三好南穂&馬瓜エブリン

2020-21シーズンのWリーグはトヨタ自動車アンテロープスの優勝で幕を閉じた。ENEOSサンフラワーズはケガ人が続出して万全には程遠かったが、それでも皇后杯、プレーオフのセミファイナルでは『女王』らしい強さを発揮していた。その相手にファイナルで2連勝しての優勝だから、その価値は「歴史を変えた」と呼ぶに相応しい。悔し涙ではなく歓喜の涙を流した三好南穂と馬瓜エブリンに、『うれし涙の味』についてたっぷりと語ってもらった。

「受け身になるんじゃなくてアタックをちゃんと続けること」

──ファイナルが終わってしばらく経ちました。優勝を決めた瞬間よりも、じわじわと実感は増すものですか? また優勝したことで祝勝会だったり、個人的に何か『自分へのご褒美』みたいなものはありましたか?

エブリン Instagramのコメントがすごく多いので、「これは優勝したからなのかな」って思います。NHKに出演させていただいたり、そういうことも大きいのかもしれません。

三好 終わった瞬間はうれしいのとホッとしたぐらいで実感はなかったです。コロナなので優勝のお祝いはできず、オンラインで会社への報告会をやったぐらいなんですけど、メッセージをすごくたくさんいただいて、読んでいるうちに「優勝したんだなあ」と実感が沸きました。私はいつもだったら「優勝したら何を買おう」とよく考えるタイプなんですけど、今回のプレーオフは何も考えていなくて。だからまだ何もしていないです。

エブリン 今回は「後のことはすべて終わってから考える」みたいな感じで、みんな本当に集中していたと思います。自分も何も考えていなかったんですけど、お肉は食べに行きました。ブロンコビリーさんに(笑)。

──ENEOSは主力選手を複数欠いていても強いチームでした。皇后杯ですごく悔しい負け方をして、今回も第1戦ではギリギリのところまで追い上げられました。あそこで慌てず焦らず耐えることができた理由は何でしょうか。「大丈夫、慌てずに」という言葉だけで乗り切ることのできるような、生やさしい圧力ではなかったように思います。

三好 確かに、口だけで「大丈夫」と言ってもできないと思います。でも私たちは「大丈夫」と声を掛け合う時に必ず目を合わせる、目と目のコミュニケーションを意識していました。あとはこの3カ月、チームとしてディフェンスをひたすら強化して、リーグ後半戦の中でディフェンスへの自信がどんどんついていったことが、引っくり返されないことに繋がったんだと思います。

エブリン 特にセミファイナルがそうなんですけど、ENEOSさんの勝ちパターンをずっと見てきて、「ここで引いたら追い上げられるよ、逆転されるよ」と分かっていました。受け身になるんじゃなくてアタックをちゃんと続けること、自分たちの強みを出し続ければ、追い上げられても完全に相手に流れを持っていかれることはない。そういったアジャストが効いたと思います。

現役引退の栗原は「頼りない私たちを支えてくれた、大事な存在」

──引いてしまうのではなく、逆に攻め急ぐのでもなく、自分たちのペースを崩さなかったところが勝ちきれた大きな要因でしたね。1試合目の第4クォーター残り40秒、三好選手が強引なドライブからフリースローを得て2本決めるシーンは印象的でした。

三好 後から映像を見て、自分でも「1点も取ってないのによく行ったよな」と思いました(笑)。あの時は何も考えていなくて、気付いたらリングの下にいた感覚です。フリースローの後はノースリーで守る必要があるからディフェンスの確認をしたりして、「このフリースローを決めなきゃ」という気持ちは全くなかったです。

──エブリン選手は初戦で19得点18リバウンドとすごいスタッツを残しました。

エブリン 相手がENEOSさんだとか決勝だとか考えると自分はダメなので、何も考えずにいつも通りのプレーを意識していました。ゴール下のシュートを落としていたので、それで18リバウンドなのかも(笑)。数字は別として、ピンチの時こそしっかりアタックしよう、みんなが良い時はディフェンスとリバウンドを頑張ろうという意識で、そこは我ながら上手くやれたと思います。

──初戦を勝てば大きく有利ですが、2試合目を迎える時の意識はどんなものでしたか?

三好 もう一つ勝たなきゃいけないのは分かっていて、2試合目が始まるハドルの時にも「今日勝って終わりたい」と声を掛けました。「今日で終わらせたいよ」って(笑)。

エブリン 「なんとしても今日で勝ちきりたい」と、みんな同じ思いでしたね。

──2試合目の終盤、タイムアップの前から三好選手は感極まって泣いているように見えました。少し先走りましたね?

