城宝匡史

取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

富山グラウジーズの絶対的なスコアラーだった城宝匡史は36歳のベテランになり、新潟アルビレックスBB、ライジングゼファーフクオカと渡り歩く中で、少し落ち着いた選手になろうとしている。「何歳になっても成長したい」と語る城宝は、Bリーグの時代に勝つためにそのスタイルを変え、それでもバスケへの情熱と勝利へのこだわりは変えることなく、昇格組である福岡の力になるために「今自分に何ができるか」を追求している。

「勢いのあるチームに貢献するチャンスをもらえた」

──まずは福岡への移籍を決めた理由を教えてください。

2年連続昇格でB1まで上がって来た勢いのあるチームに、ベテランとして貢献するチャンスをもらえたからです。オファーも早い段階にいただいたので、ここで挑戦したいとすぐ決めました。昨シーズンもB2から昇格してきた西宮ストークスも島根スサノオマジックも苦戦したし、福岡にとっては大きな挑戦です。チャレンジャーの勢いでやる必要があるとは思います。

──新潟アルビレックスBBで過ごした昨シーズンはどんな1年でしたか?

新潟はちょっと特殊なチームで、ダバンテ・ガードナーというものすごいスコアラーが中心で、彼にどう合わせるかを常に考えなきゃいけなかった。そこが他のチームとは違うスタイルでした。でもそれがすごく良い経験になったし、勉強にもなった1年でした。

五十嵐(圭)さんのように自分よりも年齢が上のベテランがどうシーズンを過ごしているのかを間近で見て、良い刺激がもらえました。五十嵐さんは身体のケアがすごいんですよ。あの年齢であそこまで動くにはケアが必要なんだなって。練習での取り組みもすごく几帳面で、練習も試合も同じルーティーンで入ったりだとか、自分も集中しやすくする上で参考になりました。日本代表の話もたくさん聞かせてもらって。ヘッドコーチの庄司(和広)さんの経験談を聞けたりだとか。そういうのはすごく面白かったです。

──Bリーグになってからの2年間、富山と新潟での城宝選手はケガに苦しんでいます。

本当に運が悪いと思うのは、全部左手ってことです。ただ、ひざや足首は何の問題もないので、動きに影響がないのは幸いかなと。ケガがある中でも我慢しながら試合には出ていたし、またベンチから客観的にゲームを見るのも良い経験になったと思っています。それまではケガをあまりしたことがなかったので、ベンチにいる時間はイライラしたし(笑)。

でもそれは今も変わらないですね。ずっとコートに立てるなら立ちたいという気持ちはあります。選手なら誰でもそう思うものですけど、昨シーズンの圭さんを見ていても、あの年齢で35分ぐらい出る試合が結構あって、ただプレータイムが長いだけじゃなく、それだけ中心選手としての信頼を得ているのを見てきました。だから自分もこのチームで結果を出して、プレータイムを伸ばしていきたいと思っています。

──今の指はどんな感じですか?

手術してもう4カ月ですけど、靭帯を再建しているので100%というのはやっぱり難しいです。正直なところ指は心配ですよ。当たったら痛いですし。ただでさえターンオーバーが多い方なのに、左手のせいでさらに増えたら嫌だなと、左手でプレーする時は慎重になります。でも最初よりはかなり良くなっているし、身体はもういつ開幕しても良いぐらいに仕上げています。

城宝匡史

「今チームに何が必要かを考えることがすごく大事」

──福岡ではどんなプレーで貢献していくつもりですか?

昨シーズンはダバンテと圭さんが中心の新潟にいて、そこでチームにどう貢献できるか考えるのには慣れたつもりです。だからチームのバランスを考えて、ベテランらしく落ち着いたプレーをしようと思っています。

──自分がエースとしてチームを勝たせる、というつもりはない?

自分の調子が良ければ、そういう試合もあるとは思いますよ。でも、Bリーグが始まった時からサポート役という感じです。このリーグでは一人では絶対勝てないので、そこは考えますよ。Bリーグになってディフェンスの強度がすごく高くなって、そこで一人で何も考えずにシュートを打っても絶対に勝てない。それはBリーグ1年目の富山で分かったことで、自分がそれを理解するようになってチームが勝ち始めました。ベテランらしくゲームの流れを読んで、今チームに何が必要かを考えることがすごく大事であって、みんながそう考えれば勝てるということを学びました。

サポート役に回って、チームに必要なことを自分がやる。それぐらいの感じが良いとは思うんですけど、そうも言ってられない状況かもしれない。アーリーカップとプレシーズンでちょっと苦しんでいるので。でも、厳しい状況は予想できたことだし、ここで自分一人が変わっても仕方ないので、みんなで考え方を変えていかないと。「B1で勝てないかもしれない」という危機感を全員が持つことです。感覚でやっていたら絶対に勝てないのがB1なので。

──昇格組が簡単に勝てるほどB1は甘くないという状況は分かりますが、では福岡は具体的に何をすることで浮上できると考えますか?

