ファイナルラウンド全3試合で30分以上プレーし、大会ベスト5に選出
第89回皇后杯はENEOSサンフラワーズの10連覇で幕を閉じた。準決勝、決勝と2試合続けて32得点を挙げてMVPに輝いた渡嘉敷来夢を中心に司令塔の宮崎早織、林咲希、長岡萌映子と大舞台の経験豊富な選手たちが自分の役割をしっかりと遂行したことに加え、大会ベスト5に選出された22歳の若手、星杏璃のステップアップが優勝の大きな原動力となった。
ファイナルラウンドにおける星は、準々決勝の三菱電機コアラーズ戦で11得点4アシスト4スティールと攻守に渡って活躍すると、準決勝では21得点3アシストと特にオフェンスで大暴れし、Wリーグ連覇中のトヨタ自動車に20点差で圧勝する立役者となった。デンソーアイリスとの決勝戦でも6得点4アシストを挙げると、粘り強いディフェンスで相手のガード陣にプレッシャーをかけ続けた。
千葉の名門、昭和学院高出身の星は今シーズンでENEOS4年目となるが、過去3年間は安定したプレータイムを得られず大一番をベンチで過ごすことも少なくなかった。しかし、今シーズンは非凡なボールハンドリングとクイックネスを生かしたドライブに加え、成功率41.4%の3ポイントシュートを武器にWリーグでここまで平均11.4得点を挙げて貴重な得点源になると、ファイナルラウンドの3試合すべてで30分以上の出場と、押しも押されもせぬENEOSの主力選手となった。
「これまで大事な場面で試合に出ていなかったですが、頼れる先輩たちが引っ張ってくれて、『打てる時に打っていいよ』と声をかけてくれました。ディフェンスとか走ることなど、自分のできることを精一杯やったことが結果に繋がったと思います。課題はまだまだたくさんあると感じたので、これから再開するリーグ戦でも頑張っていきたいと思います」
このように大会を振り返った星は、主力として初めて獲得したタイトルへの思いを語る。「昨シーズンはほぼ試合に出ていない状況で、経験が全くないまま30分以上プレーする不安も本当に大きかったです。ただ、思い切ってプレーできるようにスタッフの方や試合に出ている先輩方がリードしてくれました。ベスト5をもらっていいのかという気持ちは大きいですが、この賞に見合う選手になれるようにもっと頑張っていきたいです」
「あきらめようとした時、やらなければいけないと思った気持ちが自分を変えさせた」
今シーズン、ENEOSの新たな主力選手として飛躍を遂げている星だが、特にインパクトを与えている非凡な得点力については、自分に任された仕事と強調する。「得点に絡むことはコーチからも求められていて、この試合だけでなくリーグ戦から意識しています」
今回の大活躍で、これから星は期待のニューヒロインとしてよりスポットライトを浴びるだろう。だが、本人は周囲の注目にも冷静でしっかりと足元を見つめている。「昨シーズンまでベンチで過ごしていた時の気持ちを大事にしています。悔しい時を経験してきたからこそ、試合に出させてもらっている時間は自分の仕事を一生懸命やりたいです」
こう語るように星は、今シーズンの飛躍の要因は何よりもメンタルの変化が大きいと考える。「試合に出られない悔しい思いが、自分を変えました。『もういいかな……』と思う時はもちろんありました。ただ、あきらめようとした時にやらなければいけないと思った気持ちが自分を変えさせたと思います」
早くから星の実力を高く評価してきた渡嘉敷も、「彼女は本当に気持ちが強いです」とメンタルを讃える。星が21得点を挙げた準決勝の試合後には、彼女の物怖じしない性格を次のように評していた。
「良くも悪くも宮崎(早織)がファウルトラブルになった時、『私がどんどん攻めていいんだ』という気持ちが絶対にあったと思います。日頃から自分はアン(星)と2対2をやっていますし、流れが悪くなったら自分たちで変えていこうと話をしています。周りの人は驚くかもしれないですが、元から星の力を知っているので自分は『そんなもんだよね。分かる、分かる』という感じです」
今回の大活躍で、これから星に対する相手のプレッシャーはより強くなってくる。だが、彼女は、自分のやるべきことは何も変わらないと語る。「試合に出た時は自分の仕事をやるだけです。ディフェンスでプレッシャーをかけ続けることと、得点に絡むことなど役割は明確なので、そこでチームに貢献していきたいです」
ENEOSにとって皇后杯の優勝は一つの通過点であり、次はトヨタ自動車に連覇を許しているリーグタイトルの奪還が至上命令となる。Wリーグ記録の10連覇を達成しているENEOSだが、星が加入以降はコロナ禍によるシーズン中断も含めリーグ優勝は達成していない。自身初のリーグ制覇に向け、星にはさらなる成長が求められ本人もその期待に応える覚悟を持っている