ジェームズ・ハーデン

BLM活動を支持したオーナーの一人だが、共和党支持者

ロケッツは今まさに崩壊しようとしている。きっかけはヘッドコーチを務めるマイク・ダントーニの退任だ。シーズン中から契約延長のオファーを固辞し続けた彼は、プレーオフのカンファレンスセミファイナルでレイカーズに敗れた直後に辞任を表明。教え子であるスティーブ・ナッシュの要請を受けてネッツで彼のアシスタントコーチを務めることになった。さらには14年の長期に渡りGMとして手腕を振るってきたダリル・モーリーもシクサーズへと移った。

ヘッドコーチとGM、チームの根幹を作る2人が揃って流出したことが選手に不安をもたらし、さらに後任のヘッドコーチ人事で選手側の希望が無視されたことが決め手となり、ラッセル・ウェストブルックやジェームズ・ハーデンの退団希望へと繋がったとされる。それだけでなく、エリック・ゴードンとダニュエル・ハウス Jr.はチーム内の役割に満足しておらず、PJ・タッカーは契約に不満を持っている、というネガティブな内部情報が流れだした。

優勝には手が届かなくてもハーデンという稀代のスコアマシーンを軸に常に優勝候補であり続けたロケッツは、なぜこのタイミングで空中分解しようとしているのか。時間を巻き戻せるとして、後任ヘッドコーチを選手たちが望むジョン・ルーカスかタロン・ルーにしていれば良かったのか、あるいはダントーニのやる気を奮い立たせるアプローチが必要だったのか、1年前にさかのぼってモーリーが香港の民主化デモを支持するツィートで中国のファンやスポンサーの反発を招かなければ良かったのか。2年前にウォリアーズを追い詰めたプレーオフで、クリス・ポールがケガをしなければ良かったのか……。

しかし、本当の原因は意外なところにあるのかもしれない。ポッドキャスト番組『The Odd Couple』は、オーナーのティルマン・フェルティッタが今回の大統領選でドナルド・トランプを支持したことがチームに亀裂をもたらしたと伝えている。

今年8月、トランプ大統領の「NBAはまるで政治団体のようだ。好ましいことではない」との発言が物議を醸した。人種差別撤廃と社会正義の実現を訴える『Black Lives Matter』活動のために選手たちがプレーオフの試合をボイコットし、リーグもこれを支持する形で大統領選挙に関連した活動、警察と刑事司法改革など幅広い問題に取り組んでいくと宣言したことに対しての発言である。フェルティッタを含むオーナーたちは全会一致でリーグの方針を支持しており、このトランプの発言に対してはフェルティッタもこう反論している。

「ロケッツもNBAの一部だから政治団体ということになる。しかし、誰もが個人としての権利を持っている。そして今はみんなどこかの政治的な組織に属している。彼の発言には失望した。今こそ全員が力を合わせ、問題を解決しなければいけない時だ。彼の発言は残念だし、同意できない部分がある」

それでもフェルティッタは共和党支持者であり、今回の大統領選でもトランプが属する共和党のキャンペーンに献金をしていることが明らかになっている。これがどこまで影響を与えているかは定かではないが、この夏から秋にかけて明確にNBAとそのコミュニティにとっての『敵』だったトランプを支持しているとなれば、選手たちが逃げ出そうとするのも無理はない。