ニック・ケイ

「毎試合そうやって支えてもらっているんだ」

9月13日、島根スサノオマジックは今シーズン初めてのプレシーズンゲームを松江市総合体育館で行い、大邱韓国ガス公社ペガサスと80-80で引き分けた。立ち上がりは相手の勢いに押されて前半を29-46で折り返すも、後半は見違えるようなパフォーマンスを披露した。今オフに選手が大きく入れ替わった島根は、指揮官ポール・ヘナレによれば「まだ選手同士でどんなバスケをやりたいのか探っている」段階。それでもペースが上がってトランジションの意識も増し、新たな帰化選手エヴァンス ルークを加えた『走れるビッグラインナップ』が強みになりそうだ。

長らくエースとしてチームを引っ張ったペリン・ビュフォードの退団でチームに変化は避けられない。ただ、このチームの精神的支柱であるニック・ケイは残留し、これで在籍4シーズン目を迎える。Bリーグでは移籍が盛んで、特に外国籍選手が一つのチームに長く在籍することはそう多くない。

ケイならBリーグの他のチームで、あるいはどこか別の国でも必要とされるし、どこであろうとその攻守に渡る貢献とプロフェッショナル精神でリスペクトを勝ち取るだろう。ただ、彼はこのチームに特別な愛着を抱いており、それをこんな言葉で説明する。

「日本に来たのは島根が僕を誘ってくれたから。クラブはもちろん島根の人々も僕と僕の家族をすごく大切にしてくれる。こうした愛情を示してくれる人たちのために僕は全力を尽くしたいし、優勝を争うようなレベルの高い戦いをすることが恩返しだと思っている」

この試合でもベンチから彼がコートに送り出されると、客席からは一際大きな歓声が上がった。彼がフリースローを放つ際、集中をうながすためにスタンドは静まり返るが、フリースローが決まるとMCがコールする「ニック!」にファン全員が「ケイ!」と声を合わせる。ケイは「毎試合そうやって支えてもらっているんだ」とうれしそうに話す。

「日本のバスケファンはいつも素晴らしいけど、島根のファンの皆さんは特にそうだと思う。本当にどこに行っても挨拶してくれたり、ハイファイブしたり。オンコートでもオフコートでも支えてもらっている」

ニック・ケイ

「まずは日々努力しながら成長していきたい」

この夏にケイは32歳になったが、身体的な衰えは感じさせない。パリオリンピックでもオーストラリア代表の主力として攻守を支える堅実なパフォーマンスを見せた。オーストラリア代表は『死のグループ』を突破して決勝トーナメントに進出したものの、準々決勝で延長の末にセルビアに敗れている。「チームは高い目標を掲げていたし、僕個人も同じような目標があったから、望むような結果を残せなかったのは悔しい」とケイは語る。

彼がマッチアップしたのは世界のスーパースターたちだ。特にセルビア戦ではNBAで2度のMVPを受賞しているニコラ・ヨキッチと渡り合った。「僕はヨキッチが好きで、素晴らしい選手だと評価している」と彼は言う。「実際にマッチアップすると非常にタフで、自分の好きなスポットに自由自在に行ける感じだった。最後にステップバックのシュートを決められたのがすごく心残りで、当分の間は忘れられないだろうね」

彼はパリオリンピックを終えると2週間は完全にバスケから離れて心と身体をリラックスさせ、Bリーグでの新たなシーズンに向けた準備に入った。「まだコンディションは整えている段階だけど、自分の心に火をつけてどんどんコンディションを上げて仕上げていくつもりだ」

東京オリンピックが終わった2021年に日本にやって来た彼は、この3年間でBリーグと日本バスケのレベルが上がっていくのを肌で感じてきた。「観客数も増えて、僕たちのホームゲームはほぼ毎試合が満員だ」

「日本のバスケの成長はただ外国籍選手によってもたらされているのではなく、日本人選手たちもレベルアップしている。国際大会で見ていても、日本の頑張りは明らかだよね。そのことに僕個人も興奮しているし、その中でバスケができることをうれしく思っている」

彼が来てからの島根は常にタイトル争いのできるポテンシャルを持っているが、いまだ優勝には手が届いていない。ここ2年は琉球ゴールデンキングス、広島ドラゴンフライズと地方のクラブの初優勝が続いており、島根はそれに続こうとしている。ケイもまた、勝つことに意欲を燃やす。「今シーズンはメンバーが大きく変わり、戦い方も大きく変わる。そこでたくさんの課題が出てくるし、今は試行錯誤の段階。このままでは優勝争いは語れないけど、まずは日々努力しながら成長していきたい。それが後になって優勝という結果に繋がればうれしいね」