三好 あれは違うんです。一瞬泣きかけたのは、ルーカス(モンデーロ、ヘッドコーチ)が「ソウ!」と言った声が聞こえたからです。ソウさん(栗原三佳)が引退することは知っていて、やっぱりトヨタを9年間ずっと支えてくれて、今シーズンは自分が試合に出なくても私たちにずっと声を掛け続けてくれたソウさんが出るって聞こえた瞬間に、ダメだって分かっていたんですけど泣きそうになっちゃいました。

エブリン 自分はいつもヤンチャばっかりしてソウさんに迷惑かけてたんですけど、例えば試合で取り乱したりした時にいつも「こうしたらいいよ」って声をかけてもらっていました。そうやってメンタルを支えてもらってすごく助かっていました。

三好 オリンピックでも大活躍してスーパースターみたいな感じなんですけど、今シーズンもそこまで出場時間がなくても出ると必ず何かを残すじゃないですか。三菱戦でもソウさんが出て3ポイントシュートで勝ちに繋げたり。年下の私たちがうるさかったりメンタル的にまだ不安定だったりで頼りないんですけど、それをずっと支えてくれました。皇后杯で負けた後も、安間(志織)選手にずっと話し掛けてくれたり。本当にチームにとって大事な存在でした。あとは1年目に皇后杯で優勝していて、最後の年にまたリーグ初優勝なので、そういうことをできる人はやっぱりすごいんだと思います。

「ありがとう、って言いながら号泣したのは初めてでしたね」

──これまで悔し涙をたくさん流してきましたが、今回はうれし涙を思う存分流すことができました。

三好 本当にずっと悔し涙ばかりで、悔し涙しか流したことがないぐらいの勢いなんですよ、私(笑)。桜花学園は優勝回数が多いチームなんですけど、私は1年生の時はケガで、2年からベンチに入ったんですけど、2年と3年の計6回の全国大会で一度も優勝できなくて、Wリーグに入ってからもずっと負けていたので、自分にとっては人生で初めての優勝だったんです。優勝トロフィーを掲げさせてもらった時に、表彰台からの光景だとかみんなの喜ぶ姿だったりを見ることができて感無量でした。

エブリン 自分は勝って笑うことはありましたけど、勝って泣いたのは初めてでした。いろんな人の顔を見て、それまで長い間ずっと一緒にやってきたことを思い出して、「練習でバチバチやった相手と一緒に優勝できて良かったな」とか感謝の気持ちでいっぱいになりました。ステ(ステファニー)もそうで、自分の妹と優勝できる機会なんてないじゃないですか。こんなに「ありがとう」って言いながら号泣したのは初めてでしたね。

──気が早いですが、優勝したら次は連覇を目指すことになります。来シーズンのENEOSはケガ人が復帰するだけでなく、プレータイムを得て自信を付けた選手もいるし、悔しさが力になって今まで以上に強くなると思います。どう対抗しますか?

エブリン ENEOSさんはケガ人が戻って来て強くなると思いますが、自分たちも「一回負けたけど、ちゃんと勝てた」という経験ができて自信になりました。負けたくないチーム同士でまた戦えると思うと楽しみだし、これまでENEOSさんと対等に戦えなかったのがバチバチやれるようになれば、ファンの人たちにも「面白くなったね」と感じてもらえると思っています。

三好 ENEOSさんは今でも強いのにまた強くなると思うんですけど、私たちも若い選手が多いチームなのでまだまだ強くなれると思っています。まだ1回しか優勝していないので、連覇に挑むチャレンジャーの気持ちでやっていきます。

エブリン ガチッと噛み合った時は試合開始から21-0のランができる爆発力がありますが、まだまだ安定感が出せません。ファイナルで出した気持ちの強さをリーグを通じて出せるかどうか。そこは自分たちの伸びしろだと思っています。

三好 ディフェンスとリバウンドは自分たちでもすごいと思えるレベルになったので、そこを来シーズンはもっと磨き上げます。

──ほんの少しのオフを挟んで、日本代表の、東京オリンピックの戦いが待っています。こちらの意気込みも教えてください。

エブリン 優勝した時のメンタルを代表合宿にも取り入れたいですが、自分の場合はポジションが変わってくるので、代表ではまた勉強しないといけないです。気持ちのコントロールをしっかりしつつ、代表でも自分の良さを出していきたいです。

三好 私は3ポイントシュートを求められて呼ばれるので、今シーズンは確率が悪かったですが気持ちを切り替えて代表合宿に臨めたらと思います。あとはオリンピック出場がかかってくると、どうしても残るか落ちるかに意識が向いてメンタルの持ち方が難しくなるので、そこは勝負にはこだわりながらも、心の底からバスケットを楽しむことを意識してやりたいです。