竹野明倫

8月末、大阪エヴェッサは天日謙作ヘッドコーチが悪性リンパ腫の診断を受け、療養に入ることを発表した。天日ヘッドコーチは昨夏9年ぶりに大阪に復帰。「Bリーグで最も早い展開のスピーディーなバスケを指向する」との言葉通りのバスケを展開し、Bリーグの時代になって勝率5割を下回っていたチームを西地区の強豪へと引き上げた。療養は「5カ月ほど」で、その間はアシスタントコーチの竹野明倫が実質的な指揮を執る。竹野は2017年に天日が率いる西宮ストークスで現役引退を決断し、そのまま天日の下でアシスタントを務めてきた。この3年間で学んだこと、そして大阪の指揮を執る意気込みを聞いた。

天日ヘッドコーチから学ぶ「コーチとは何ぞや」

──現役引退から3年が経ちました。選手としての感覚、プレーしたいという気持ちはもう全く残っていませんか?

心境としてはコーチが100%で、選手に復帰したいとかプレーしたいとかは全く思いませんね。むしろコーチとして選手の感覚は大事にしていたいんですけど、その感覚が薄れてきていると感じます。

もともとコーチをやるつもりはなくて、ケガをして1シーズンはプレーできないとなった時に天日さんから「お前はコーチの資質を持っていると思う」と言われて、そのシーズンが終わった時にアシスタントコーチとしてのオファーをいただきました。コーチっぽいキャラクターじゃなかったと思いますけど、その時期しか知らない人から見れば「こんなにコーチになってるの?」と思われるかもしれません(笑)。

──天日さんの下でどんなことを学んでいますか?

すべてのことを学んでいます。大きく言えば「コーチとは何ぞや」ですね。バスケットボールを通じて選手の人生が良くなり、成功の道に進むための手助けをするのがコーチです。コーチのやりたいことを押し付けて選手を苦しくするのがコーチではありません。その上で、チームとしてどうやってバスケットボールをするかを選手たちに理解させないといけない。コミュニケーションの取り方、表現の仕方。ああしろこうしろと言うだけじゃなく、彼らの耳にスッと入るような声の掛け方を天日さんは意識していて、そこは僕もすごく学ぶところです。あとは天日さんから本を借りて読んでいます。それまで生きてきた31年間よりもずっと、この3年間では本を読んでいますね。

──コーチとして目指すスタイルはどんなもので、今はどれだけ近づけましたか?

選手がプロキャリアの中で「竹野コーチに出会ったから成長できた」と思ってくれたら、それが僕にとっての成功ですね。でも、自分がなりたい存在とはまだまだかけ離れています。10点満点で言ったら1点ですね。

──経験はこれから積んでいくとして、残りの9点を補うためには何が必要ですか?

何を厳しく言うかですね。バスケットをチームでやっていく上でダメなこと、受け入れられることを選手にどう分からせるのか。ガミガミ言う存在にはなりたくないので、どう伝えていくかです。特に今シーズンは新加入選手も若手も多いので、チームのバスケットボールをどう伝えて分かってもらうかが大事です。彼らには力を発揮してほしいし、チームとしても発揮してもらわないといけません。そのためにどう伝えて、どう理解させるかは特に考えます。

竹野明倫

「昨シーズンよりもさらに走れるチームに」

──天日さんの病気には驚きました。現場を預かる形になりますが、どんな心境ですか。

天日さんには今もすごく助けてもらっています。調子が悪い日もあると思うのですが、毎日動画を送って見れる範囲で確認してもらっています。「どうやるかは任せるけど、ここは絶対にこうやらせて」などの指示をもらっています。もしかしたら「休んでください」と言うべきなのかもしれませんが、僕は言えていません。天日さんが見て感じたことはチームのためになるし、それについて僕が意見を言える立場ではないと思っています。

──あくまで天日さんをサポートする立場は変わらないのか、この機会により大きな責任を負うのか、どちらの気持ちですか?

