藤田弘輝

琉球ゴールデンキングスは8連勝で今回のバイウィークを迎え、2位に4ゲーム差をつけて西地区の首位に立っている。4月にはいよいよ話題の新アリーナもオープンと、より注目を集めるチームを率いる藤田弘輝ヘッドコーチに、西地区4連覇、またその先にあるリーグ制覇に向けて何が必要なのかを聞いた。

「チャンピオンシップでホームゲームをより多く開催したい」

――現在のチーム状況についてどんな手応えを得ていますか。また、今の順位に関する率直な思いを聞かせてください。

自分たちがどういうチームで、どういうバスケットボールをやりたいかについて、チーム全体の意思疎通が少しずつできている印象です。順位について「全く気にしていないです」と言うのは嘘になりますが、あまり気にしないようにしています。ただ、あと少しで沖縄に新しいアリーナがオープンする中、地区優勝できればチャンピオンシップでホームゲームをより多く開催できます。そうなればバスケットを通じて沖縄の人たちに元気を届けるというチームの目的を実行できるチャンスが増えます。その部分で地区タイトルは少なからず意識はしています。

西地区連覇についての意識はあまりないです。そこばかりを考えて数値化された目標だけにとわられると、しんどくなってしまいます。沖縄の皆さんに元気を届けられるチームになっているのか、そこを見るようにしています。

――現在の連勝についての感想を教えてください。

相手との相性、その日のコンディションなども関係することで、連勝しているからチームの状態は良いとの評価にすぐに繋がるわけではないです。ただ、自分たちのやりたいディフェンスからのバスケットが浸透してきていることは、チームとして自信にしていいと思います。引き続きディフェンスマインドをもっと高めていきたいです。

連勝する前の三河戦と京都戦では大量失点を喫し、反省点が多くありました。自分たちを見失いかけた時期があって、そこから強度の高いディフェンスでゲームを作るメンタリティが高まっていることにはすごく手応えを感じています。ただ、まだ次のステップがあります。オフェンスは細かい原理原則はありますが、そこから選手たちでプレーを決めたり、ディフェンスを読んでプレーをしてほしいです。このメッセージが良い方向に行って、思い切りの良いオフェンスができている。相性はありますが、攻守が噛み合った時間帯が連勝中には少なからずありました。

――連勝中は故障から復帰したキム・ティリ選手の攻守にわたる献身的な働きが目立ちました。彼のフィット具合をどう見ていますか。

デビュー前からケガもあったりしてキングスで継続してバスケットをする期間を設けることができずにいました。それが、ここにきて形になってきています。ティリ選手はみんなをプレーしやすくしてくれる選手です。(ドウェイン)エバンス選手や(ジャック)クーリー選手は、どちらかというと彼らのスクリーンゲームやピック&ロール、ポストプレーによってディフェンスを引きつけるタイプですが、ティリ選手はスクリーンをかけて、そこから簡単にスイングしてオフェンスの循環を良くしてくれる。彼や満原(優樹)選手が繋ぎの役割をしてくれることで、ビッグマンのバランスはすごく良くなっています。

藤田弘輝

「個人的な欲はあまりなくて、このチームの成功を見たい」

――ブレイク明けはいきなり強豪の富山グラウジーズとの対決となります

ディフェンスのマインドセットは上がってきていますが、相性もあります。リーグでもトップレベルのオフェンス力を持っている富山さんに、僕たちのディフェンスがどこまで対抗できるのか。すごくチャレンジのしがいのある2試合になると思います。

――現実的にいうと、チャンピオンシップ出場は濃厚な位置にいます。すでにポストシーズンを見据えている部分はありますか。

あまり先のことを考えずに目の前の試合を丁寧にやることを心がけています。もちろん中長期の計画は立てていますが、その過程、日々の練習がすごく大切だと思っているので、チャンピオンシップについては特に意識はしていません。

――藤田ヘッドコーチにとっても、シーズンがクライマックスを迎えるにつれてプレッシャーはより大きくなってくると思います。その中でも、「コーチとしてこうありたい」と意識している部分はありますか。

