ポール・ジョージ

『オールラウンダー』は特別な武器がない選手、その枠を超えるジョージの活躍

カワイ・レナードを長期欠場で欠くクリッパーズにおいて、ポール・ジョージの存在感は圧倒的です。エースとして得点を取ることはもちろん、ハンドラーとして試合を作ることもオフボールで動いてシューターになることもあり、ポストアップでインサイドの起点役すらも担い、ディフェンスに回ってもエースキラーとしてハイプレスもすれば、リバウンド担当としてゴール下を塞ぐこともあります。言ってしまえば『オールラウンダー』ですが、その一言ではとても言い表せないほどの働きぶりなのです。

ガードからセンターまで担当するウイングのニコラ・バトゥームや、ガードながら多用な役割をこなすテレンス・マンなど、クリッパーズには他にも『オールラウンダー』がいます。柔軟なラインナップ構成を可能にするオールラウンダーは戦略のキーマンであり、プレーの引き出しの多さを生かして相手の弱点を突くのが役割となります。特にプレーオフのような情報戦で重宝されます。

その一方でオールラウンダーは『特別な武器がない選手』でもあります。だからこそケビン・デュラントやレナード、そしてレブロン・ジェームズには適切な表現ではありません。若いころのポール・ジョージも高い能力を発揮しながら、もう一つ物足りないとの側面もあって『オールラウンダー』と呼ばれていたのかもしれません。

しかし、現在のジョージは『オールラウンダー』という表現をしたくなる活躍をしながら、その多くのプレーが『特別な武器』となっている稀有な存在です。クリッパーズのオフェンスを作り上げるゲームメイカーであり、3ポイントシューターであり、ディフェンスを壊すスラッシャーでもあり、相手ガードへハイプレッシャーをかけ続けることも、ビッグマン担当のディフェンダーでも、ヘルプ担当にもなります。戦術的に相手の弱点を突くのではなく、むしろ相手の強みを潰す担当として常に最も難しいタスクを与えられる特別なオールラウンダーなのです。

また、難しいタスクを一人でこなすだけでなく、試合中に目まぐるしく変化する役割に対応していく戦術力も持ち合わせています。高いスキルや身体能力はもちろんのこと、運動量に献身性、局面での集中力はリーグの中でも頭一つ抜け出ています。ケガ人がいる中でチームとしては目立っていないものの、個人としてはMVP候補に相応しい活躍です。

現在のMVPレースはデュラントやステフィン・カリー、ヤニス・アデトクンポらがリードしているとされています。ジョージにはデュラントほど絶対的な高さと正確なジャンプシュートはなく、カリーほど反則レベルの3ポイントシュートはなく、アデトクンポほどゴール下で圧倒することはできません。しかし、すべてのプレーをハイレベルでこなし、何よりもこの3人の誰が相手でも正面から止めるディフェンス力を発揮するのがジョージの特別性です。

『オールラウンダーを超えたオールラウンダー』とでも呼びたくなるジョージのプレーですが、それでもやはり『特別な武器』がなければ認められないのでしょうか。本来はレナードと役割を分け合う事でチームとしての強みを出していくのがクリッパーズのロスター構成です。相棒不在でもクリッパーズらしさが構築できている点を見ても、ジョージの評価はさらに高まってもいいはずです。