そこは上手く混ぜています。天日さんの下でアシスタントコーチをやっていても「自分がヘッドコーチだったらどうするか」という考え方はいつもしていましたし、それを天日さんに話して意見が合うかどうか確認していました。何が何でも自分がヘッドコーチとしてやっていかなきゃいけないとは考えていませんが、責任は負うつもりでいます。

僕もいずれはヘッドコーチになりたいと思っていますし、試合ではプレーを指示するのもタイムアウトを取るのも、天日さんに聞くわけにはいきません。そのために何を準備しておかなければいけないのかは天日さんにも相談しながら、自分としての考えも準備しています。試合中にどんなコールをするかは、もともと天日さんと近いものがあるので、自分の感じたところでやれば大丈夫だと思っています。そこはあまり心配していません。

──プレシーズンゲームで指揮を執った手応えは?

京都との試合ではハーフタイムに怒りましたが、同じ部分の指摘で天日さんからスタッフに「ダメだ、何とかしてくれ」と指示が入っていたんです。同じことではあったのですが、怒りの度合いでは天日さんの方が上でしたね(笑)。

良い経験をさせてもらっていますが、チャンスだとは思いませんね。これをきっかけに、みたいなことは全く考えていません。でも、この経験をすることで、天日さんが戻って来た時にこれまでよりも天日さんを助けられるんじゃないかと思っています。

──『走るバスケ』は昨シーズンから変わらず、さらに突き詰めていくつもりですか?

そうですね。全く変わりませんが、昨シーズンよりもさらに走れるチームになっています。今年はチーム作りの早い段階からもっともっと走りたいと考えていました。速いテンポでプレーして、ボールも人も動かしたい。5人でバスケットをすることも大事だし、特にボールを横サイドいっぱい使って動かしたいです。時には自分のチャンスを犠牲にしてもチームメートにパスする必要があるので、それを選手にどう理解させるかですね。

竹野明倫

「練習がモノを言うのは間違いないと思っています」

──若くてサイズがある選手がたくさん加入して、昨シーズンに結果を出したスタイルをさらに高めていけば、かなりの好成績が期待できるのではないかと思います。

メンバーは揃っているしポテンシャルの多い若手もいますが、やってみないと分かりません。あとは僕がどうするかです(笑)。ひとまずは今から開幕までの短いスパンでやるべきことをちゃんとクリアしていくことが大事になります。

期待しているのはビッグマンのところ。外国籍選手がチームの中心を担うべきだと天日さんとも話しています。外国籍選手にボールを託して、彼らが何かを起こして、日本人選手がそこに繋がって来る。ジョシュ・ハレルソンやギャレット・スタツにはインサイドはもちろん、アウトサイドの部分でも期待しています。ようやくチームの5on5ができるようになりましたが、外国籍選手中心のバスケットを日本人選手がもっと理解して進めなければいけないですね。

みんな練習熱心なのはこのチームの良いところです。チーム練習の前後にやる自主練はアシスタントコーチのルーベン・ボイキンが引っ張ってくれています。僕が若い頃より、プロバスケットボール選手、プロバスケットボールクラブという形になってきていますね。大事なのはチームバスケットであり、自分たちが何をやりたいのかを理解してプレーすることですが、そのカギは日々の練習以外にありません。練習がモノを言うのは間違いないと思っています。

──チームの目標はチャンピオンシップ進出、そして優勝だと思いますが、竹野コーチが個人的に掲げる目標は何ですか?

自分のことは何も考えてないですね。今、僕がテーマにしているのは言葉を付け加えすぎないこと。言って意味があるのかどうかを自問するようにしています。自分がアシスタントコーチの立場になって、僕が一言付け加えることでいろんな人を動かすことになります。そこで誰かが何かできなくなる、ということがないように気を付けています。

──それでは、開幕を待つエヴェッサのブースターにメッセージをお願いします。

新型コロナウイルスを最初に出してしまったチームなので、スタッフが作ってくれたガイドラインを守り、気を付けながら日々の練習に取り組んでいます。期待してくださいと言える段階ではありませんが、やるべきことはやっています。いっぱい走ってファストブレイクをいっぱい出して、ディフェンスも前からプレッシャーを掛けて、エキサイティングなゲームをやっていきますので、皆さんも楽しみに見てほしいです。コロナの状況ではありますが、良いバスケをお見せしたいと思います。