ケルドン・ジョンソン

デローザンの穴を埋めるべきタレントは、3年目の破滅的スラッシャー

ケルドン・ジョンソンはブラッドリー・ビールに代わって東京オリンピックに参加し、金メダルを手に入れた。もともとはアメリカ代表の練習相手として選ばれた若手のセレクトチームの一員だったジョンソンは、ずっと強化合宿に帯同していてコンディションに不安がなかったこと、加えてスパーズでグレッグ・ポポビッチのバスケを理解していたことで代替選手に選ばれた。

「ポップ(ポポビッチの愛称)はいつもと何も変わらなかった。スパーズでやっているのと全く変わらず、いつもと同じことを話していた。オリンピックだからといって変わらないのはポップらしいよね」とジョンソンは言う。「誰にでも役割があって、僕はプレーしたりしなかったりだったけど、チームが勝つために自分にできるサポートは何でもやったつもりだ。僕はただ自分らしくあり続けて、チームにエネルギーを与える存在でいようとした」

出場時間は合わせて23分、4得点3リバウンド3アシスト、というのがジョンソンがオリンピックで残した数字だ。十分ではなかったかもしれないが、金メダル獲得という結果を残したのだから問題はない。むしろ、代替選手としてチャンスを得て、他では味わうことのできない経験を得られた。「終わってみると現実味がなくて、今もまだ夢みたいだ。アメリカ代表のためにプレーできたのは光栄なこと。メダルを外すのは簡単じゃないね。こんなに大きな達成感があるんだから、ずっと身に着けていたいよ」

そのジョンソンにとって『現実』とはスパーズに戻っての戦いのことだ。1巡目29位で指名された2019-20シーズンは思うように出番を得られず、新型コロナウイルスによる長いリーグ中断も重なって、ジャンプシュートの改善に明け暮れることになった。それでも2年目の昨シーズンは先発に定着。1年目から図抜けたフィジカルの強さとコンタクトを厭わない激しいプレーがラッセル・ウェストブルックに似ていると言われ、『ベイビー・ラス』の異名を取ったプレースタイルは2年目になってさらに積極果敢なものとなり、直線的なドライブを仕掛け続けた。

彼のプレーを読むのは簡単だ。ボールを持ったらガード陣にパスを戻すか、ドライブするかの2択。行けると判断してリムに向かって加速し始めれば、プルアップジャンパーやフローターを選択することはほとんどなく、ゴール下まで突き進む。分かっていても振り切られる、あるいは押し切られてしまう力強さがジョンソンにはある。

フィニッシュに至るまで、そしてフィニッシュのプレーの引き出しが少ないことで、カバーに入ったディフェンダーにブロックを浴びることも多いが、それこそが彼の伸びしろだ。フィニッシュのバリエーションが増えれば増えるほど、ブロックされる回数は減り、フリースローを取れるようになる。またパスも決して得意ではないが、ヘルプ抜きでは止められないドライブの力強さを考えれば、きっかけさえつかめばアシストは急増するはずだ。

72試合中69試合に出場、うち67試合で先発を務め、28.5分のプレータイムで12.8得点、6.0リバウンド、1.8アシストは上々のスタッツと言える。それでも、21.6得点を挙げたデマー・デローザンの埋めるべき第一の存在はジョンソンだ。強引で奔放な持ち味を損なうことなく、プレーのバリエーションを増やして視野を広げる洗練さを身に着ける。フリースローでの得点と、ドライブからのパスで3ポイントシュートをアシストするプレーは、これまでデローザンが担っていたプレーだ。

ポポビッチは若手の育成に長けたヘッドコーチだと言われるが、その彼が長く率いるスパーズにおいて、21歳で50試合以上に先発したのはカワイ・レナードの2年目のシーズンしか例がない。ポップがジョンソンに付けたニックネームは『ムスタング』で、とんでもない馬力はあってもコントロールしづらい性能を、彼らしい皮肉を込めて表現したものだ。だが、NBAではすべてにおいて平均的なプレーヤーは必要とされない。ジョンソンのトガった才能の前に、ポポビッチは久々に武者震いしているのではないだろうか。

まだまだ知名度の高くないジョンソンだが、東京オリンピックでの金メダルを経て、スパーズでも大きく飛躍しても何の不思議もない。デローザンがいなくなったスパーズで、破滅的なスラッシャーのトガった才能はこれまで以上に発揮されるはずだ。