渡嘉敷来夢が戦線離脱の『極限状態』にチーム全体が奮起
第87回皇后杯の決勝でENEOSサンフワラーズは、トヨタ自動車アンテロープスを破り8連覇を達成した。だが、今年は大黒柱の渡嘉敷来夢を筆頭に故障者が続出し、決勝では6人ローテーションを余儀なくされる満身創痍の状態だった。今回こそは連覇がついに止まってしまうのでは、と感じる人も少なくなかっただろう。
だが、歴史に残るのはあくまで結果のみ、当たり前だが「あの年のチームは故障者続出で仕方なかった」と注釈が付くことはない。だからこそ『女王』の面々は、偉大な先輩たちとともに築き上げてきた栄光の歩みを止めることはできないと、どんな状況でも勝利のみを追い求め大きな重圧に打ち勝った。
今シーズンが就任2年目となる梅嵜英毅ヘッドコーチは、試合後「うれしいのと、大変疲れました。ケガ人が出るのはすべて自分の責任だと思っています。そういう状況下で戦ってくれた選手たちに感謝したいと思います」と、安堵の表情を浮かべる。
193cmの渡嘉敷、さらに190cmの梅沢カディシャ樹奈と。リーグ随一のインサイドコンビが揃って抜けたことで、ENEOSは「平面的なバスケットを強調しました」(梅嵜ヘッドコーチ)と、いつも以上に走るバスケットを押し出す必要に迫られた。だが、それは梅沢の代役で先発起用された中村優花にばっちりハマる戦術変更となった。
チーム加入8年目の中村はこれまでベンチを温めるシーズンが続いていたが、コンタクトの強さを生かした迫力満点のインサイドアタックで躍動。指揮官が「彼女の良さは平面のスピードで、自分でボールをプッシュもできます。梅沢の穴を埋めるのは簡単なことではなかったですが、彼女は周りと違うリズムをもたらしてくれた。本人から聞いたら気が緩むのは怖いですが、120点をあげたい」と抜擢に応えた中村を手放しで称賛した。
ちなみに梅嵜ヘッドコーチは「ケガ人が出た時点で勝ち負け云々より、とにかくどういう風にもっていったら8連覇に繋がるのかというのが大きかった」と、連覇へのプレッシャーより故障者続出のチームをどうやりくりするかに意識が向いていた。そして、「ベスト8の富士通戦で勝った後、高橋(雅)弘部長の方から『45年連続ベスト4の記録がかかっていた』と言われ、本当ですかとそちらの緊張感がズシリと来ました」と振り返っている。
岡本彩也花「プレッシャーに押し潰されそうでした」
キャプテン2年目の岡本彩也花は、「自分はメンタルが強いと思っていましたが、今回の渡嘉敷のケガには本当に心が折れました。プレッシャーに押し潰されそうでした。この3試合は全く寝れなくて、負けたらどうしようと思ってしまった自分がいました」と語るほどの大きな重圧を感じてプレーしていた。
ただ、ケガで誰よりも辛い渡嘉敷から「何も失うものはないでしょ。自分がいないんだから」と言われて吹っ切れた。「周りは渡嘉敷がいなくて勝てるかなと思っている。自分たちがどれだけできるか試されているので、勝ってみんなをびっくりさせたい。そして、ケガをした人たちに優勝を届けてあげたい思いでプレーしました」
先に挙げた中村。ファイナルラウンドで渡嘉敷の代役を務めた中田珠未。そして先発ポイントガードとして大暴れの宮崎早織とチーム全体がこの危機にステップアップ。「選手たちが極限状態となった時にとんでもない力を発揮することがあらためて分かりました。本当にすごいです」と称えている。
渡嘉敷の故障欠場さえも乗り越えての8連覇に、多くのバスケットボールファンは梅嵜ヘッドコーチと同じくENEOSの底力に感銘を受けたことだろう。年明け1月からはWリーグが再開するが、そこでもENEOSが大本命であり、どんな苦境も乗り越えるチーム力を持っていることをあらためて印象づけた皇后杯となった。