単純に悪いシュートを増やさないことが一番です。グッドショットを選んで、しっかりシュートを打ち切ること。プレシーズンではターンオーバーがすごく増えているので、1試合10ぐらいには抑えたいですね。もちろんディフェンスも大事ですけど、今はオフェンスが回っていないのが課題です。良いシュートセレクションを作る、オープンを作るにはみんなが考えてバスケットしなきゃならない。それが一番大事ですね。キーマンを挙げるとしたら山下(泰弘)と津山(尚大)。このチームにどう合わせていくかはポイントガードの仕事なので。

──城宝選手もポイントガードをやっていた時代があります。その経験から言えることは?

富山では5シーズン、一応ポイントガードをやっていましたが、今このチームで僕がポイントガードをやることはないので、自分の仕事に集中しようと思っています。でも、自分がこのチームに来たからには、もうちょっと自分の経験からチームを変えたいという思いもあります。グッドショットを選ぶにはいつシュートを打つかだけじゃなく、どの選手にパスを出すか、スペーシングも大事です。この選手にドライブさせるためにスペースを空けようとか、みんながもっと共通認識を持ってプレーするために自分に何ができるかは考えています。

城宝匡史

「シーズンを通して成長して、強いチームになっていく」

──ここまでの話を聞いていると、どうもベテランになって丸くなった印象を受けるのですが、「ここは負けない」という部分は変わっていないわけですよね?

そうですね。やっぱりシュートは自信を持って打てているので。昨シーズンも1試合で3ポイントシュートを10本決めた試合があって、そこには自信があるので本当はリーグ記録を狙っていきたいぐらいですね。

──リーグ記録は富樫勇樹選手の11本なので、12本決めれば記録更新ですね。それはさておき、個人的なシーズンの目標はどこに置きますか?

3ポイントシュートは40%、2点シュートは50%、フリースローは80%。毎シーズンこれを目標にしています。でも一回もクリアしたことがない(笑)。フリースローで80%を超えることはあっても2点が難しいです。でもクリアしたいですよね。

あとは数字じゃなく、年齢を重ねても成長したいという気持ちはずっと持っています。だから今も左手のケガを抱えていますが、そことは関係ない下半身はきっちり作っています。ダメだったところを反省して、そこを修正するためにどんなトレーニングをして、どんなプレーをするかはすごく考えています。単純に練習が好きなんですけどね。ほぼ趣味です。休みの月曜にもシューティングはしたいし、身体にキレがなければトレーニングしたくなるし。キツいですけど、食事制限も全然苦にならないんです。

──身体はかなり引き締まっています。オフでも太ったりしませんか?

始動の時点では体脂肪が9%だったんですけど、今は7%ですね。7%より下げたことがないので挑戦してるんです。こういうプレーがしたいという目標もあるし、単純にいつまでたっても腹がボーンと出るのは嫌だなって(笑)。だから引退してもトレーニングはやるでしょうね。

歳を取ったから足が遅くなったとか跳べなくなったとか言われなくないじゃないですか。1年に1回ぐらいはダンクしたいですよ(笑)。今はまだできていないですけど、昨シーズンはアップで1回ダンクできるぐらいには跳べてました。

──最後に今シーズンに向けた抱負とファンへのメッセージをあらためて聞かせてください。

僕のプレーを見たことがない人も多いと思うので、まずは36歳にはちょっと見えない容姿に注目してください。特に肩の筋肉を見てほしいです。体脂肪がないので結構カットが入ってきたので。ふざけてますかね?(笑)

でも、実際は挑戦者の気持ちで、B1に挑むことに危機感を持って一日一日を大事にして戦っていきます。プレシーズンはケガ人も多くて万全の準備ができたとは言えない状況で、開幕したら苦しい試合も多いと思いますが、シーズンを通して成長して、強いチームになっていくことを目指します。もちろん、福岡のブースターの皆さんには一つでも多く勝ち試合を見てもらって、喜んでもらいたいです。チーム一丸で全力で戦って、みんなで勝って会場を盛り上げます。