彼の原動力は『怒り』から『周囲の信頼』へと変化
ニックスとホークスの一戦は、序盤こそニックスが2桁前後のリードを保ったものの、後半に入って追い付かれ、終盤は1ポゼッションから2ポゼッション差で推移する大接戦に。昨シーズンまでのニックスであれば、勝負どころで運動量が落ちてしまったり、ミスで自滅したり、とにかく勝ち切れない悪癖が出ていたはずだ。
しかし、このゲームでは違う展開となった。勝負どころでニックスを牽引したのはジュリアス・ランドルだ。107-104と3点リードで迎えた最終クォーター残り4分半から、9得点1アシストを記録。ホークスを突き放す123-112の快勝へとチームを導いた。7本の3ポイントシュート成功を含むフィールドゴール22本中14本成功の44得点、さらには9リバウンド5アシストを記録している。
2014年のNBAドラフトで1巡目7位指名を受けてレイカーズに加入したランドルだが、アスリート能力は高くても技術不足、精神的に脆いとの評価を受けていた。レイカーズでの4年間、ペリカンズとニックスでそれぞれ1年を過ごしたが、悪いレッテルは簡単にはがせなかった。結局のところ、チームが勝てないと個人の評価は付いてこないのだろう。ランドルは常にタフに戦い、スタッツも残してきたが、ここに来て評価を上げているのは彼のプレーがチームの勝利に結び付いているからだ。
昨シーズン、『バブル』でのシーズン再開に呼ばれたのは22チームだけ。ニックスは除外されたチームの一つだった。ランドルはコートに立つ資格を与えられなかったことに「腹が立った」と言い、今シーズンに見返すべくトレーニングに励んだ。このホークス戦を終えた会見でも、「僕は多くの人に見捨てられていて、それがモチベーションになった」と言う。
しかし、状況は変わりつつある。ニックスはこれでシーズン3度目の3連勝で、14勝15敗で東カンファレンスの6位に位置している。29試合中21試合でランドルはチームトップの得点を稼ぎ、24試合でチームトップのリバウンドを記録。36.6分のプレータイム、22.4得点、11.1リバウンドはすべてチーム最多で、なおかつキャリアハイの数字だ。
これまで彼を突き動かしていた『怒り』は薄れてきているが、彼は新たなモチベーションを見いだしている。「これは驚くべき感情なんだけど、みんなの信頼を感じている。どの試合でも僕は、できる限りリーダーシップを発揮してみんなを引っ張りたいと思ってコートに出ているんだ」
今、ニックスとその周辺ではランドルをオールスターに出場させよう、との機運が高まっている。RJ・バレットは試合後の会見で、「彼はすでにオールスターだ」と発言。指揮官のトム・シボドーも「彼の勝利に対するインパクトがもっと認められることを願う」と語った。もっとも、いつもは厳しい表情を変えずに戦況を見つめるヘッドコーチが、接戦だった試合のラスト1分を悠々と迎える展開になって、喜びと興奮を隠せなかった。その表情こそが、ランドルへの最も分かりやすい評価だろう。
ランドルは言う。「僕はこのリーグに入る時に、オールスター選手になるという目標を立てた。実現したら大きな栄誉だし、家族は大喜びするだろうね。でも、僕はチームの勝利を第一に考えていくよ」