佐藤賢次

川崎ブレイブサンダースは故障者の影響もあってシーズン前半戦はなかなか勝ち星が増えずに苦しんだ。しかし、試合を重ねるに連れてチームは噛み合っていき、3月にはBリーグ誕生後では初のタイトルとなる天皇杯制覇を達成。そして、帰化選手ニック・ファジーカスと外国籍2名を同時起用するビッグラインナップはリーグ随一の破壊力を持つ布陣へと仕上がってきた。最終的には東地区3位に終わったが、優勝候補の一角としてチャンピオンシップに臨む川崎の戦いぶりを、佐藤賢次ヘッドコーチに振り返ってもらった。

「途中から出てすぐに仕事をするのはすごく大変なこと」

──佐藤ヘッドコーチに確固たる信念がある中でも、ビッグラインナップが機能しないことで選手たちから迷いを感じたりすることはなかったですか。

正直、そこは難しかったです。ビッグマンを3人出すとバスケットが変わるので、少し油断をすると高さに頼って緩いディフェンスになることもありました。そしてビッグラインナップを使うことで、日本人選手のプレータイムは減るので、より短い時間で仕事をしないといけない。僕も現役時代はベンチメンバーだったのでよく分かりますが、途中から出てすぐに仕事をするのはすごく大変なことです。

そこで自分の価値を示せずにもどかしい思いを抱えていた選手はいたと思います。そんな中でもシューターは短い時間で結果を出すのが本当に難しいのに、天皇杯の決勝で大塚(裕土)が、第1クォーターの途中から出て3ポイントシュートを連続で決めて結果を出してくれたのはすごかったです。このように選手たちが、自分自身でこの難しい状況を乗り越えてくれたのは大きかったですね。

──特に一戦必勝のチャンピオンシップでは、状況に応じて5分などワンポイントで起用する選手たちも増える形になると思います。その起用はしっくりきている感じですか?

ビッグラインナップ、ノーマルラインナップの時間帯がある中で、短くてもそれぞれに役割を果たしてもらいたい時間があります。例えばレギュラーシーズン最後のSR渋谷戦、長谷川(技)は最初の5分くらいしか出てないですが、その5分を耐えきったことにすごく大きな意味があると本人にも伝えて起用しました。このように上手くハマればどこが相手でもウチのテンポでバスケットが展開できる手応えは感じています。

──川崎のビッグラインナップはビッグマンが外から打てるなど、ただ大きいだけではないという強さがあります。当然、相手もいろいろと対策を練ってきますが、それでも先手をとって試合を進められる手応えはありますか。

他チームにはない武器があることで、すごい自信になっている部分はあります。ウチのビッグラインナップはただ大きくてリバウンドに強いだけではなく、5人が連動することでフロアバランスが取れています。ウチの伝統であるリード・アンド・リアクト、臨機応変に相手のディフェンスを読んで誰かが反応したら周りがまた反応する。この阿吽の呼吸でプレーが繋がっていくところの質が本当に上がってきています。先手を取れるというより、良い勢いが作れる。出だしで苦しくてもビッグラインナップによってまた違った流れを持ってこられる手応えはあります。

佐藤賢次

「絶対に上がれると思いながらやっていました」

──NBL時代から、川崎はポストシーズンにずっと出場を続けています。それが今シーズンは危うい時もありました。その時は焦りなど感じていましたか。

順位はあまり気にしてなかったですね。一時期、地区6位となり順位表を見て「あーっ」とはもちろんなりました。でも、このまま勝てなかったらどうしようとかは正直なくて、絶対に上がれると思いながらやっていました。

やっぱり大きかったのは天皇杯のベスト8の千葉戦を勝てたことです。それで天皇杯ファイナルラウンドというリーグ戦以外の目標が3月にできました。このファイナルラウンド2試合を勝ち切るため連戦で大変だけど、勝ちながら少しずつでも成長していく。それが3月に繋がっていくと、リーグ戦以外にも一つの軸があったのは大きかったです。もし天皇杯がなかったら、順位のこともより気になってもっと大変だったのかもしれないです。

──いろいろと大変な時期を乗り越え、ヘッドコーチとして初めてレギュラーシーズンを終えた今はどんな心境ですか?

開幕戦が遠い昔のようです。それくらい長かったですけど、自分もチームもすごく成長した気がしています。昨シーズンより、今シーズンの方がよりチームとして成長して良いものを作れるようになった。試合を通して表現したいものが明確なチームになってきたと思います。

──ちなみに、バスケ漬けの生活の中でリラックスするために、やっていたことなどはありますか?

あまりないですよ。特に今年は気分転換で外に出れるわけでもないし、ボケっとしていましたね (笑)。何も考えないで、家のソファに座ってボケっとしている時間が一番好きだったかもしれないですね(笑)。

──最後にファンの方へのメッセージをお願いします。

レギュラーシーズン59試合、あらためてたくさんのサポートをしてくださって本当にありがとうございました。その力がずっと僕たちの背中を押してくれました。皆さんが、どんな時も支えてくださったおかげで今があります。チャンピオンシップは毎試合、全部を出し切ってとにかく勝つだけです。選手、チームスタッフだけじゃなく、ファンの皆さんも含めたファミリー全体で一体となってチャンピオンシップを勝ち抜き、ファイナルに行ってみんなで一緒に優勝したいです。