ニック・ファジーカス

文=鈴木栄一 写真=鈴木栄一、野口岳彦

昨年、『ニックと肉』と銘打って、川崎ブレイブサンダースのニック・ファジーカスと『バスケット・カウント』編集部による忘年会を実施。そんな機会を我々が逃すことはなく、今年も早々に年末のスケジュールを押さえてもらった。

去年の忘年会は『Bリーグ初年度の得点王&シーズンMVP、最強外国籍選手』という肩書きだったニックは、日本国籍を取得するとともに父親になり、身の回りが大きく変化している。今回の会場はニックお気に入りの『カリフォルニア・ピザ・キッチン ラゾーナ川崎店』。ニックによるオススメメニュー5選を食べつつ、今夏からここまでのシーズン前半戦を振り返り、また子育てについても大いに語ってもらった。

「もう何をするにも自分じゃなくハドソンが最優先」

──今年の日本バスケ界の大きな話題として、ニックの日本国籍取得がありました。去年の忘年会の時はまだ外国籍選手だったし、父親にもなっていなかったから、この1年での変化はすごく大きかったですね。シーズン中に代表合宿があるリズムには慣れましたか?

ヘッドコーチのフリオ・ラマスと僕は同じ方向を向いている。彼はBリーグが重要であることを理解し、その時の状況によって練習の強度も調整してくれている。代表合宿でのトレーニングについては何の問題もないよ。ナショナルトレーニングセンターは最高の環境だし、食事もいろいろと選ぶことができて素晴らしいんだ。でも、長く過ごすのは正直ちょっと退屈だ(笑)。一方で、代表のチームメートと一緒に過ごしてお互いをより理解するのは楽しいよ。

チームメートとは英語と日本語のハイブリッドで話す。代表チームに行ったら日本語で話す機会が増えるかと思っていたけど、スタッフはみんな英語ができるから心配いらなかった。

──父親になったことの変化も聞きたいです。プライベートは一変したのでは?

すべてが変わったよ。もう何をするにも自分じゃなくハドソン(息子)が最優先だからね。今までオフの日には昼まで寝て、Netflixを見ながらのんびり過ごして、夕食は外で食べていた。それが今は出掛ける先はアカチャンホンポだし、外食はあまりできなくなった。

今はだいたい21時には寝るんだけど、妻には「前はこんなに早い時間に寝たことがなかった」と言われる。でもハドソンは毎日6時半に起きるから、朝に世話をしなきゃいけないことを考えると21時にはベッドに入らないといけない。試合をコントロールすることはできても、ハドソンをコントロールすることはできないよ(笑)。

変化と言えば、見るテレビ番組も変わったね。ハドソンはミッキーマウスやアンパンマンが好きで、どうやら大きな鼻のキャラクターがお気に入りみたいなんだ。アンパンマンとかバイキンマンは知らなかったんだけど、辻(直人)に教わった。父親になるまで、アニメや子供番組を見ることがなかったからね。でも、子育ては本当に楽しい。ハドソンが歩けるようになったらもっと楽しくなるだろうな。今はすべての瞬間が貴重な思い出となっているよ。

ニック・ファジーカス

「竜青と一緒に親子スイミングに参加したんだ」

──富山でのワールドカップ予選、あなたの代表レプリカジャージーを着ている奥さんとハドソン君を見ました。

そう、カタール戦は家族が見に来てくれたんだ。彼女の両親と一緒にね。義理の父は、僕が日本代表としてプレーしていることを誇りに思ってくれて、代表の試合も応援してくれている。ワールドカップ、そして東京オリンピックを楽しみにしているよ。

──ハドソン君、0歳児にしてはかなり大きかったようですが、パパに似ましたか?

生後9カ月で90cm、12kgくらいだ。手もとても大きいし、僕に似て大きくなると思う。そもそも、僕の父親も208cmあるからね。この前、(篠山)竜青に赤ちゃんのスイミング教室があると教えてもらってスポーツクラブに一緒に行ったんだ。子供が泳げないと危険だから水泳を教えたかったし、僕の妻は水泳選手で、赤ちゃんにスイミングを教えていたこともあるからね。それで竜青と、彼の1歳半の息子と一緒に親子で行くスイミング教室に参加した。ハドソンはまだ9カ月なのに、竜青の息子より大きかった。教室には赤ちゃん用の水着が用意してあって、スタッフが一番大きいサイズを持ってきてくれたんだけど、一目見て「ハドソンには入らない」と思った(笑)。みんな大爆笑だったよ。結局、ハドソンには2歳児用の水着が必要だったよ。

──息子さんが物心つくまでプレーして、バスケットボール選手としての姿を見せたいと意識することはありますか?

そうだね。カタール戦のことも、いずれハドソンに「君が9カ月の時、お父さんがとても大事な試合で41得点を取ったのを見ていたんだよ」と話すのが楽しみだ。6歳か7歳になれば、その記憶は成長した後もずっと残るだろう。将来の夢のきっかけになるかもしれない。息子が僕のプレーを見て、お父さんのことを誇りに感じてもらえる年齢までプレーを続けることは大きなモチベーションになるね。

少し残念なのは、2020年にはハドソンはまだ幼すぎて東京オリンピックでプレーしても覚えていないだろう。でも、2歳か3歳になって歩いたり話したりできるようになったら、試合にも連れて行っていろんな人に「ほら、挨拶して」と言ってみたいな。NBAのクリス・ポール親子のように、オールスターゲームに連れて行ったり。ハドソンは日本語が問題なく話せるようになるだろうから、きっといろんな人と友達になれるだろう。

ニック・ファジーカス

「みんなが日本代表を誇りに思ってもらえるように」

──日本人になったことがもたらす変化にはどんなものがありますか。

バスケットボールをする上では大きな変化はない。バスケ以外だと、みんな僕が日本語をもっとうまく話せるようになると期待しているのを感じる。あと違うのは税金の支払いかな(笑)。他には運転免許を取ろうと思っている。チームからは運転の許可をもらっているんだけど、もう国際免許証では運転できないから、日本の免許証を取る必要がある。これまで日本で運転したことないし、アメリカと道路状況が違うので少し心配している。まあ大丈夫だと思うけどね。

──ちなみに、これまでの取材でもラゾーナの話題がよく出てきますが、実際どれくらいの頻度で通っているんですか。

週に3日か4日かな。自宅からすぐ近くだからね。アカチャンホンポとスーパー三和、他にもワイアードキッチンに行ったりする。特にタコライスが好きなんだ。シーズン中は週末にいつも試合があって、時には平日にも試合があることを考えると、試合がない日はほぼ毎日通っているのかもしれない。ラゾーナにはハドソンが遊ぶことができるキッズスペースあるのが大きいね。ハドソンが生まれる前は他の場所に行くこともあったけど、今は外出するならラゾーナだ。

──最後にファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

バスケットボールファンのみんなのサポートには本当に感謝している。帰化したら僕のtwitter、インスタグラムに多くの「ありがとう」のメッセージが来たのはうれしかった。ファンのみんなが日本代表を誇りに思ってもらえるように、ワールドカップ出場を決めたい。いつも会場に来てくれる川崎ファンにも感謝している。まだ、チームとしてやるべきことはあるけど、優勝に向けて最後まであきらめず頑張り、素晴らしいシーズンとするための方法を探し続けていくよ。