アーロン・ゴードン

『本当にナゲッツに必要な戦力』であることを証明する戦い

26歳のニコラ・ヨキッチと24歳のジャマール・マレー。若きスター選手を擁するナゲッツの将来は明るいように見えるが、実際はそう簡単ではない。新シーズンは2人の年俸が6000万ドル(約65億円)に達し、2022-23シーズンには6500万ドル(約70億円)となる。ヨキッチはここで契約満了を迎えるが、MVPへの新たな提示はスーパーマックス契約以外にあり得ない。サラリーキャップの約半分を2人に費やせば、残りのメンバーの編成は困難を極める。さらに言えば、優勝候補ではあっても『最有力』ではないナゲッツに、ベテラン最低保証額でやって来るベテランはいない。さらにマレーが左膝の十字靭帯断裂という大ケガを負った。カンファレンスファイナルに進出した一昨シーズンのチームを上回るのは、そう簡単ではない。

本来であれば、昨シーズンが勝負の年だった。しかしゴードンが上々のデビューを飾った2週間後にマレーが大ケガを負って離脱。新シーズンは仕切り直しの再スタートとなるが、ヨキッチとマレーの体制が続く限り、サラリーキャップの縛りは年々厳しくなる。そのナゲッツの舵取りがいかに難しいか、その分かりやすい例がアーロン・ゴードンのここから数カ月となる。

昨シーズン途中にマジックから加入したゴードンの契約は残り1年。加入後すぐに、マジック時代からディフェンス寄りへとプレースタイルを変え、ヨキッチの負担を軽減する順応力の高さを見せた。マジックでは何から何までやらなければいけなかったが、ナゲッツではディフェンスとリバウンドに軸足を置き、オフェンスではプレーメークを他の選手に任せてフィニッシュに専念。こうして期待以上のプレーを見せたのだが、ナゲッツは彼との契約延長を躊躇している。

ナゲッツはヨキッチとマレーに続く大きな契約を誰に与えるか、慎重に見極めなければいけない。マイケル・ポーターJr.はNBAデビュー前に抱えていた腰のケガを克服して毎年ステップアップしており、生え抜きの彼にこそルーキー契約の次には大きな契約を与えたい。ゴードンは悪い選手ではなく、ギャリー・ハリスにRJ・ハンプトン、1巡目指名権とのトレードで獲得したのだから評価していないはずはないのだが、本当にナゲッツに必要な戦力かどうかの『見極め』は、これからの数カ月で行われる。

少なくともシーズン後半まではマレーが欠場する状況で、ゴードンはそれなりの結果を残すだろう。ただ、ナゲッツの要求は高く、他で替えが効く選手と見なされれば契約満了を待たずにトレードされることになる。サラリーキャップの状況が今よりマシだった昨夏、ナゲッツはジェレミー・グラントの慰留に失敗している。この失敗を繰り返すことはできない。

優勝を現実的な目標として掲げている以上、その視野に入るのは例えばレイカーズであり、レブロン・ジェームズとアンソニー・デイビス、ラッセル・ウェストブルックの『ビッグ3』に対抗できるロスターを作らなければならない。新シーズンのプレーオフを考えるとマレーの復帰が間に合っても100%の状態ではないはずで、その先も見据えたチーム編成、そのためのサラリーのコントロールが必要となる。

勝てないチームで7シーズンを過ごしたゴードンにとって、ナゲッツとの契約延長は理想的なシナリオであるはずだ。そしてナゲッツも、ゴードン以上のタレントを見付けるのは決して簡単ではない。加入直後にナゲッツのバスケにすぐフィットできたのは、これまで精神的なムラが指摘されてきた彼の成熟ぶりを示している。プレーオフで勝つことを考えれば、ディフェンスに特化した今のゴードンこそ必要な戦力だ。ただ、ナゲッツはより確信を持ったところで契約延長を決めたい。ゴードンにとっては開幕からいきなりクライマックス。良い契約を勝ち取り、プレーオフでチームを勝たせるという、自身のキャリアを左右する挑戦となる。