「10点、20点開いても、最後に1点勝っていればいい」
栃木ブレックスは明後日、Bリーグ初代王者の座を懸けて川崎ブレイブサンダースと対戦する。ここまでの道のりは険しかった。レベルの高い東地区を制しながら、クォーターファイナルでは千葉ジェッツ、セミファイナルではシーホース三河という優勝候補と対戦。気の抜けない戦いを勝ち抜いてファイナルの舞台へとたどり着いた。
激闘となった三河との第2戦と第3戦を振り返り、「あの流れで我慢して戦えることは、本当に自分たちに自信が持てます」と古川孝敏は言う。「前回のクォーターファイナルもそうですし、今日もそうでした。次に向けてまた一つ自信につながります。毎回話すんですが、ディフェンスがまず大事なところなので、どこに絞ってどう守るか、もう一度全員で確認して、僕自身もしっかりやらないといけないし、チーム全員で戦いたいと思います」
栃木の強さはまずはディフェンス、そしてリバウンドにある。ビハインドの展開を強いられた三河戦について古川はこう語る。「そこで焦ってオフェンスにフォーカスしてしまうと、結局後手に回ってディフェンスもできずに、相手に点を取られてしまう。まずストップして、そこから一つスコアをするという、目の前のことをやるのが大事です。たとえ10点、20点開いても、最後に1点勝っていればいいので、一つずつ」
シーズンを通してやってきたバスケットには自信があり、ファイナルでもそれをぶつける。「やってきたことをやり切るしかない。シーズン通してやってきたことが自信にもなっていますし、それが自分たちの武器だと全員が思っています。それをファイナルでいかに出せるかです」
「疲れてるとかではないので、やらなきゃいけない」
21日に行われた第2戦と第3戦、それぞれ21得点、6得点と大暴れした金丸晃輔が古川のマッチアップの相手で、「やられたことのほうが多かったので、個人的には悔しいです」と古川は話す。相手はいわゆる『ゾーン』に入っており、得点シーンだけを見ればやられた印象が強いが、それでも古川は足と身体をフルに使い、金丸にボールを受けさせない部分でのディフェンスに奮闘した。簡単にボールを持たれて前を向かれていれば、27得点では済まない『すごみ』があの日の金丸にはあった。「個人的にはもっとしっかりやらなければいけなかった部分ですが、その分チーム全員で戦ったということです」と古川。そう、どれだけ点を奪われても、最後にチームが勝っていれば御の字だ。
試合中、コート上で両手を膝に置く姿が見られた。死闘の中で無理もないが、古川としては珍しい素振りだったので「疲れていたでしょう?」と問うと「いや、疲れてないです」と笑顔で強がった。「疲れてるとかではないので、やらなきゃいけない。負けたら終わりだったので。オフェンスにしろディフェンスにしろ、全力を注げればなと」
熱戦に決着をつけたのはライアン・ロシターの得点だった。古川のスクリーンは甘いものだったが、オフェンスファウルで攻撃機会を失うことは絶対に許されない場面、必要最小限のフィジカルでもロシターの進路はきっちりと作り出した。
「頼むぞ、と」。古川はその瞬間の心境を語る。「あとは自分ももしかしたらというところもあったので、そこは考えていました」。ロシターの決勝点のシーン、万が一シュートが落ちた場合に備えてスクリーンの次の動き出しで金丸の前にポジションを取っている。まさに最後の瞬間まで古川は「疲れてるとかではない」の心境で「オフェンスにしろディフェンスにしろ、全力を注いでいた」のだ。
「最後は足が壊れてもいいので、全力でやっていきたい」
ファイナルは一発勝負。シーズン最後の試合に、他のどの選手もそうであるように古川も闘志を燃やす。「入り方はすごく大事。出だしでどれだけ自分たちのやりたいことをやれるか、相手のやりたいことを防げるか。しっかり準備して、自分自身と仲間を信じてやれるかです」
古川がポイントに挙げたのは、やはりディフェンス。「まずチームの武器でもあるディフェンスのところです。ディフェンスで我慢してから、得意のファストブレイクの流れに持っていければ。良い流れの中でシュートを決め切れれば勢いを与えられると思うので。ここ最後一つやるだけなので、しっかりと自信を持って準備してやっていきます」
昨シーズン、NBLのセミファイナルで両者は対戦している。栃木が先勝したが、第2戦でロシターをケガで失い、第3戦も落としてブレックスアリーナで敗れた。当然、その悔しさは忘れていない。「最後に勝ってチャンピオンになるだけ。最後は足が壊れてもいいので、全力でやっていきたい」と、古川は容易ならぬ決意を語った。
自信はある。覚悟も固めた。そして代々木第一体育館で多くの後押しを得られることを古川も期待している。「間違いなく僕らの多くのファンが来てくださると思っていますし、一緒に戦ってくれると思います。一緒に代々木で戦い切って優勝して、最後はみんなで喜びを分かち合えたらと思います」