デビン・ブッカー

「トリプル・ダブルはチームのみんなと達成したもの」

『8-0』はサンズにとって大きな意味を持つ数字だ。昨シーズン、『バブル』でのシーズン再開に臨んだサンズは『8-0』、つまり8試合すべてに勝利した。プレーオフ進出は果たせなかったが、若いチームはここで自信を付けた。『The Players’ Tribune』にディアンドレ・エイトンが寄せた手記の表現を借りるなら、こうだ。「サメのいる海で泳いでいたつもりだったけど、『バブル』で自分たちがサメなのに気付いた」である。さらに彼はこう綴っている。「血に飢えた若いサメたちの群れにクリス・ポールやジェイ・クラウダーが加わったらどうなると思う? 他のチームにとっては相当ヤバいよね」

現地20日に行われたカンファレンスファイナルの第1戦、若いサメたちはクリッパーズにとって「相当ヤバい」相手となった。クリス・ポールが健康安全プロトコルにより欠場したが、120-114で勝利を収めている。これでレイカーズとのファーストラウンド第4戦から『8-0』、つまり8連勝を記録したことになる。

前半はほとんど点差の離れない接戦が続いた。クリッパーズはルディ・ゴベアを攻略してジャズを打ち破ったスモールラインナップを採用したが、ゴベアよりスピードのあるエイトンにはこれが通じない。逆に第2クォーター後半にはエイトンの連続得点でサンズに流れを持っていかれた。それでもクリッパーズは後半に入るとイビツァ・ズバッツを起用してエイトンの良さを消し、戦術的な引き出しの多さを生かして優位に立とうとする。

しかし、ここでエースのデビン・ブッカーが奮起した。クリス・ポールが不在の分、ゲームメークに比重を置いていたブッカーがここからギアを上げる。6点ビハインドを背負ってタイムアウトを取った第3クォーター残り3分46秒から、すべて自分で得点を奪う12-4のランで試合を一気に引っくり返す。この12得点のうち8得点は得点効率が悪いとされるペリメーターからのミドルジャンパーだったが、自分のリズムで思い切り良く打つことですべて沈め、チームに流れを引き寄せた。

それと同時に、ブッカーはプレーメーカーとしてとにかくボールを早く動かし、試合のペースを上げ続けていた。ナゲッツをスウィープして1週間の休養を取ることができた自分たちと、ジャズとの激闘から中1日でフェニックスに乗り込んで来たクリッパーズのコンディションの差を突く作戦だ。これがボディブローのように効き、第4クォーターにインテンシティの差として表れた。

ポール・ジョージは39分のプレーで34得点を挙げたが、勝負どころの第4クォーターでは9分間のプレーで得点はフリースローによる1点のみ。ジェイ・クラウダーのフィジカルなマークをかわせなくなった。経験豊富なラジョン・ロンドにオフェンスの舵取りを託すも、むしろサンズの早い攻めに狙われることになった。ファストブレイクポイントは16-4とサンズが圧倒。セカンダリーブレイクまで含めればさらに圧倒的な差になる。

終盤の3ポイントシュート攻勢で、残り22秒で2点差まで迫られたサンズだが、前掛かりになりすぎた相手ディフェンスをドライブで簡単に割ったブッカーがダンクを決めて、クリッパーズの反撃を断ち切った。ブッカーはこの大一番で40得点13リバウンド11アシスト、キャリア初となるトリプル・ダブルを記録。クリス・ポール不在の穴を一人で埋めたとは言えないにせよ、11得点9アシストのキャメロン・ペインとのコンビでチームを見事に引っ張った。

プレーオフで40得点以上のトリプル・ダブルを達成した選手として、ブッカーはルカ・ドンチッチとオスカー・ロバートソンに続くNBA史上3番目に若い選手となった。それでも試合後の会見での彼は「すごく特別なことだけど、やっぱり勝ったことの方がうれしいよね。それに、トリプル・ダブルはチームのみんなと達成したものだと思っている」と語る。「アシストは相手のダブルチームとか様々なディフェンスを見てみんなが走ってくれた結果だ。リバウンドを取れているのはDA(エイトン)が相手をボックスアウトしてくれるからだよ」

それでもエイトンは「彼がチームを引っ張ってくれた」とコメントし、クラウダーも「今日はトリプル・ダブル級の活躍を期待していたが、本当にやってくれた。でも驚きはしないよ。プレーオフは初めてでも、それだけの力があることは分かっていた」と、エースの働きに称賛を惜しまなかった。

ブッカーにとってはキャリア6年目で初のプレーオフ。この試合がキャリア最高のパフォーマンスだったかもしれないが、彼自身は「何番目かはみんなの判断に任せるよ。僕はただ勝つことだけに集中する。僕らにとって、ここから先はすべての試合がこれまでで最高のビッグマッチになるんだからね」と語る。

初戦を勝ったことには大きな意味がある。しかし、コンディションの優位は次の試合からはなくなるだろうし、クリッパーズは試合を重ねる中での修正力が強みなだけに、油断はできない。それでもサンズの勢いは本物のように見える。試合を終えてロッカールームへと引き上げる途中、エイトンとブッカーはスマホを手にクリス・ポールに勝利を報告していた。いずれポールが戻って来れば、サンズの雰囲気がさらに良くなるのは間違いない。