チャド・ブキャナンGM「長期的な視野に立ち、成長と進歩を見たい」
ペイサーズは昨シーズンを35勝47敗、東カンファレンスの10位で終えた。タイリース・ハリバートンが軸となり、若手を成長させながら毎年着実にステップアップしたいチームにとって、プレーイン・トーナメントを経験できなかったのは残念な結果だった。
それでも今オフは、チームの基盤を残したままナゲッツからブルース・ブラウンを、ニックスからオビ・トッピンを補強。そして最大のポイントだったハリバートンの契約延長に成功している。ただ、オフはまだ終わっていない。バディ・ヒールドとの契約延長交渉はまとまらず、トレードの可能性を探ることになった。
トレーニングキャンプ開始を翌週に控え、チャド・ブキャナンGMが会見を行った。「バディと我々の関係は決して悪くないが、バスケットボールのビジネスは当然絡んでくる。契約延長の話は止まっているが、終わったわけじゃない」とブキャナンGMは言う。「我々は彼のことが大好きで、今シーズンも残ってほしいと思っている。それと同時に、他のチームの意見を聞くのも私の仕事で、チームを向上させる機会があるならやらなければならない。チームにとってもバディにとっても正しい選択肢を見つけたい」
ブキャナンGMが言うように、ヒールドとの関係はいまだ良好なのだろう。ヒールドはこれまでも、移籍の噂が絶えない中でペイサーズのために良いプレーを続けてきたし、今回もトレードを要求しているわけではない。来年夏に完全フリーエージェントになるタイミングで、自分の可能性を知りたがっているだけだ。
2024-25シーズンからはハリバートンのマックス契約がスタートする。その後に続くタレントを引き留める意味でも、ペイサーズにはヒールドに大型契約を提示する余裕がない。そしてペイサーズはいまだ勝てるチームではない。ブキャナンGMは言う。「新しいシーズンを迎えるにあたり、勝利数などの目標を掲げたくはない。長期的な視野に立ち、成長と進歩を見たいんだ。最終的には優勝争いのできるエリートチームになりたいが、それはすぐに実現するものではない。そのステップを飛ばしたくない」
この状況でヒールドが新たな可能性を求めるのは当然だろう。昨シーズンの3ポイントシュート成功率は42.5%で、200本以上を決めた選手では42.7%のステフィン・カリーに次ぐ数字だ。3ポイントシュートとフロアスペースが重視される今のNBAで、ヒールドに興味を持たないチームはいない。
ここまで彼の移籍が決まらなかったのは、ジェームズ・ハーデンにデイミアン・リラードのトレード要求でどのチームも『様子見』に入ってしまった今オフの特殊性がある。加えてペイサーズが積極的に彼を放出しようとしなかったこともある。いずれにしても、30歳と働き盛りのシャープシューターである彼が魅力的な戦力なのは間違いないが、多くのチームがロスターをほぼ固めたこのタイミングでは手が出しづらい。来年2月のトレードデッドラインまで待てば、優勝争いに大きな影響を与えるラストピースとなる。そこでのトレードがより現実的だろう。
ペイサーズにとっても、ヒールドは残す価値がある。他のチームがヒールドを熱心に欲しがるなら別だが、そうでなければ今のチームにフィットしている彼を残し、チームの勝利に貢献してもらったほうがプラスだ。ペイサーズの狙いは若い選手の成長で、ヒールドはそのお手本になれるし、再び勝てないシーズンを送る経験よりも、カンファレンス中位に食い込んでプレーオフを意識しながら戦うほうが若手には良い経験になる。
契約が残り1年となったヒールドを手元に残すことは、来年オフに何の見返りも得られずに出ていかれるリスクがある。それでも、ヒールドのポジションを埋める選手はいても、3ポイントシュートの能力で彼の穴を埋められる選手はペイサーズにいない。新たなシーズンを迎えるこのタイミングでヒールドを手放すことは、「勝ちをあきらめる」とフロントが宣言するようなもの。若いチームの意欲を高く保つために、それはあってはならないことだ。