小野龍猛との『日本代表マッチアップ』を制す
タフでフィジカル。攻守に気が利いて、外からのシュートも決められる――。古川孝敏がそんな彼のすべてを出した試合だった。
相手は今季のオールジャパン王者、千葉ジェッツ。古川も「間違いなくこういう試合になると分かっていた」と振り返る。チャンピオンシップのクォーターファイナル第1戦は案の定、誰もが予期するシビアな展開になっていた。ただ古川は『ここ』という場面で何度も、チームに力を与えるプレーを見せた。
第1クォーターの残り1分38秒には彼がこの日初の3ポイントシュートを決め、栃木は19-14とリードを拡げる。千葉もそこからクォーターをまたぐ10点のビッグランを見せて逆転。しかし栃木はライアン・ロシターが決めて3点差とし、第2クォーター残り8分8秒に古川がこの日2本目の3ポイントシュートを決める。栃木が24-24と追い付いて、再び流れを引き戻す。
守備面で古川は小野龍猛とマッチアップする場面が多かった。小野は3ポイントに加えて、インサイドでパスワークの起点になるポストアップの動きを強みとする選手。ただ13日の第1戦は、古川が小野封じでも大きく貢献していた。彼はこう説明する。
「小野がポストアップするシチュエーションは、シーズン終盤にかけて千葉が強みにしていたこと。そこで乗らせてしまうと、勢い付かせる部分でもあった。意識してディフェンスをやっていましたし、チームとしても気を付けていた」
13日の小野は2得点3アシストに留まっており、ファウル数の影響もあってプレータイムは23分16秒。古川が小野とのマッチアップでアドバンテージを作っていた。
ボールに食らい付く泥臭さと洗練された3ポイントシュート
古川が良い意味の泥臭さ、執念を見せたのは第3クォーター残り6分27秒のリバウンド。彼はウイングの位置へこぼれたルーズボールに、ラグビーのタックルを彷彿とさせる勢いで飛び込んだ。そしてアウトオブバウンズ寸前で何とかボールをキープすると、コートに倒れ込みながら田臥勇太につなぐ執念のプレーで速攻を演出する。千葉は石井講祐のファウルで田臥を止めざるを得なかった。
直後の残り6分7秒にはさらなるビッグプレーが出る。古川はロシターのパスを受けて、この日3本目のスリーポイントシュートを決める。さらにマークに付いていた原修太のファウルで「プラス1ショット」が与えられ、これが4点プレーになった。スコアは50-36。栃木にとってものすごく大きな『貯金』を作るプレーだった。
そこから千葉も激しい追い上げを見せ、第4クォーター終盤には1ポゼッション差まで追い上げられた。しかし、そんな大詰めでも古川が勝負強さを見せる。第4クォーター残り2分10秒に、古川はギブスのパスアウトから素早いキャッチ&シュート。3ポイントシュートを叩き込み、71-66と栃木のリードを5点にまで広げる。
最終的に古川は19得点、3ポイントシュートは「6分の4」という圧巻のスタッツを残している。栃木のポイントリーダーとして、間違いなく第1戦を取る立役者になった。トーマス・ウイスマンヘッドコーチも古川の活躍をこう称える。
「彼はディフェンスとオフェンスの両面でカギになる選手ですが、今日は特にオフェンスで(第3クォーターの)4ポイントプレー、第4クォーターでの3ポイントと、素晴らしい活躍をしてくれた」
万全で迎えたチャンピオンシップ「肩に力が入らずできた」
今季の古川は左足底腱膜炎により、10月末から1カ月半ほど欠場している。「ああいう離脱の仕方は今までなかったので、気持ちとしてはすごく辛かった」と彼も振り返る試練だった。ただ時期が早かったことも幸いし、コンディションや連携は既に万全。逆にそんな経験を糧とした部分があるのかもしれない。
チャンピオンシップ1回戦のブレックスアリーナは、チケットが完売。黄色いTシャツを来場者に配布したクラブの努力もあり、4000人近くの黄色い『ブレックスネーション』を作り出していた。古川にそんな雰囲気について尋ねると、彼は本当にうれしそうな笑顔でこう述べていた。
「こうやって多くのファンの中でやれるのはうれしいし、やっていて単純に気持ち良く感じます。体育館が揺れるんじゃないかというくらいの声援が届いていた。一緒に戦ってもらっているという感じを受けました」
古川が栃木に加入したのは13-14シーズン。09-10シーズンのJBL制覇はもちろん知らず、このチームではまだタイトルを得ていない。彼自身が「初代チャンピオンになるチャンスは1回しかない。自分として意識する部分が大きくあった」と語るように、今回のチャンピオンシップに懸ける思いは強い。
そんな大声援や感情の中で、古川は「肩に力が入らずできた」とも口にする。190cm90kgという身体の強さ以上に、気持ちの強さ、勝負強さを感じた古川の大活躍だった。