失敗、経験から学んで成長していかなければいけないですが、それをやりつつ「自分らしくいること」を大事にしています。どのチームに行っても自分を変えずにやっていきたいです。自分らしさと言っても、そこに個人的な欲はあまりなくて「このチームの成功を見たい」という感覚ですね。選手たちやスタッフのハードワークが形になってほしい。また、アリーナに関しては本当に球団の人たちのハードワークが詰まっているので、その初年度に結果を残せたらうれしいです。

――プロコーチのキャリアを継続するためには結果を出すことが求められる中で、その姿勢でいられるのは少々驚きです。

単純にバスケットが好きで携わっているのと、一つひとつの過程に集中して先を見すぎないマインドセットでいます。だから、キャリアの先を考えるよりも人生一回なので今やりたい、楽しいことに全力で集中したいんです。ここで優勝して、次にああやって、という将来のプランは正直ありません。今で言うと沖縄という場所が大好きですし、キングスというチームはすごくプロフェッショナルなので、この状況に感謝しています。今を全力で楽しめていて、とても幸せです。

――あまり先を見ないということは、例えばチームが優勝して自分が胴上げされている場面を想像してモチベーションを高めるみたいなことは……。

ないですね。それに優勝しても胴上げはされたくないです(笑)。

藤田弘輝

「このチームがどこまで自分たちのバスケットを貫いて戦えるのか」

――ちなみに、プロコーチとして参考にしている指導者はいますか。

いろいろなコーチの振る舞い、言葉を参考にしています。例えばアマゾンプライムのドキュメンタリー『All or Nothing』を見て、トッテナムでのジョゼ・モウリーニョ監督、マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督に影響を受けました。他にもNFLニューイングランド・ペイトリオッツのビル・ベリチックの「プレーオフを考えずに次の試合の相手に集中する」部分などにも影響を受けています。『All or Nothing』はブラジル代表だけ見終わっていないのですが、それ以外は全部見ていると思います。

――いろいろな経験を積む中で、自身のコーチとしての理想に近づいているイメージはありますか。

そこは今でも葛藤ばかりで、どうしたらいいとか考えてばかりです。

――今のチームには優勝する力が備わっていると手応えはありますか。

20チームのうち1チームしか優勝できない難しい目標ではありますが、最終的にそこを目指してやっています。どれだけチャンスがあるかはやってみないと分かりません。ですが、選手たちがそれぞれの個性を出しながら、チームが良い方向に一つにまとまってハードにプレーできれば、どんなチームにも勝つチャンスがあると思っています。アンダードックのメンタリティを持って、インテンシティ高くプレーすることが大事です。

――では、シーズン終盤に向けての意気込みを聞かせてください。

これからは自分たちを見失う時期や試合があってはいけない。そこは気を緩めることなく、一つひとつの練習、試合に取り組んでいきたいです。口にするのは簡単ですが、ハードワークをどれだけコート上で表現できるか。シュートが入らない時はありますし、ターンオーバーがゼロの試合はなく、ミスは起こってしまいます。その中でトランジションに戻る。ボールプレッシャーをかける、ディナイを頑張るといった、100%自分たちでコントロールできる部分をブラさずに常に全力で取り組むことで、チーム力を高めていきたいです。このチームがどこまで自分たちのバスケットを貫いて戦えるのか。ここからが勝負になりますが、楽しみと表現するのは軽率だと感じていて、「やってやるぞ」という気持ちです。

――最後に、キングスファンへのメッセージをお願いします。

琉球ゴールデンキングスへのサポートに感謝しています。皆さんが僕たちの試合を見て少しでも元気になる、明日も頑張ろうとポジティブな気持ちを持てるように戦っていきます。新アリーナがオープンした時、スタンドの一番上にいる人までそういう気持ちが届くようなバスケットをしていきたいです。今シーズンも最後まで一緒に戦ってほしいです。