手会は「彼の招集は、代表選手にとって非常に有害なメッセージになる」との声明を発表している。

ブラウン自身は「僕はそれには関与したくない」と前置きして「パウやマルクのような選手がプレーするこのチームをずっと見てきた。このユニフォームを着てプレーすることを誇りに思う。僕がベストを尽くすことでチームが向上する、それが一番大事なことだ」と語っている。

自分を歓迎しない雰囲気があることは理解しながらも、ブラウンはネガティブな影響を受けることなくプレーでスペイン代表を引っ張っている。それでもテストマッチでは4戦でわずか1勝、リトアニアとの試合では決まれば逆転だったシュートをブラウンが決めきれずに敗れた。今はまだ様子見だが、スペイン代表が結果を出せなければ批判の槍玉に挙げられるのは間違いない。

だが、これはブラウンが、スカリオーロが、そしてスペイン代表が乗り越えなければならない試練だ。信頼は勝つことでつかみ取る以外にない。

スカリオーロは言う。「ロレンツォはチーム合流初日から謙虚な姿勢で、無欲に働き、一生懸命にプレーしている。ルディ・フェルナンデスを始め選手たちはみんな、そんな彼をサポートしている。このチームは何年も同じシステムでプレーし、選手はU16、U18、U20から上がってきている。このメンバーとプレーしたことがないロレンツォにとって適応は簡単ではない。だが、彼は良くやっている。きっと上手くいくと信じているよ」