アンソニー・デイビス

写真=Getty Images

ファンの反応はブーイングから歓声に変化

1月下旬、アンソニー・デイビスは代理人を通じて、今シーズン終了後に延長契約に応じる意思がないこと、そしてトレードを希望している旨をペリカンズに伝えた。この話が公になった瞬間から、2月7日のトレードデッドラインまでにレイカーズを中心とする争奪戦がスタートした。

結果的に、ペリカンズはデイビスをデッドラインまでにトレードしなかった。それは、シーズンオフに『特定選手契約』の規約から解放されるセルティックスからのオファーも検討すべきと判断したからだろう。2月7日を過ぎた今、ペリカンズがデイビスを再びプレーさせるかどうかが、後半戦のポイントになる。デッドラインにニコラ・ミロティッチをバックスにトレードしたことを考えても、ペリカンズは今シーズンのプレーオフ進出を諦め、ドラフト上位指名権を獲得するのに有利な立場に立とうとしていると考えていい。何故なら、大事なトレード要員であるデイビスがケガをするような事態になったら、夏のトレードに影響が生じてしまうからだ。

NBAがペリカンズに対し、出場可能な状態のデイビスを起用しなかったら、1試合ごとに10万ドル(約1100万円)の罰金処分を科すと警告したという報道もあった中、ヘッドコーチのアルビン・ジェントリーは、左手人差し指の負傷が治り、復帰可能な状態になったデイビスをコートに立たせた。

2月8日、本拠地スムージー・キング・センターでのティンバーウルブズ戦に出場したデイビスは、ホームのファンからブーイングで出迎えられた。ファンの心情からすれば、この反応も致し方ないだろう。デイビスは試合後「気にならない」とコメントした。「変な感じだったね。ブーイングしてくれたって構わないし、気にならない。僕は、コートに出て、バスケットボールをプレーするだけ。驚いたけれど、これも人生。自分のことが好きではない人だっているよ。とにかく、コートに立って、自分が大好きな競技をプレーできてうれしい」

だが試合が進むに連れて、観客にも変化が見られた。第1クォーターは、デイビスがボールに触れるたびに野次を飛ばした観客が大半だったのだが、エースがプレーを決めるたびに、その声が歓声に変わっていったのだ。退団希望を球団に伝えた選手であっても、そのプレー、チームのために全力を尽くす姿勢を見せられれば、ファンは心を掴まれてしまうもの。デイビスは第4クォーターにプレーしなかったが、25分の出場で32得点9リバウンドを記録し、チームは122-117で勝利を収めた。

第4クォーター終盤に接戦になると、観客は「AD!」とチャントしてデイビスのプレーを希望した。しかしジェントリーは、試合前から同選手の出場時間を最大でも25分と決めていたこともあって、ファンのリクエストには応じなかった。

デイビスは、デッドラインまでトレードが成立しなかった場合、ペリカンズの選手として再びプレーできなくなることも覚悟していたと言う。

「これはビジネス。球団の立場を考えたら、そういう状況も仕方がないと思って、準備していた。でも、球団からプレーして欲しいと言ってもらえて、気持ちをすぐに切り替えたよ。今はプレーに集中している。いつだってコートに立てば、効果的にプレーしたい。今日がどういう試合になるかは見当もつかなかった。シュートを決められるかどうかもね。でも、決められた。大事なのは、チームの勝利。なんだって、できることをする。僕はいつだってプロフェッショナルとして対応する」

シーズンオフにトレードされることが確実なデイビスは、すでに気持ちを切り替え、チームのために力を尽くすことを決めた。今はどう対応すればいいのか気持ちの整理がつかないペリカンズファンも多いかもしれないが、遅かれ早かれ、この日の会場に集まった観客のように、再びデイビスのプレーに魅了されるようになるのではないだろうか。