辻直人

文・写真=鈴木栄一

前日の不調を帳消しにする大活躍、そして『ツジダンス』!

3月17日、川崎ブレイブサンダースは敵地で新潟アルビレックスBBに81-72で快勝し、前日の雪辱を果たした。もし、この試合に敗れていたら、中地区首位の新潟とのゲーム差は5に広がり、残り試合数を考えると、ひっくり返すのは容易ではなかった。まさに地区タイトルへの望みを繋ぐ価値ある勝利であり、その立役者となったのが21得点を挙げた辻直人だ。

2得点と存在感なしに終わった前日について「かなり気合を入れて臨みましたけど、ちょっとフワフワしていたのか自分でもよく分からない感じでした」と、辻は思うようにゲームに集中しきれなかったと振り返る。

その一端は試合前から見られた。スターティング5が呼ばれる際、いつもはウォーミングアップ用の上着を着用している辻だが、この日はすでに上下ともユニフォーム状態だった。一見すると大一番を前に『気合満点』と思われたが、「あれは上着を忘れてしまったからで、その時点でちょっとおかしかったかもしれません」というのが真相。まさにイレコミすぎての空回りという状況で、本人にとっては反省しかない第1戦となった。

「昨日は自分の得意ではないシュートを打つことが多く、それでメンタル的に落ちていきました。ジャンプシュートを打てばいいのに打たない。逆サイドにパスすればいいのにシュートを打つ。本当に気負いすぎで、見ている人に覇気がないと言われてもおかしくないプレーでした」

それでも、翌日には第1クォーターで6得点と幸先良いスタートをきると、第2クォーター終盤には、3連続3ポイントシュートを成功させる圧巻のプレーを披露した。ブーザービーターで決めた直後には、「瞬間的に三浦カズさんが浮かびました。モデルはカズダンスです(笑)」と評する軽快なステップから、腕をクロスするお馴染みの決めポーズへとつなぐツジダンスを披露するなど、お祭り男の本領をこれでもかと発揮した。

辻直人

対チェコ「あの時の日本よりも強くなったと証明できる相手」

第4クォーターには新潟の追い上げを食らう中で、再びリードを2桁に広げる値千金の3ポイントシュートを沈めるなど、試合の流れに大きな影響を与える活躍だった。

「気持ちを切り替えるしかなかった。それができたのは一番大きかったです」と、カムバックできた理由を明かした辻だが、それができた一つのきっかけが16日夜に行われたワールドカップ抽選会だったという。

日本はアメリカ、トルコ、チェコと同組になった。アメリカは多くの選手が事前にやってみたいと言っていた世界最強国であり、辻にとってチェコはリオ五輪最終予選で敗れた因縁の相手。それだけに「アメリカとできる。チェコと再戦できる。この2つで興奮しました。コービーやりおったな!! とみんなで言っていました」と、抽選役を務めたコービー・ブライアントに感謝するほど気持ちが高ぶる結果となった。

「どの相手も強いですが、中でもアメリカとできるのは良い経験になります。チェコはあの時の日本よりも強くなったと証明できる相手。最終予選はラトビアにボコボコにされた後、負けられない試合で敗れ予選敗退が決まって本当に悔しかったです。ワールドカップで勝利する相手にはもってこいです」

このように闘志を掻き立てられたことは、辻にとって良い気分転換となり、それが翌日の辻劇場へとつながった。そして「メンバーに選ばれるためにもパフォーマンスを上げていく。もっとレベルアップしないといけないです」と、ワールドカップ本大会のメンバー入りへさらなる進化を目指す辻の心意気は、川崎の成長においても大きなプラスになってくる。