ベン・シモンズ

このリーグにおいて『継続』は必ずしも正解ではない

ジョエル・エンビードとベン・シモンズはNBAでも屈指のタレントだが、スーパースターではない。彼らに欠けているのは勝つ経験である。だが、シクサーズがカンファレンスファイナル、あるいはNBAファイナルまで勝ち進む中で、その経験が彼らをスーパースターへとステップアップさせるのだとしたら、誰がチームをそこまで引っ張るのだろうか? 鶏が先か、卵が先か。その命題にシクサーズは足を取られ、動けなくなっている。

ロケッツでジェームズ・ハーデンをスーパースターへと成長させたのはGMの職に就いていたダリル・モーリーであり、指揮官のマイク・ダントーニだった。モーリーはシクサーズの球団運営部門代表に、ダントーニはネッツのアシスタントコーチへと転身した。ロケッツと決裂したハーデンが身を寄せるのは、この2チームのいずれか以外にあり得なかった。

ネッツはカイリー・アービングとケビン・デュラントが揃い、2枚看板が不在の間に経験を積んだヤングコアと合わせて新たな挑戦をスタートさせたばかり。チーム作りの方針をねじ曲げる必要はなかった。それを承知で取りに行くだけの魅力がハーデンにはあった。交渉は難航したが、何とか合意にこぎ着けて新たな『ビッグ3』を形成している。

ハーデンがロケッツに退団要求を突き付けたことが明らかになってから4チーム間の大型トレードが成立するまで2カ月弱の時間を要した。この間、ベン・シモンズとハーデンをトレードするとの報道が浮上したが、モーリーはこれを否定するとともに「シモンズはチームの将来を担う重要なピースだ」と発言した。もっとも、モーリーは過去にそんな発言の後にあっさりとトレードを成立させている。最近の例ではクリス・ポールが全く同じシチュエーションでトレードされた。

シモンズは若くて才能のあるプレーヤーだが、ハーデンの域に達するのだろうか。得点能力の面では比べるべくもない。シモンズには3ポイントシュートがなく、ペリメーターのジャンプシュートも決して得意ではない。力強いドライブで相手守備をこじ開け、そこからフィニッシュに行くこともできればパスをさばくこともできるが、キャリア平均の16.2得点が彼のポテンシャルだ。キャリア4年目、無限の可能性を有しているわけではない。シモンズとエンビードがこの数年間と同じ『少しずつ』のペースで成長したとしても、他のチームの伸びが上回るだろう。ジェイソン・テイタムとジェイレン・ブラウンを擁するセルティックスを超えられるのかは疑問だ。

このリーグにおいて『継続』は必ずしも正解ではない。勝っていないチームならなおさらだ。勝っていないチームが勝つためには強引なまでにその準備をやり遂げる必要がある。レイカーズはレブロン・ジェームズを迎え入れ、さらにヤングコアを投げ出してアンソニー・デイビスを獲得したことでブレイクスルーを果たした。ラプターズもカワイ・レナードを1年だけでも加えられるとなれば、何が何でも獲得しに行った。これらのやり方を踏襲しないのだとしたら、ウォリアーズがそうしたように毎年当たりのルーキーを指名し続け、スーパースターへと成長させなければならない。それが今のシクサーズに可能だろうか?

ハーデンとのトレード話がそれなりに信憑性を持った形で報じられたことで、今後のシモンズは『ハーデンとの比較』という重荷を背負うことになる。自分のプレーが悪かった時だけでなく、自分とは全く関係のないところでハーデンが活躍すれば「あの時にトレードしていれば」という目でファンは彼を見る。

モーリーは実際のところ、ハーデン獲得に興味を持っていたはずだ。だが彼は尻込みした。決断が編成の責任者である彼の仕事だが、逡巡してしまった。もちろん、トレードに応じなかったことが正解になるのかもしれない。だが、目の前にチャンスがあれば手を出さなければいけないのがこの世界のルールだ。次のチャンスがいつ訪れるか分からないが、モーリーは様々な思いを抱えながらその時を待つのだろう。