アルバルク東京

文・写真=泉誠一

はためく無数の怒れるルカコーチに戦慄が走る

「なるほど、ハロウィンだからか……」。そう思って納得し、その場をやり過ごそうとする自分がいた。

アルバルク東京のホームゲーム時、我々の作業場となる記者席はアウェーベンチ側のゴール裏に陣取られている。前半はホームのA東京が我々に向かって攻め、逆に一昨日の試合であれば栃木ブレックスが向こう正面でオフェンスを展開していた。開始4分15秒、恐怖の瞬間がやってきた。

フリースローといえば、ブーイングなどで妨害するのがバスケではお約束。ニョロニョロ動く赤い人がいたり、グルグル目を回す作戦に出たり、オリジナリティ溢れる妨害行為は見ていて楽しい。今シーズン2度目のホームゲームを迎えたA東京は奇策に出た。逆サイドで無数のルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチの顔が現れ、戦慄が走る。

ゴール裏に陣取るファンが怒れるルカコーチの顔がプリントされた横断幕(=顔段幕)をはためかせ、ライアン・ロシターのフリースローを妨害し始めた。ロシターは見事に(?)1投目を外す。ジェフ・ギブスに至っては2本とも外し、前半のフリースローを7本中4本成功(57.1%)に抑えたのだから、効果てきめんである。

アルバルク東京

「応援する同士が楽しくなれば」とファンが発案

ハロウィン企画と信じ、クラブ側が用意したものだと思いながら恐る恐るその顔断幕に近づくと、妄想とは違う事実が待っていた。「少しでもアリーナを一体化させながら、同じアルバルクを応援する同士が楽しくなれば良い」とこの恐怖体験を発案したのは、いつもルカコーチと並ぶコートサイド席で熱狂的なサポートをしている横田昌次郎さんである。

この発案について横田さんに聞いた際、「応援規制が厳しくなっているが……」との前置きがあった。Bリーグ観戦注意事項には『承認の無き横断幕や大型フラッグ、差別侮辱内容の幕および掲出物は使用できません』と明記されている。事前にクラブ側に了承を得るとともに、スポンサーにも協力してもらいながら、「チームの横断幕を作成しているところにかなり勉強していただいて実現できました」。このようなコミュニケーションがあってできた恐ろしい演出であり、楽しませてくれた。

しかし、試合の方は最後の場面で馬場雄大が逆にフリースローを2本とも落としてしまった。A東京のホームであったが、栃木から乗り込んだ黄色いブーイングもすごかった。延長までもつれ込む熱戦をさらに盛り上げたのも、両クラブのファンの力であることは間違いない。

さて、ルカコーチの顔段幕だが、相手を脅すだけではなく、昨日のように1本目のフリースローを落としたり、今後もし集中力に欠けるプレーをした時にもはためかせれば、気合いを入れ直す効力を発揮するはずだ。前半だけでお役御免となるのはもったいない。勝利に導く叱咤もファンの役割である。

アルバルク東京

コートから離れれば、優しくお茶目なルカコーチ

接戦の末に敗れたA東京だが、馬場がフリースローを失敗したことが敗因ではない。当たり前だが、そこに責任を押しつけるものは誰もいない。怒れるルカコーチも「終盤の勝負どころであり、とにかく強いプレーをしてほしい。ギャンブルはするな。ソリッド(堅実)にプレーすること。そして、ミスを気にせず思い切ってシュートまで行け」と延長戦のコートに向かう馬場の背中を押していた。9得点10アシストを挙げた馬場に対し、「ミスはあったが、それよりもチームに貢献してくれた活躍の方が大きい」と優しさを見せる。

強面なルカコーチだが、会見中にはしばしばジョークを言って自分で笑うお茶目な一面もある。顔が恐いのでジョークなのかどうか一瞬戸惑ってしまうが、その後に見える笑顔もまたチャーミングだ。昨シーズン、14番を背負っていた人形櫂世くんや、バックステージで選手の子どもたちと触れ合う時の優しいい表情は『顔段幕』とは別人である。と、これを書いてしまったら、顔段幕の効力が半減してしまうかな?

次戦はすぐにやって来る。10月20日(土)、21日(日)もホームのアリーナ立川立飛で、川崎ブレイブサンダースを迎え撃つ。厳しいスケジュールを強いられるA東京にとって、乗り越えなければならないハロウィン月間。怒れるルカコーチの顔段幕で、フリースローを阻止せよ!