ルカ・パヴィチェヴィッチがヘッドコーチに就任した1年目から連覇を達成し、昨シーズンもシーズン打ち切りの時点でリーグ最高勝率を記録するなど、アルバルク東京はBリーグの頂点に君臨していると言っても過言ではない。しかし、このオフシーズンは新型コロナウィルスを原因とする外国籍選手の合流の遅れ、選手から陽性反応が出たことによる2週間のチーム活動休止と数々の試練に直面した。名将パヴィチェヴィッチはこの状況をどのように捉え、どんな気持ちで新シーズンを迎えようとしているのか。
「指導を行う時間が足りていない」現状
――まず、開幕間近となった今のチーム状況をどのように見ていますか。
新型コロナウィルスの感染拡大により、どのチームにとっても今後は不透明で困難な状況となります。私たちについて具体的に言うと、まず私のチーム合流が遅れました。そして、3選手に陽性反応が出てチーム作りが2週間遅れ、トレーニングを積んではいますが、十分な準備ができずに開幕を迎えます。少なくとも最初の1カ月は万全とは言えない中で戦うことになりそうです。
――チーム作りの遅れについて、焦りはありますか。それとも不可抗力だから意識しないようにしていますか。
2週間の遅れについては考えないようにしています。2週間の空白からの再開はチーム作りが再びゼロ、もしくはマイナスからのスタートになります。遅れを挽回しようと考えると、より難しくなるからです。選手たちには今の状況を受け入れようと伝えました。ここから良い状況に持っていくのは大変ですが、自分たちが影響を与えられることについて高い意欲を持って取り組みます。自分たちがコントロールできないところで被る影響については、それを受け入れるだけです。チーム作りに近道はなく、ハードなトレーニングで地道に積み上げていく以外に方法はありません。
リーグトップを争うためには川崎、宇都宮、千葉といった強力な帰化選手を有するチームと戦わないといけません。私たちには帰化選手がいないので、その面で彼らは私たちより大きく先行しています。それを含め、今の段階で彼らに追いつくのは難しいです。ただ、私たちが考えるべきは、自分たちにできることです。それはコンディショニングであり、自分たちのオフェンス、ディフェンススキルを向上させていくことです。シーズンが最後まで続くことに期待し、最後には自分たちが望むバスケットボールをできるようになりたいです。
――今の困難な状況を考慮し、ヘッドコーチの選手たちへのアプローチの仕方に変化はありますか。
まず、私は選手たちにハイスタンダードを求めます。しかし、選手たちへのトレーニング、指導を行う時間が足りていません。ハイレベルな練習を十分にできていない場合は、それに見合ったハイレベルなプレーを求めるべきではないと思っていて、その指導方針に変化はありません。
そして、今のチームは多くのものが欠けています。チーム作りの段階において基本に戻る必要もあります。たくさんのマイナス材料を抱えている中で、選手たちにこれまでと同じレベルを求めるための時間が不足している現状です。そこはいつもと違いますが、根本的なものは変わりません。コーチは選手に質の高いトレーニングを求めますが、特に今はそのレベルを維持することが簡単ではないのです。
トーマス「ユーローリーグのトップレベルで活躍してきた選手」
――合流が遅れていますが、欧州トップレベルで活躍した注目の新戦力、デション・トーマス選手について教えてください。
私たちはクリエイティブなパワーフォワードを探していました。高いシュート力、パスに長けて状況判断に優れ、相手のディフェンスを広げることができる。また、1対1にも強さを発揮する。ただ、これらをすべて満たす選手を獲得するのは簡単ではありません。母国に帰った時、ユーローリーグで実績があり、コロナ禍によってこれまでと同じ契約を得られないかもしれない選手たちをスカウティングしました。日本などアジアではなく、ずっと欧州のトップ戦線で活躍していた、成熟した選手たちです。
トーマスはアメリカの大学でプレーした後、プロ選手としてずっとユーロリーグに出場するチームに在籍しています。昨シーズン、彼はユーローリーグにおいてベストシーズンを送りました。30歳で今、キャリアのピークにあります。彼のような選手を獲得できたのはアルバルクのスタッフが素晴らしい仕事をしてくれたからです。トーマスは1人でなんでもできるスーパーマンではないですが、とても強力なチームプレーヤーです。今、この段階で彼のようなレベルの選手を連れてくることは簡単なことではありません。パナシナイコス、マッカビ・テルアビブ、エフェス、バルセロナといった欧州のトップクラブを渡り歩いてきた選手が次の行き先に私たちを選択しました。これはアルバルク東京というチームの格を高めるものです。
多くのバスケットボール関係者が、「デション・トーマスがパナシナイコスからBリーグのアルバルク東京に行ったのか」と驚いたと思います。NBA以外のバスケットボール界において、Bリーグの注目度を高めるインパクトを与えたと思います。彼は圧倒的な個人技で、相手ディフェンスを崩していく選手ではありません。彼は様々なプレーによって、NBAに次ぐ世界で2番目のリーグであるユーローリーグのトップレベルで活躍してきた選手です。