桶谷大

「自分と同じ想いを持った人たちと一緒に仕事をすることが極めて重要」

――新シーズンの続投も発表されましたが、桶谷ヘッドコーチはこれでbjリーグ時代も含めると2006年からずっとヘッドコーチを継続しています。10年前と比べてバスケへの注目度が高まることに伴い、コーチにかかる重圧もどんどん増しています。その中でも、ずっと第一線で現場に立ち続けることができる原動力はどこにありますか。

なんで続けられるのか……。それは使命があるからです。僕は勝つことだけがすべてではないと思っています。日本のバスケットを良くしたい、と思ってこの道に入りました。今でこそオンラインで勉強ができたり、いろいろなコーチが海外に勉強しに行ったり、世界中から様々ななコーチが来てくれます。自分がコーチとなった当時は、そういう環境ではなかったです。だからこそ、バスケ界をもっと良くしたいという思いを持ち続けていました。温故知新ではないですが、かつての良いモノを残していきたい。そこに貢献できればと思っていますし、それが自分の使命かなと。

そしてキングスは、昔からこういうことを話していた人たちがいるチームです。自分と同じ想いを持った人たちと一緒に仕事をすることが極めて重要です。例えば、「良い選手だけを集めれば勝てるでしょ」というチームに行ったら、僕がやれることは少ないです。そういった割り切りはあります。

――Bリーグがビジネス面でも大きく発展することで、各チームが海外から実績あるコーチを招集するケースが増えました。それに伴って、日本人ヘッドコーチが生まれにくい状況です。この点に関してどのように見ていますか。

昔と比べると、日本人が簡単にヘッドコーチになれなくなった面は感じます。今はネットワークがあって世界と繋がっていて、各チームに売り込みもすごくあります。ただ、世界の良いコーチが入ってくるのは、日本人コーチが良くないからというのは違うと思います。よりクラブともコミュニケーションが取りやすいなど、日本人コーチの良い部分はあります。今は外国人のコーチが増えていますが、いつか日本人コーチが増える流れは出てくると思います。その時のために今は我慢の時期で、自分がチャンスをもらえた時に結果を出せるようにすればいいのではないでしょうか。

――それこそbjリーグができる前、コーチといえばトップレベルでの選手経験を持った人たちが大半でしたが、今は選手経験がない叩き上げコーチがどんどん増えています。桶谷コーチは叩き上げでは、最も実績を残している存在の1人となりましたが、この点について意識することはありますか。

最初はありました。僕がコーチのキャリアを始めた当時、JBLの複数のチームに連絡しましたが、全部断られた経験があります。昔はそういう時代でした。そこからbjリーグがスタートし、アシスタントコーチをやらせてもらい、周りに恵まれていくつかのチャンスをもらえました。その時、自分が結果を出して前を走らないと、後継者も育たない。自分がパイオニアとして、コーチはバスケット以外にも、コーチングの勉強をしないといけないことを伝えていきたい。そういう意味でも自分が頑張らないといけないと思っていました。

でも最近はそういうモノもなくなってきました。アメリカの大学で勉強をしている若者もたくさん増えてきました。ヨーロッパで勉強している人も僕が知らないだけでたくさんいると思います。簡単ではないし、ライバルも多いからかもしれないですが、コーチを一つの夢として、職業として目指してほしいです。

桶谷大

「言い方は悪いですが『人間力を高めるために必要なシーズン』だった」

――自身のコーチングに対する意識や取り組みについて、ここ2、3年で変化はありますか?

今はよりカルチャーをより強固なモノにしていくこと、自分がいなくなったとしてもキングスに良いカルチャーを残さないといけないと感じています。これは今までの先人がキングスでずっとやってきたことであり、それを一番意識しています。バスケットの個人スキル、戦術については自分が前に出てバンバンやることは、以前と比べると少なくなりました。人に任せることが、人を育てることだと思うので、そういった変化をしているところです。

――コーチングスタッフでいうと、今シーズンはかつての中心選手であるアンソニー・マクヘンリーが加入しました。彼が入ったことによる変化をどう見ていますか。

これまでキングスでは、プロで中心選手として活躍したコーチはいなかったです。マック(マクヘンリー)による元トップ選手からのアドバイスは、選手にとってよりダイレクトに届いたと思います。ただ、マック自身も「自分はコーチになりきれなかった」みたいなことを、一緒にランチをした時に言っていました。彼はとても良いコーチです。ただ、どんなに歳を重ねても誰だって悩みます。答えは参考書に載っている訳ではなく、それを解決していくのは簡単な話ではない。だからこそ「コーチって大変だな」とは話しました。

――現状維持は停滞と考える中、マクヘンリーの存在も含めコーチングスタッフにも今までにない刺激を入れていくことは必要だと思いますか。

ここ何年かはいろいろなコーチが来てくれて、少しずつ変化を起こしてくれています。そういうものは必要かなと思います。例えば(かつての名指導者である)いすゞ自動車の小浜(元孝)監督もそういうことをよくやっていました。小浜監督もどちらかといえば人を育てる姿勢の人で、外部からトーマス・ウィスマン(元宇都宮ブレックス、横浜ビー・コルセアーズHC)のような外国人コーチを連れてきて、自分の足りないところを補っていました。そういったところは参考にしています。

――あらためて2023-24シーズンはどんな1年だったと、総括することができますか。

言い方は悪いですが「人間力を高めるために必要なシーズン」だったと思います。優勝した次のシーズンがこんなに難しいのか、と思わされるシーズンでした。ただ、それでも最終的にファイナルにまで行くことはできました。自分たちの心の持ち方などについて勉強になるシーズンでした。

――最後にファンへのメッセージをお願いします。

皆さんがどんな試合でも最後までついてきてくれて、キングスを信じて応援してくれたからこそ、自分たちはCSクォーターファイナル、セミファイナルで勝つことができました。本当にファンの皆さんには感謝しています。これからもいろんなことが起こると思いますが、キングスは沖縄をもっと元気に、沖縄のためにという精神で選手もスタッフも戦っています。そこだけはブレないようにこれからも戦い続けたいと思っています。