辻直人

文・写真=鈴木栄一

まだ万全ではないが「これから上げていきたい」

1月16日、川崎ブレイブサンダースは富山グラウジーズとの同地区上位対決に87-67で快勝。連勝を4に伸ばすとともに、中地区2位の座をしっかりキープしている。この試合、川崎にとって大きな存在となったのは11月23日以来となるリーグ戦出場を果たした辻直人の活躍だった。

第2クォーター、リードを縮められた直後に連続3ポイントシュートで突き放すと、第3クォーター中盤にもファウルを受けながら3ポイントシュートを沈める4ポイントプレーを成功。要所でビッグプレーを決めて川崎に勢いを与えた。

12得点4アシストと勝利に貢献した辻は、「久々にバスケットをした感じがします」と言う。復帰初戦は1月10日に行われた天皇杯ベスト8の千葉ジェッツ戦であったが、この時は「5対5のチーム練習に参加できたのが前日練習のみでした」とぶっつけ本番の状態であり、これといった見せ場のないまま終わってしまった。

しかし、今回の富山戦では十分にチーム練習を積めたことで「落ち着いてプレーできたのが一番でした。しっかり練習できたことが結果に繋がりました。シュートタッチが良くあと2本くらいは決めたかったですが、そこはこれから上げていきたい」と本人も手応えを得られた様子。

11月23日の栃木戦、辻は左肩関節脱臼を負った接触プレーの直後、ゲームが続行中であったが、コートに出てトレーナーの下に駆け寄った。それは「ケガした直後、やばいと思いました」と振り返るくらい激しい痛みを伴うものであったから。この負傷直後の感触から考えると2カ月かからずの復帰は「不幸中の幸いだったと思います」というものだった。

辻直人

「少しでもコートに立ってプレーすることが一番」

とはいえ「肩の状態は80%くらい」と万全ではない。それでも復帰するのは、次のような強い覚悟があるからだ。「プロとしてまずはコートに立って、結果を出してナンボだという思いがあります。自分がチームのために何かできるかを考えた時、少しでもコートに立ってプレーすることが一番。それで北さんと話をして、プレーをさせてもらっています」

その北卓也ヘッドコーチは、この日のプレーについて「ゲーム勘が戻っていない。スタミナのところもどれくらい持つかなという部分はありますが出しました。1本目の3ポイントシュートが入ったので気持ち良くプレーできたと思います。やはりニック(ファジーカス)とのプレーでズレができますので、そのへんはさすがだなと」と評価している。

思ったほどの重傷でなかったことに加え、今回もう一つ『不幸中の幸い』があったとすれば、それは肩の負傷でボールを使ったトレーニングができないこともあり、走り込みなど体力強化をじっくりできたこと。本来ならオフシーズンに行うものであるが、昨年夏には代表合宿、アジア競技大会からのワールドカップ予選と、代表活動で多忙を極めたことで、この身体作りのトレーニングをじっくりできなかった。

本人曰く「嫌いです」というこの持久力強化をこの時期にしっかり積めたことは、開幕当初から出場を続けている選手たちのコンディションがどうしても落ちてくるシーズン終盤に向けてアドバンテージとなり得るもの。あとはいかにゲーム勘を取り戻し、そして再び故障することなくプレーできるのか。後半戦の川崎のキーマンが辻であることは間違いない。