ジョン・ウォール

最悪の場合、ブラッドリー・ビール流出に繋がる可能性も

ジョン・ウォールは2017年、27歳になる直前にウィザーズとの4年1億7000万ドル(約190億円)の契約延長にサインした。契約延長に際してウォールは「フリーエージェントになる必要はない。このチームで優勝し、キャリアを全うしたい」と語り、ファンを喜ばせた。チームは直近の4シーズンで3度のプレーオフ進出を果たしており、24歳のブラッドリー・ビールも伸び盛り。東カンファレンスに君臨するキャバリアーズの天下は長く続かないと見られる中、それに取って代わる新興勢力として期待されていた。

しかし、その後の3シーズンでプレーオフ進出は2017-18シーズンの1度だけ。ウォールは2018年の年末にプレーしたのを最後に、2年近くコートから遠ざかっている。かかとの手術に踏み切った後、リハビリ期間中に自宅で転倒したことでアキレス腱を断裂。キャリアの最盛期を手術とリハビリに費やすことになってしまった。

ただ、ウィザーズにとって幸いだったのは、チームの中心であるウォールとビールの2人が球団と強く結び付き、2人も良い関係を保ち続けていたこと。ウォール不在の間にビールは急成長を続け、名実ともにエースへと成長した。2人の間に不仲説も浮上したが、ウォールは「僕は彼がいないと良いプレーができない。彼もまた僕がいないと良いプレーができないだろう。2人とも勝つことへのこだわりが強い。お互いを必要としているんだ」と、これを一蹴している。

ようやくウォールに復帰の目途が立ち、その間にビールがNBA屈指のスコアラーに成長したこと、また八村塁やトーマス・ブライアントなど若手が伸びたこともあり、新シーズンのウィザーズはようやく戦力が揃う段階にあった。しかし、ここに来て風向きが変わった。肝心のチームリーダーであるウォールが、球団にトレードを要求したのだ。

きっかけはトミー・シェパードGMがポッドキャスト番組『Lowe Post』に出演した際、トレードの噂が絶えないビールについて「ウィザーズはビールのチーム」と宣言したことだ。しかも彼はウォールについて「望んでケガをしたわけではないが、その間にNBAは進んでしまった」と語った。『チームの顔』であると自負していたウォールはこれに傷付き、トレードを要求したとされる。

チーム編成を預かる責任者としては軽率な発言だったと言わざるを得ない。長くプレーから遠ざかっているとしても、ケガは不慮の事故であり本人の責任ではない。ウォールのプライドに常に配慮し、復帰を目指す彼を後押しすべきだった。

スター選手の発言力は大きく、どんな契約があっても本人が強硬な姿勢を取れば通さざるを得ないのが今のNBAだ。それでも、ウォールをトレードするのは簡単ではない。もともと瞬発力を武器とするアスリート系のポイントガードで、大ケガとブランクを経てパフォーマンスをどこまで戻せるかは疑問符が付く。しかも高額契約をあと3年も残している。

ウィザーズにおける実績と、それに伴う影響力やリーダーシップがあればこそ、ウォールは高額契約に見合う選手だった。他のチームからすれば、今のウォール獲得はリスクでしかない。ウォール自身もそれを内心で感じていたからこそ、シェパードGMの発言に裏切られたと感じ、今回の過剰なリアクションに繋がったのだろう。

問題はウォールだけで終わらない可能性がある。ビールにトレードの噂が絶えないのは、彼がどれだけ活躍してもチームが勝てない限り評価されないことが、この1年で明確になったからだ。昨シーズンの彼は、キャリアハイの平均30.5得点を記録したにもかかわらずオールスターの選出から漏れた。兄貴分と慕うウォールが退団し、トレードの見返りも十分でないとなれば、ウィザーズが低迷から抜け出す可能性は限りなく低くなる。いよいよビールも自分のキャリアのために移籍を願い出る可能性がある。

ウォールは27歳でウィザーズにキャリアを捧げる決断を下した。ビールは今27歳だが、チーム状況はウォールが決断を下した時とは大きく異なる。ウィザーズは関係修復を図るだろうが、成功したとしても遺恨の種は残るだろう。そうでなくとも昼夜を問わずチーム編成に動かなければいけない時期に、ウォール問題にかかりきりにならざるを得ないのもマイナスだ。