前半最後の数分、高田の活躍でENEOSの優位は揺るぎないものに
第88回皇后杯はENEOSサンフラワーズが決勝でデンソーアイリスに86-62と盤石の試合運びで圧勝し、大会9連覇を成し遂げた。ENEOS優勝の原動力となったのが、昨年の大会で右膝前十字靭帯断裂の大ケガを負った渡嘉敷来夢の復活であることは間違いない。ただ、それは渡嘉敷だけではない。
決勝で13得点19リバウンドを挙げた梅沢カディシャ樹奈と、司令塔の高田静もケガで昨年の皇后杯決勝のコートに立てなかった選手。彼女たちも、悔しさを晴らすプレーを披露した。この2人の活躍には、渡嘉敷も「梅沢と高田は一緒に頑張ってきたので他のみんなよりも思うところはあります。泣きそうです」と目を潤ませ、2人の存在がリハビリを乗り越える助けになったと感謝した。
高田はベスト4のトヨタ紡織サンシャインラビッツ戦で、19分半の出場時間で7得点6アシストを記録。そして決勝ではパフォーマンスの上がらなかった日本代表、宮崎早織を上回る24分半のプレータイムを与えられ、11得点2アシストを挙げた。
勝敗に与えたインパクトはスタッツよりも大きかった。第1クォーターを互角の展開で終えたENEOSは第2クォーターに入って突き放しにかかるが、デンソーも粘る。ここで1桁リードで終えるか、2桁にまで広げてハーフタイムを迎えられるかは試合全体の流れに大きな影響を与えるのだが、そこで違いを見せたのが高田だった。
前半残り2分弱、ENEOSの9点リードの場面から高田はフリースロー2本とプルアップシュートによる連続得点を挙げ、ゴール下へのドライブでディフェンスを引き寄せてキックアウトし、岡本彩也花の3ポイントシュートをアシスト。さらにはブーザービーターで3ポイントシュートを決め、前半終了時点でのリードを14点へと広げた。この高田の大活躍で、ENEOSは完全に試合の主導権を得た。
自分たちの勢いに流されない、冷静なゲームメーク
「個人的には去年ケガで出られなかったので、終わった時に『今年はコートに立てて良かった』と一番初めに思いました」
会見の第一声でこう語った高田は、積極的な仕掛けで11得点を挙げた自身のプレーを振り返る。「まず強気で思いっきりやる。ドライブをしてもセンターへの寄りが相手のディフェンスは速いので、自分で打ち切ることを意識してプレーしました」
この強気のプレーに加え、決勝では冷静なゲームメークも光った。これこそ高田が自身の持ち味として重視している部分だ。「自分はユラさん(宮崎)と同じタイプのガードではないと思っています。比べすぎずに自分らしくゲームを落ち着いて作っていけたらいい。また今シーズンは2番でも出る時があるので、その時は思い切って攻めていこうと心がけています」
デンソーは前から積極的にプレスディフェンスを仕掛けるスタイルで、それを突破すれば一気にシュートチャンスにまで持っていける。そこでシュートをどんどん打っていくのは妥当な選択肢ではあるが、それを続けるとオフェンスは一本調子となりがちだ。
決勝においてENEOSは渡嘉敷と梅沢によりゴール下でアドバンテージを得ていた。さらに2桁のセーフティリードを奪っていた後半は、相手のプレスをかわして速いテンポで打ち続けることより、ハーフコートオフェンスを作り優位に立つインサイドでじっくり攻め続けられる方が、追いかけるデンソーにとっては嫌だったはず。
「前からのプレッシャーは抜けていましたが、あまりオフェンスを作れていない思いが途中でありました。シュートまで行けていてもオフェンスとしては微妙な流れになっていたので、そこは落ち着いてやろうと意識していました」
このように状況を判断し、試合のテンポをコントロールしたのは高田の司令塔としても非凡さを示し、スタッツに現れないが大きな働きだった。
「3年目にこうやってこんなに長く出るとはあまり予想していなかった」
昨シーズンは皇后杯だけでなくWリーグも全休した高田にとって、ENEOSに入団して今回が初めて主力としてつかんだ栄冠だ。だからこそ、これまでと異なる感慨もある。
「今シーズンが3年目ですが、1年目は最後に勝ちが決まってから出る形でした。2年目はケガをして、3年目にこうやってこんなに長く出るとはあまり予想していなかったです。出た時間はしっかりやろうという気持ちでいたので、自分らしいプレーも出せました。去年の分までコートで楽しむことができたのは良かったと思います」
日本代表をアジアカップ5連覇に導いた宮崎の爆発力は、ENEOSにとって欠かせない大きな武器だ。そこに宮崎とは違った持ち味の高田が台頭することで、チームの戦いの幅は大きく広がる。皇后杯9連覇は特定の主力選手に依存するのではなく、チーム内の新進代謝があったからこそ成し遂げられたもの。高田の成長は、『女王』ENEOSの伝統が変わっていないことを証明した。今大会で彼女が自信を得たことは、Wリーグの王座奪還を目指すENEOSの今後にとっても大きなプラスになりそうだ。