大野篤史

文=丸山素行 写真=野口岳彦

昨シーズンの千葉ジェッツは激戦の東地区を制し、天皇杯2連覇も達成するなど充実したシーズンを送った。レギュラーシーズンの勝率は2年連続で70%を超え、観客動員数もリーグトップと、実力と人気を兼ね備えたクラブとしてその地位を確立している。もっとも、Bリーグが開幕する以前の千葉は、決して強豪と呼べるチームではなく、急成長を遂げたのはこの2年のこと。Bリーグ初年度から千葉を指揮し、チームを強豪へと成長させた大野篤史ヘッドコーチに話を聞いた。

就任3年目、コーチングに変化

──いよいよ3年目のシーズンが始まります。今日は練習終了後にアシスタントコーチとスクリーンのかけ方などの細かいことをかなり長く話していました。これまでと比べて、練習やコーチングに変化はありますか?

僕は3年目なので、まず1年目2年目と積み重ねてきて自分たちの強みになったものを生かしたいと思っています。今までは戦う意識とか気持ちとか、チームとしてどうあるべきかということをずっと問いかけてきました。今シーズンはそうしてできた土台に加え、1年目よりも2年目、2年目よりも3年目のほうが良いオフェンスやディフェンスができるようにコーチングも少しずつ変えています。

良い習慣はできてきたので、その次に物事を分けるのはディテールです。ディテールを意識できるかできないかで変わってくるものがたくさんあるので、そこにアプローチしています。

──土台が出来上がったことで次のステップに進んでいるということですね。プロであっても、チームが始動したばかりのこの時期の練習には身が入りにくい部分があると思いますが、気持ちの持っていき方で何か工夫していることはありますか?

ここがベースになって戦うという意識付けだけです。もちろんどの時期も大事ですが、修正点を探して、最後に一番良い姿になっていればいいね、という感じです。だらけてしまう状況が生まれるのであれば、「モチベーションがあって、あなたたちはここに立ってるんだよね」、「覚悟を持ってやってるんだよね」と、それしか言わないです。

部活動じゃないので「やってください」とは言いません。自分でこの金額にアグリーメントして契約書に判子を押してここにいるんだよね、それに対して相応しい言動や行動をしなさい、ということです。

──それは頭では理解できますが、実際の行動としてしっかりやるのは決して簡単ではないと思います。選手たちは最初からそのスタンスでやれていましたか?

いえ、ずっと言い続けました。言い続けましたし、それに共感、納得してくれたことで、選手たちがコートの中で体現してくれるようになりました。それは成長だと思います。

大野篤史

「彼らがやってきたことが色褪せることはない」

──チームが結果を出す上で一番大事なのは、そうした精神的な面がしっかりしていることなんでしょうか?

メンタリティの部分が一番大事だと思います。それなくして応用とか戦略、戦術の部分にはいけません。やっても意味がないと思っているので、それが幹の部分だと思っています。

ただ、良かったと思うのは結果が出てくれたことで、選手もそれで僕のことを信用してくれました。いくら良いことを言っても結果が出ないと、選手たちは疑心暗鬼になりますし、不信感も出てくると思うので、それに対してはホッとしてます。

──結果という意味では、特に昨シーズンは飛躍を遂げた一年となりました。あとはファイナルさえ勝っていれば、という感じでしょうか?

1試合だけで彼らが1シーズン戦ってきたことを無にするような言われ方をよくするんですけど、僕はそうじゃないと思っています。彼らがやってきたことが色褪せることはありません。昨シーズンはジェッツにとって一番良いシーズンだったと思います。

僕が来る前は分かりませんけど、成長を感じられたし、やってきたことが間違いじゃないという実感もあります。僕らだって勝って笑って終わりたかったですが、1年間選手が努力してきた過程を評価してあげてほしいですね。

──メンタルを軸にここまで強いチームを作り上げましたが、大野ヘッドコーチが目指すチームの最終形とはどんなものでしょう?

トーナメントしかり、プレーオフしかり、優勝するには実力も運も必要だと思っています。ただそこで「今年はチャンスがないね」というチームにだけはしたくないです。シーホース三河さんみたいに、毎シーズン優勝候補に挙げられるような、常に優勝する可能性があるチームを永続的に作っていくのが僕の仕事だと思っています。そんなチームにしていきたいですね。