ホークス

トレイ・ヤング「コート上でケミストリーを作っていく過程を楽しんでいる」

14勝20敗。2月最後の試合でロイド・ピアースを更迭し、ネイト・マクミランに指揮を託した。指揮官交代がカンフル剤として短期的な効果を上げることはよくあるが、プレシーズンからの準備、これまでのプロセスをなくすことはチームのプラスにはならない。だが、ホークスにそれは当てはまらなかった。指揮官交代からの8連勝はカンフル剤だったかもしれないが、その先も安定して勝ち続けている。マクミランの下でのホークスは20勝10敗と急浮上し、プレーオフ圏内にがっちりと食い込んでいる。

マクミランはひたすらハイペースなバスケを追求した前任者から方針を変え、「できる状況であればスピーディに攻める、そうでなければじっくりチャンスを作り出す」スタイルへとバスケを変えた。それよりも、彼が指揮を執るようになったタイミングでボグダン・ボグダノビッチが復帰し、ダニーロ・ガリナーリも復調するなど、重要な戦力が計算通りのプレーをし始めたことのほうが、浮上の要因としては大きいかもしれない。

理由はどうあれ、マクミランの下でホークスは実際に勝っている。さらにラジョン・ロンドとルー・ウィリアムズのトレードも上手くいった。トレイ・ヤングのオフェンスの負担を減らし、彼がベンチに下がっている間にも勢いを落とさないこと。ヤング依存からの脱却という課題を解決するために獲得したロンドは機能しなかったが、ルーはハマった。4月の後半にヤングは足首の捻挫で戦線離脱したが、その間はルーが攻撃を組み立て、ボグダノビッチがエースとして得点を担う連携を高めるのに最善の期間となった。

この3年間で24勝、29勝、20勝と低迷を続けたホークスは、各ポジションに軸となる選手が揃い、選手層も分厚いチームになった。それでも直近でシクサーズに2試合連続で完敗を喫しているように、優勝を狙うにはまだまだ実力不足と言わざるを得ない。

ただ、何が足りないかと問われればそれはプレーオフでの経験で、経験豊富と言えるのはクリント・カペラぐらい。ベテラン勢もカンファレンスセミファイナル以降の経験が多いとは言えない。だからこそ、今シーズンのプレーオフでは少しでも長く戦い続け、若い選手たちに経験を積ませたい。

その経験を最も積ませたいのはトレイ・ヤングだ。NBAキャリア3年目で22歳のヤングは、ステフィン・カリーやデイミアン・リラードと渡り合えるポテンシャルを持っているが、プレーオフの試合を経験していない。それはつまり、オフェンスでは徹底的にマークされ、ディフェンスでは徹底的に狙われる『修羅場』を通っていないということだ。レギュラーシーズンでどれだけ得点を重ねても、それではカリーやリラードとは比較の対象にならない。追い付くかどうか以前に、まず同じ舞台に立つことが必要なのだ。

足首をケガしていた4月下旬、ヤングは『ESPN』の取材にこう語っている。「これまでとは試合へのアプローチが違う。そこがチームの成長だ。ここ何年かに比べてずっと多く勝っているけど、僕が足首を痛めただけじゃなくシーズンを通じて誰かしらどこかケガしている状況だから、そうでなければもっと上に行けただろうね。でも今はプレーオフに集中したい。みんなが万全でプレーオフに臨めるよう準備しているところさ」

「今の僕たちはそれぞれが自由にプレーできていると感じているし、それでいてお互いに助け合ってもいる。すごくまとまったチームなんだ。コート上でケミストリーを作っていく過程を楽しんでいるし、まあ何より勝てるのが楽しい(笑)。勝っていることですべてが上手く回っていると感じているよ」

チームにとっても、それは来シーズン以降のさらなる飛躍に必ず繋がるはずだ。今シーズンに関して言えば、6位以内をキープしてプレーイン抜きでのプレーオフ進出を決めれば快挙だと言える。しかし、その先を考えた場合、今の5位はキープしなければならない。プレーイン・トーナメントを避けたいのは当然だが、6位ではネッツ、シクサーズ、バックスの『東の3強』のいずれかと1回戦で当たることになり、選手層でも経験でも今のホークスには不利だ。プレーオフで最も得たい経験は『勝利』であり、そのためには『3強』よりはよほど与しやすいニックスかセルティックスを相手に戦いたい。

マクミランにとってそれは、リベンジの機会でもある。昨シーズンまで彼はペイサーズで4年連続のプレーオフ1回戦敗退を味わい、そのうち3度はスウィープ(0勝4敗)を喫している。若い選手の才能を引き出し、チームとしてまとめる手腕は高く評価されながら、『プレーオフで勝てないコーチ』と見なされたことが、屈辱的な解任劇を引き起こした。

ホークスにとってはプレーオフ進出の時点で快挙だが、来シーズン以降にその先に進むには、ここから1カ月の戦いぶりが非常に重要になってくる。ホークスはもちろん、トレイ・ヤング個人としてもマクミランも個人としても、是が非でも1回戦を突破しなければならない。