川崎ブレイブサンダースは天皇杯で、Bリーグ発足後としては初となるタイトルを獲得した。5年前のNBL優勝も主力として経験している篠山竜青、辻直人のゴールデンコンビに、久しぶりの栄冠をつかんだ感慨を語ってもらった。
「全体のレベルが上がり、日本一になるのは本当に難しくなった」
──天皇杯の優勝おめでとうございます。コロナ禍で大々的な祝勝会はできなかったと思いますが、少しはお祝いできましたか。
篠山 コロナの影響でなかなかやれることも制限されているので、意外と勝利の余韻が少ないです。優勝の翌日、多少はアルコールが入りました。家族でこじんまりでしたけど、食事もちょっといつもよりはおつまみが多い感じにはなりました。
辻 優勝した感触よりも今は「疲れた」という方が大きいです。昨日は家で少し遅くまで飲みました(笑)。
──Bリーグでは初めてのタイトルですが、その点に関してはどんな思いですか。
篠山 長いこと離れていた、久しぶりの感覚はあります。個人的な感覚ではNBL時代が簡単だったわけではないですが、Bリーグになって全体のレベルがすごく上がったことで、日本一になるのは本当に難しくなった。そこでの優勝で、今までのタイトルにないうれしさ、達成感はすごくありました。
辻 僕も前回の優勝から長かった思いは正直あります。ただ、優勝は本当に最高でしたけど、コロナの影響やレギュラーシーズン中であることも関係していて呆気ない感じもあります。これがリーグ優勝となるとまた変わってくるのかなと思います。
――プロバスケットボール選手としては初めての優勝です。今の川崎はリーグでも屈指の人気チームとなっていますが、5年前と比べると反響の違いを感じますか。
辻 反響の大きさへの違いはすごく感じました。テレビでの取り上げられ方、新聞の号外が配られたことなど、これまでの倍くらいは違うかなと思います。
篠山 クラブとしての優勝関連の企画もあるでしょうし、これからいろいろなところでじわじわと優勝の実感が湧くのかなと。それは今、言われて感じました。
辻直人「負けた記憶をすごく良い感じにアップデートできた」
──辻選手は優勝後の会見で、大塚(裕土)選手、熊谷(尚也)選手、長谷川(技)選手から「試合に出ているのか」などと言われ、楽になったことが後半での活躍に繋がったと振り返っていました。チームの中では上の立場にある辻選手がそう言われるのは、前と比べて雰囲気が変わってきているからですか。
辻 シーズン中盤の良くない時期を乗り越えてから、チームとしてコミニケーションがすごく取れていると感じていました。年齢から言えばチームで上の方ですが、ああやって明るくイジッってくれたり、声を掛けてくれること自体がうれしかったです。調子が悪かったらシリアスな感じになってもおかしくないのに、ファイナルでそうならなかったのはみんなで試合を楽しめていたからなのかと今になって思います。
──篠山選手は、そのやりとりを聞いていましたか?
篠山 いや、聞いていないですね。試合中のベンチにいる時か、タイムアウトの時に言われていたと思います。ただ、みんなで楽しむ雰囲気がすごく自然に生まれていました。それが良かったと思います。その日シュートが入る入らない、調子の良し悪しはありますが、最低限やらなければいけないディフェンス、ハードワークをやれば、チーム全体でカバーし合うことができる。そういうところは、この天皇杯で出せたと感じますし、そこがすごく良かったと思います。
──これまで公開されていたドキュメンタリーを見ると、ミーティングで発言するのは篠山選手、辻選手、そしてニック・ファジーカス選手が多い印象があります。そこは若手など、他の選手の発言も増える変化はありますか。
篠山 僕、辻やニックは当たり前で、他の人があまり喋らないところは少しずつ変化しています。全体ミーティングではみんなで意見を出し合い、各々でもコミュニケーションを取り合う機会はすごく増えていると思います。
──今回は宇都宮ブレックスとの決勝でした。振り返ればBリーグ初年度のファイナルで敗れ、2018-19シーズンのチャンピオンシップでも大敗した相手です。宇都宮との対戦に、特別な意識はありましたか。
辻 結果的に相手が宇都宮さんになったというだけで、相手がどうこうは気にしていなかったです。ただ、僕自身は宇都宮さんに負けた思い出しかなかったので、この優勝でその記憶をすごく良い感じにアップデートできた部分はあります。
篠山 最初は別に相手がどこになるか気にしてなかったですが、いざ宇都宮さんとなったらこれまでを思い返すことが正直ありました。優勝して家に帰ってテレビで見返した時、Bリーグ初年度のファイナルでは相手の黄色が観客席で多かったのが、五分五分の関係になったことへのうれしさもありました。そして、Bリーグになってからここまで3回(Bリーグファイナル1回と天皇杯2回)、表彰式では目の前で相手が喜ぶ姿を見てきました。それがやっと自分たちが表彰式で喜ぶことができて良かったです。
篠山竜青「これから何回もこういう光景を見せてあげたい」
──これまでの優勝は2人ともコートの中でその瞬間を迎えてきました。それが今回は試合の流れもあってベンチで優勝を迎えています。チームファーストは大前提として、その中でもやっぱり優勝の瞬間はコートにいたいと、これからの新たなモチベーションにするのか。それともチームの底上げができていると感じたのか、そこはどんな思いですか。
篠山 今おっしゃられたこと全部ですね。チームとしての厚みがすごく出てきた自信、すごく強いチームで戦えている充実感はあります。ただ、第4クォーターや勝負どころの時間帯でプレーしたい、まだまだもっとできる。自分自身もっと調子を上げてプレータイムを伸ばして頑張らないといけない。どれか一つではなく、すべての感情があった中での優勝です。
辻 僕も同じです。優勝できたのは本当に心から喜べました。同時にあの瞬間はコートに立ちたかったとも心から思いました。
──辻選手は集合写真で、一人だけ後ろで脚立の上に座っていました。あれは写真を撮る時になって急に浮かんだ感じですか。
辻 そうですね、脚立を見つけて乗りたくなってしまいました(笑)。
──ちなみに父親として優勝することで、何か違う思いを抱くことはありましたか。
篠山 まだ小さいのでどれくらい理解しているのか分からないですけど、優勝する姿を見せられたのはすごく良かったです。これから何回もこういう光景を見せてあげたいと思いました。
辻 ちょっと大きくなってきていて、それこそ最後、僕がコートに立っていなくて優勝したことに、「あれ、もう終わったの?」みたいな感じで言っていたと聞きました。実際、息子とは優勝の話をあまりしていないです。やっぱりコートの中で優勝したい思いはあらためて出てきました。
──リーグ2冠達成に向けて今回の優勝をどう弾みにしていくか、逆にリセットして無心で戦うのか、残るリーグ終盤戦に向けての意気込みをお願いします。
篠山 勝つことでまた強くなれる。この味を知ったからこそ、優勝が日常になると思います。どういう雰囲気でハードワークをすれば日本一になれるのか知ることができたのは、すごく大きい。この天皇杯を勢いに変えて、残り19試合、レギュラーシーズンの第4クォーターを駆け抜けてチャンピオンシップに繋げていきたいです。
辻 気持ちの部分では、優勝の余韻はしっかりリセットする。ただ、篠山さんも言いましたけど勢いはすごく大事で、そこをリセットする必要はないと思っています。チャンピオンチームのプライドと自信を持って、このまま行けばチームがより活発になっていく。僕自身もこの天皇杯ではいろいろな経験ができました。個人的にはチャンピオンシップのファイナルでリベンジすることを目標に掲げているので、それも達成したいと思っています。