「出てくる選手全員がディフェンスにフォーカスして、守りきれたのがすごく大きかった」
オーストラリア・シドニーで開催中の『FIBA女子アジアカップ2023』。女子日本代表はグループリーグ最終戦で地元のオーストラリアと対戦した。出だしこそ劣勢に立たされたが、ベンチメンバーを中心にタフな守備で流れを引き寄せると、33本中17本成功した持ち味の3ポイントシュートが爆発。WNBAに所属する多くの主力とヘッドコーチを欠いたとはいえ、世界屈指の強豪国であるオーストラリアに91-66と圧勝した。日本はこの勝利でグループリーグ1位とベスト4進出を決め、上位4チームに与えられる五輪最終予選(OQT)への出場権を獲得した。
この試合、日本は第1クォーターこそ15-21とリードを許したが、第2クォーターに29-11のビッグクォーターを作り、これが大きな勝因となった。猛攻の立役者となったのは山本麻衣で、第2クォーターだけで4本の3ポイントシュートを決めた。第3クォーターには3ポイントシュートを警戒する相手に対し、ゴール下へのドライブを決めるなど変幻自在のオフェンスを披露した山本は、試合全体で3ポイントシュート9本中5本成功を含む19得点5アシストの大活躍だった。
高確率でシュートを沈めるなどオフェンス面が目立った日本代表だったが、山本は「出てくる選手全員がディフェンスにフォーカスして、守りきれたのがすごく大きかったと思います」と、堅守がもたらした勝利と振り返る。
そして、圧倒的な存在感を見せた自身のパフォーマンスについても、特にシュートタッチが良かったなど、普段との違いを感じることはなかったと続ける。「出だしはターンオーバーがあったり、シュートも全然入らなかったです。でも、それを気にすることなく、状況判断をしっかりすることを意識しました。『調子がいい』などと考えてしまうと逆に力んで入らなくなってしまうので、そこは気にせず自分のタイミングで打つだけでした」
3ポイントシュート爆発「隙ができて打てるのは分かっていたので、狙っていきました」
この適切な状況判断は、山本がよく自身のやるべきこととして強調する部分だ。この試合に関していうと、オーストラリアのディフェンスの連携不足を見逃さずしっかり長距離砲を打ち切ったことが大きかった。
山本は語る。「オーストラリアはディフェンスでスイッチしてきましたが、最初の方はアグレッシブに前に出てこなかったです。それで隙ができてシュートを打てるのは分かっていたので、狙っていきました。前半にシュートが入ったことが生きて、後半はドライブで崩せるようになりました。これからもうまく使い分けていきたいです」
この試合、山本は今大会がFIBA公式戦デビューとなった星杏璃とのガードコンビでオーストラリアを翻弄した。ボールハンドリングに優れ、司令塔の仕事もこなせる星との共存について山本も手応えを得ている。
「杏璃はディフェンスもすごく頑張ってくれますし、オフェンスでは合わせもできるのでやりやすいです。ディフェンスで前からのプレッシャーを任せることで、自分がオフェンスにより専念できる部分もあります。それに、杏璃はディフェンスリバウンドからのプッシュもできるので、彼女がボールを持つと自分は走って3ポイントシュートを狙えますし、逆のこともできるので、バランスよくできていると思います」
この勝利は日本代表にとって、OQTへの出場を決める大きな価値のあるものとなった。もちろん山本もこの試合が持つ重要性を十分に認識していたが、そこを強く意識し過ぎなかったことも良かったと明かす。「まずは、自分たちのバスケットをやろうと話していて、それがよい結果に結びつきました」
これだけのインパクトを与えながらも「過去2試合と比べてもやることは変わらなかったです」と振り返るように山本は、冷静な姿勢を崩さない。だが、表には中々、出さないだけで内に秘めた闘志であり、負けん気の強さはプレーが雄弁に物語っている。
そして地元オーストラリアを応援する観客に、何度も自身の3ポイントシュートでため息をつかせたことを聞くと、屈託のない笑顔でこう語る。「あんまり会場の反応は聞こえてこないです。でも、アウェーの中で自分がシュートを決めて相手チームへの声援を黙らせることはすごく楽しいです」
日本がアジアカップの頂点に立ち、大会6連覇を達成するためには、決勝でオーストラリアとの再戦、もしくは多くのファンが詰めかけ会場を完全にホームにしている中国との対戦は避けられないだろう。だからこそ、会場に静寂をもたらす山本の再びのハイパフォーマンスが必要だ。