文=深川峻太郎 写真=野口岳彦
著者プロフィール 深川峻太郎(ふかがわ・しゅんたろう)
ライター。1964年生まれ。2002年に『キャプテン翼勝利学』でデビューし、月刊『サッカーズ』で連載コラム「お茶の間にルーズボール」を執筆。中学生の読者から「中身カラッポだけどサイコー」との感想が届いた。09年には本名(岡田仁志)で『闇の中の翼たち ブラインドサッカー日本代表の苦闘』を上梓。バスケ観戦は初心者だが、スポーツ中継を見始めると熱中してツイートしまくるタイプ。近頃はテニス観戦にもハマっている。月刊誌『SAPIO』でコラム「日本人のホコロビ」を連載中。

金テープに包まれた東京、大団円で終わった開幕戦

バスケットボールは、選手の緊張や動揺が如実にスコアに反映される競技なのかもしれない。9月22日に国立代々木競技場第一体育館で行われたBリーグの開幕戦は、アルバルク東京 80-75 琉球ゴールデンキングス。ロースコアとは言えないだろうが、どちらもあと10~15点ぐらい入ってもよさそうな試合だった。

つまり、シュートのミスが目立ったんですね。3ポイントシュートはけっこう入るが、簡単そうなシュートがなかなか入らなかった。

いや、どちらのチームも私は初めて見たから、ふだんのシュート成功率がどんなものかは知らないわけだが、テレビ中継を見た私のような「にわか」の皆さんは、「意外に入らないもんだなぁ」と感じたのではあるまいか。私は感じた。で、それは緊張のせいで手元が狂う選手が多かったからだろうと思うわけである。なんて単純素朴な感想なんだ。

実際、試合後の会見では、琉球ゴールデンキングスの岸本隆一が「見られていることを意識した」、「下手なことはできないと思った」と、強い緊張感があったことを正直に告白していた。それはそうだろう。約1万人(正確には9132人)に埋め尽くされた満員のスタンド&テレビの生中継なんて、ほとんど経験がないはずだ。

それより何より、コートがいつもと違う。LEDを敷き詰めたコートは、巨大なパソコンのディスプレイみたいな感じ。プレーが切れるたびにさまざまなCGが次々と映し出されるので、平常心でプレーするのは難しかったのではなかろうか。

それも含めて、この日に行われたのはあくまでも「Bリーグ開幕イベント」であり、試合はその一部でしかなかった。なにしろ開幕戦なのに「閉会式」があったほどだ。

最後は、川淵サンからカップを授与されたアルバルク東京の選手たちが金色のテープ(紅白歌合戦の締め括りに出るようなやつ)に「パパーン!」と包まれ、1試合を終えたばかりなのに優勝しちゃったみたいになってたからね。思わず来シーズンの展望を語りたくなってしまったじゃないか。

『フリースロー阻止率』では琉球ブースターの圧勝!

だが、そんな非日常的な開幕イベントの中でも、まったく緊張せずに伸び伸びと「プレー」した人たちがいる。2000人以上もやって来たという琉球ゴールデンキングスのブースターだ。私もさっき知ったばかりなのだが、ブースターとは、サッカーでいうサポーターのことである。彼らがもっとも強烈に存在感を示したのは、相手のフリースローのときだった。

バスケットボールの試合では、相手のフリースローをしくじらせるために、ブースターがゴール裏で手を振ったりブーイングをしたり口笛を吹いたりする。失敗すると盛大に拍手喝采するので、日本人のメンタリティにはそぐわない面もあるだろう。

開幕戦のテレビ中継で世間の知るところとなったので、今後、物議を醸す可能性もある。正直、初めてナマ観戦したNBLファイナルでその作法を知ったときは、私の中でもちょっと物議が醸された。

だが、これはバスケならではの「個性」として楽しむべきだろう。選手への「愛のムチ」みたいなものだ。そんな妨害なんか意に介さず、涼しい顔でフリースローをスッポンスッポンと決めてみせるのがクールでカッコイイ。

ところがこの試合では、どちらのチームもスッポンスッポンとはいかなかった。あの人数のブーイングも、選手たちにとっては未知の世界だったに違いない。とくに琉球ブースターのブーイングはすさまじい迫力。自分があそこにシューターとして立たされたら、たぶん涙目になるレベルである。一方のA東京ブースターは、最初は「お約束」として形式的にやっている感じだった。もしかしたら、そのあたりに旧NBL組と旧bjリーグ組の文化差があるのだろうか。NBLファイナルでも、琉球ブースターほどのブーイングは聞かれなかったような気がする。

しかし琉球側があまりにも本気でかかってきたので、A東京側のブーイングも次第に激化。その結果、最終的なフリースロー成功率は、A東京が41.7%(5/12)、琉球が55.6%(10/18)とかなり低い数字になった。どちらもミスが多かったが、「フリースロー妨害コンテスト」があれば琉球の圧勝である。

これ、シーズンを通して集計し、「最高フリースロー阻止率ブースター」を表彰したら面白いんじゃないかしら。各チームがそれぞれ独自の工夫を凝らした妨害スタイルを(ただし一片のユーモアは忘れずに)見せてくれると楽しいと思う。

「にわか」を一発で虜にする男、波多野和也の魅力

最後に、選手のことにもちょっと触れておこう。何も知らない「にわか」の私が最初に注目したのは、琉球ゴールデンキングスの波多野和也だった。あんなヘアスタイルを見せられたら、「こいつは絶対うまいはず!」と思うのも無理はない。私の世代なら子門真人、10~20代ならボボボーボ・ボーボボを思い出さずにはいられない豪快アフロである。こういう見た目の選手が活躍してくれると、にわかにとってはわかりやすくてよろしい。

その波多野、チームの中心的存在かと思いきやスタメンから外れていたのでガッカリしたが、第1クォーターの途中から出場し、チームが外国籍選手1人を選択した第2、第3クォーターではかなり長くプレーした(Bリーグでは6つの外国籍枠を4つのクォーターに分けて使う。この日の試合は、どちらも1Q=2、2Q=1、3Q=1、4Q=2)。役割は、わりかし地味。ゴール下で相手とガツガツやり合うシーンが多く、パスはあんまり回ってこない。

でも、彼の姿を追うのは楽しかった。味方のためにスペースを作り、リバウンドに必死で手を伸ばし、アウトしそうなボールに身を挺して飛びつく。たまたま勘違い(?)で注目した結果そうなったのだが、きっと、ああいう役回りの選手を見ているとバスケ観戦の面白さが広がるのであろう。それに気づけたのも、あのヘアスタイルのおかげだ。にわかファンの目をそのポジションに惹きつけてくれた波多野サンに感謝したい。今後も注目しますので、がんばってください。

にわかファン時評「彼方からのエアボール」
第1回:最初で最後のNBL観戦
第2回:バスケは背比べではなかった
第3回:小錦八十吉と渡邊雄太
第4回:盛りだくさんの『歴史的開幕戦』に立ち会う