文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦、B.LEAGUE

田臥勇太との「対決の構図」を刺激に変えて

千葉ジェッツの富樫勇樹はBリーグ開幕からの4試合ですべてスタメン出場。昨シーズンは西村文男に譲っていたポイントガードのスターターの地位をがっちりと確保し、チームのオフェンスを引っ張っている。

今週末の栃木ブレックス戦は田臥勇太との「新旧ポイントガード対決」が話題となった。実際のところ、老け込む気配のない田臥に「旧」という表現はあてはまらない。冨樫も23歳と若いがプロキャリアのスタートは2012年、これからキャリアの全盛期に入ろうという段階で「新」という表現には多少の違和感がある。

クールな富樫だけに、これまでだったらこんな構図を冷ややかに受け止めたかもしれないが、Bリーグが始まった今は意識も変わっている。周囲が盛り立てる田臥との対決についてこう語った。「そういうふうに盛り上げていただいている、そこに自分の名前を出してもらえているのは光栄です。キャリアは全然違うし、自分がそこまでの選手とはまだ思えないのですが、名前を出してもらえるのはありがたいです」

司令塔としての思いも以前より強くなっている。チームの中心としての自覚を問われると、「自分がやらなければいけない、という気持ちは持っています」と力強く答えた。

「今年は外国人選手もタイラー以外はそこまで1対1をする選手じゃなくチームプレーヤーなので、自分がそこをうまく使う、また自分が得点することで相手が出てくるので、またうまく使ったり。やはり得点という部分を第一にやっていきたい」

もっとも、チームプレーの中心としての働きでは、少なくとも昨日の試合を見る限りでは田臥のほうが洗練されていた。激しい守備はチームディフェンスの第一手であり、攻撃の組み立ても「チームを走らせる」ことを重視。生真面目な、そしてスムーズなゲームメークで、多彩なオフェンスを演出した。

一方の富樫はどうか。試合は千葉ジェッツの負けに終わったし、チームの得点が57ではオフェンスが機能したとは言えない。司令塔である富樫のプレーにも及第点は与えられない。「チームが困った時に点を取らなきゃいけない。自分で行くという気持ちをもう少し持っていければ」と富樫は自身のプレーを振り返った。

低い姿勢でドリブルを突くだけで満員のアリーナが大歓声

それでも富樫だって負けてはいない。両チームを通じて「魅せるプレー」の回数が最も多かったのは富樫だ。これは5293名の観客の誰に聞いても異論のないところだろう。直線的なドライブと変則的なステップを織り交ぜて相手に奪いどころをつかませない。栃木ディフェンスの密集地帯を強烈なバウンズパスで切り裂いてのアシスト、上背に勝る相手のブロックショットの意図をあざわらうようなフローターでは観客が総立ちに。1対1を仕掛ける前、低い姿勢でドリブルを突くだけで大歓声が上がる場面もあった。

派手なプレーにはリスクも付きもの。田臥が83得点のオフェンスを演出しつつターンオーバーを1つも記録しなかったのに対し、富樫は5アシストに対し3ターンオーバーを犯している。それでも、プロフェッショナルとして観客を驚かせ、興奮させるのも大事。その輝くようなプレーは冨樫オリジナルの魅力と言えよう。

「魅せるプレー」について富樫に聞くと、「そこは選手として少しでも意識してやっていかないといけない」との答えが返ってきた。「特にこの身長でやっていると、同じことをやってもすごく見える部分があると自分で勝手に思っています。どう伝えればいいのか分かりませんが、小さな子供とかに勇気を与えられるんじゃないかと。Bリーグになって注目度も上がっています。魅せる部分もいつも以上に意識してやっていきたいです」

マッチアップした田臥についてはこう語る。「判断能力、今までの経験がすごくある選手なので、なかなかパスの行き場所も読めないですし、田臥さんがいることでパスの回りがすごく良くなっていると思います」

ちなみに田臥は富樫とのマッチアップを「個人的にはやっていて楽しい」と表現している。「彼の得点を一つでも抑えて、アシストを一つでも減らして、という狙いで。彼がオンボールを使ってそこから崩して、というのが千葉のメインのオフェンスになるので、全部抑えるのは難しいですが一つでも苦しめるように、僕もそうですしチーム全員が心掛けて挑みました」

栃木との第1戦は57-83と大差で敗れたが、第3クォーター中盤までは5点差で、追い上げムードに千葉ブースターが盛り上がるシーンは何度もあった。さらに富樫の魅せるプレーで何度も感情を爆発させられた。大野篤史ヘッドコーチは試合後に「不甲斐ない試合をしてしまった」と詫びたが、それでもブースターの大多数は「チケット代に見合った試合の価値」を感じながらアリーナを後にしたのではないだろうか。

立ち見席までびっしりと観客が入った船橋アリーナの雰囲気には、富樫も感動していた様子。富樫だけではなく、栃木を含めたすべての選手が、喜びに震えながらプレーしたのだろう。

富樫は言う。「空席がほとんどなくて、こういう会場でプレーできるのは幸せです。応援の声はもちろん聞こえています。そんなファンの方々のためにももうちょっと良い試合をしないといけないなあ、というのはあります」と富樫は言う。「チームとしてもう少し良いリズムでバスケットができれば、個人的にもチームとしても良いプレーができると思うので、これに満足することなく頑張ります」

田臥vs富樫の第2戦は今日15時試合開始。前売りチケットはすでに完売で、立ち見券のみが当日販売される。今日も満員の船橋アリーナ、田臥と富樫による「極上のプレー」を期待したい。

田臥は若い富樫とのマッチアップについて「個人的にはやっていて楽しいです」と表現。同時に「誰が相手でも負けたくない」と語った。