ロンゾ・ボール

「まずはディフェンスから自分たちのペースに引き込みたい」

ブルズは『勝負のシーズン』を迎えた。ニコラ・ブーチェビッチを獲得した昨シーズンのトレードデッドラインで示した『勝ちに行く』姿勢は、今オフにより明確になった。ロンゾ・ボール、デマー・デローザンとアレックス・カルーソを獲得してトレーニングキャンプを開始し、2つのプレシーズンゲームで見せたパフォーマンスでチームへの期待値は跳ね上がっている。

キャバリアーズ、ザイオン・ウイリアムソンとブランドン・イングラムが不在のペリカンズ相手に勝つのは当然かもしれないが、ブルズのトランジションの勢い、相手のローテーションを振り切るパスワーク、ディフェンス能力は注目に値する。ブルズが大型補強に成功しながらも、「プレーオフに進出できるかどうか」程度の前評価だったのは、オフェンスは良くても守れないチームだとみられていたからだ。それでも、ルーズな打ち合いになりがちなプレシーズンゲームで失点はわずか95と85に留めている。

ヘッドコーチのビリー・ドノバンは、「どの選手もウイングスパンが長い。これがまず大きな武器だ。あとは選手それぞれが良いポジションにいれば、相当なディフェンス力が期待できる」と言う。ザック・ラビーンは「サイズのあるチームじゃないけど、運動能力は高い。リバウンドを全員で助ければ、かなり良いディフェンスになるはずだ」と手応えを語る。

チームとともに個人の期待値を最も高めているのがロンゾ・ボール、トランジションとパスワークの中心にいるポイントガードだ。ペリカンズ戦では25分の出場で19得点、フィールドゴールは9本中7本成功で、うち3ポイントシュートは5本成功。さらに5リバウンドと4アシスト、2スティールと1ブロックを記録。ペリカンズのフロントもファンも、ザイオン・ウイリアムソンにハンドラーを託す自分たちのアイデアが破滅へと通ずるものではないかとの疑念に苛まれたに違いない。

ロンゾがボールを持つと、デマー・デローザンとラビーンは自分のレーンを全力疾走で駆け上がる。これまでもロンゾはプッシュし、縦に速いパスを出していたが、ウイングの走力があったとは言い難い。レイカーズ時代はジャンプシュートの成功率が上がらず、父ラバー・ボールの現場介入で周囲が騒がしかった。ペリカンズでは『勝利のメンタリティ』の欠如に直面した。だが、ブルズでは少なくとも自分の目指すバスケとチームの目指すバスケが同じ方向を向いている。

キャリア4年目を終えたところで2度目の移籍を経験することを、ロンゾは「これも僕の旅の一部だ」と表現している。彼は誰かと自分を比べることなく、ただ置かれた状況でベストを尽くそうとする。「僕の場合、4年間は浮き沈みが激しかった。でも、いろんな経験ができるのは恵まれているよ。自分が経験することにはすべて理由があると思っている。そして大事なのは、今ここでプレーできて僕が満足だということだ」と語る。

「コーチに指示されたことは何でもやるつもりで、昨シーズンは僕のプレーに少し変化があったけど、自分が得意なポイントガードに戻りたいと思っている。ブルズは今まで僕がやってきたプレーを評価し、僕のプレーのどこかを変えようとはしていない。だからこそ、僕は迷うことなくこのチームに来ることを決めたんだ」

ロンゾはクラシックなポイントガードだ。今のNBAでは、ポイントガードの多くは得点を取ることをメインの仕事にしている。ハンドラーとして自分が攻めの起点となり、フィニッシュまでの責任を持つ。ただ、ロンゾのスタイルはやや古い。ボールをプッシュしてリズムを作り出し、パスを回してチームメートをそのリズムに乗せて、チーム全体を動かす。それが彼のやりたいバスケであり、そのバスケにインパクトがあるからブルズの期待値は高まっている。

「このチームには僕のパスをキャッチできる選手が多い。トランジションからオフェンスを作っていきたい。それはつまり、このチームはディフェンスから始まるということだ。相手を止めて走り出せば、たくさんの選択肢を得られる。ディフェンスの一番手は僕になるね。スティールが決まることもあるだろうけど、第一の目的は相手のオフェンスを混乱させ、疲れさせること。ボールを奪うのも大事だけど、まずはディフェンスから自分たちのペースに引き込みたい」

「ブーチ(ブーチェビッチ)がリムを守る。残る4人のペリメータープレーヤーは連動してボールを狙い、引っ掛ける。他のチームと比べると、僕たちの武器はスピードだ。それをいかに活用できるかがカギになる」

2017年のNBAドラフトでレイカーズがロンゾを指名した時、マジック・ジョンソンは「彼のバスケIQはNBAでもトップだ」とロンゾを評した。コートビジョンとパスの精度、試合の流れを読む力は実際に高い。それと同時に、まだプレーオフの試合に出たことがない、実績に乏しい選手でもある。大いなる可能性を秘めてはいるが、まだまだ証明すべきことは多い。過去4シーズンで得た様々な知見を実力に変えたロンゾにとってもまた、『勝負のシーズン』となる。