「この1シーズンがお前たちのキャリアになるんだ。これでいいのか」
三遠ネオフェニックスは、2月に入った時点で4勝24敗とリーグ下位に沈む状況を受けて、ヘッドコーチのブラニスラフ・ヴィチェンティッチを休養させた。昨シーズンから三遠の指揮を執ったヴィチェンティッチだが、新型コロナウイルスによる入国制限により合流が遅れたことが響き、5勝36敗でリーグ最下位だった2019-20シーズンからはいくらか上積みする12勝47敗という成績に。2年目の今シーズンも特にインサイドの駒が揃わず苦戦が続き、今回の指揮官交代となった。
今後の指揮を託されたのは清水太志郎だ。それでも、指揮官交代のショック療法で連敗から抜け出せる甘い世界ではない。清水がヘッドコーチ代行となってから、2日には群馬クレインサンダーズに、先週末は琉球ゴールデンキングスに、3試合いずれも失点が100を超える大敗を喫している。
もっとも、外国籍選手にケガが相次ぐ状況では仕方ない面もある。ポジティブな変化に目を向ければ、大敗続きではあっても試合ごとに内容は良くなっている。特に日曜の琉球との第2戦は、最後は力尽きて引き離されたが、西地区でぶっちぎりの首位を走るチームを相手に粘りのバスケを展開。チーム一丸となって戦う姿勢は、これまでの三遠に見られなかったものだ。
清水は試合後の会見で、この変化について「昨日の試合から反省して、トライする部分を絞りました」と話す。
「急にヘッドコーチ代行になったのですが、練習ができずに新しい戦術を入れられる状況ではありませんでした。そこでとにかく一つになって戦おう、プレッシャーを掛けよう、それも自分たちからまず一歩を出そう、と求めました。上手く守ろう、ドライブを止めようではなく、抜かれてもいいから足を一歩、気持ちを一歩前に出そうとやってきました。3試合とも100点ゲームは恥ずかしい内容ですが、少しずつ選手がやってくれるようになったと感じます」
土日で33点差と28点差の大敗だから反省点は多い。「琉球に攻め込まれると自分たちを信じられなくなり、簡単なミスから綻びが出ました。ただ良かったのは、自分たちで決めた目標に対する達成度で良い場面が昨日より見られたことです」
「どんな状況でもエナジーを持って戦うチーム、そう思ってもらいたい」
B1ではここ2シーズン、新型コロナウイルスの影響で降格をなくし、B2からの昇格だけを受け入れているためにチーム数が22にまで膨れ上がっている。チームごとの戦力差は広がるばかりで、最下位の三遠と首位の琉球ではチーム力に大きな差がある。しかも今回の対戦ではコンディション面でも琉球が完全に優位にあった。三遠としては粘って均衡した状況を作るので精一杯。それ以上に押し返す力はなかった。
こんな状況が続けば、戦うモチベーションを失っても不思議ではない。今シーズンも降格はないため、B2陥落を恐れる必要はない。しかし、清水にそれを許すつもりはない。「最下位だと個人にもチームにもいろんな言い訳を探してしまうものです。ですが、(ジャスティン)ノックスが戻って来る予定でフルメンバーが揃うことになるので、言い訳はできません。選手たちには『これまでのキャリアは関係ない。この1シーズンがお前たちのキャリアになるんだ。これでいいのか』と伝えています」
厳しい言葉を投げ掛けるとともに、チームに良い兆候があることも清水は見逃していない。「厳しい状況ですが、田渡(凌)と山内(盛久)がチームを明るくしています。ガードの2人が雰囲気を作ってくれることで、若手の津屋(一球)も、ベンチ外だった常田(耕平)も先輩に臆することなくロッカールームで発言してくれています」
「三遠はどんな状況でもエナジーを持って戦うチームだ、ファンの皆さんにそう思ってもらえるチームにしようと選手たちには伝えています。ファンの皆さんにはそういう選手たちを後押ししてほしいし、だらしないゲームをした時には叱咤激励をいただきたい。ファンの皆さんがいるから自分たちがいる。そういった意識の面も変えていきたいです」
逆転でのチャンピオンシップを狙える状況ではなく、降格もないとなれば、シーズン終盤戦は目標のないまま戦うことになる。ただ試合を重ねて5月まで漠然と勝ったり負けたりを繰り返すのでは、今後に繋がるものは何もない。そうなることを避け、来シーズン以降に繋がる何かを三遠に残すために、清水はヘッドコーチ代行としてその手腕を振るう。