齋藤拓実

齋藤拓実にとって昨シーズンは『飛躍の1年』となった。選手層の厚いアルバルク東京でプレータイム確保に苦しんだのから一転、移籍先の滋賀レイクスターズで先発ポイントガードとしてその才能を攻守に発揮。特にオフェンスでは平均13.0得点、5.4アシストと、いずれも日本人選手としては3位のスタッツを記録した。この夏には梶山信吾ヘッドコーチの「トランジションを強化したい」との求めに応じ、名古屋ダイヤモンドドルフィンズへの移籍を決断。「すべての面で成長したい」と語る彼は、自分の移籍をきっかけに名古屋Dを優勝できるチームへと変えようとしている。

「練習の中から戦うことでプレータイムを奪っていく」

──まずは名古屋Dへの移籍について教えてください。オファーは複数あったと思いますが、移籍先を選ぶにあたって重視したことは何ですか。また名古屋Dのどの部分に魅力を感じたのでしょうか。

やっぱり自分を必要としてくれるチームを選びたいと思いました。そうすればプレータイムは保証されるとまではいかなくても、そこまで気にせずにチームに合流できると思ったので、まずは自分をどれだけ必要としてくれるか。あとは自分が入ってどういうバスケットをするかイメージできることでした。どういうバスケットをしたいか、僕にも自分の考えがあって、チームにも考えがあるので、そこはオファーをいただいたチームとはしっかり話しました。もう一つは昨シーズン、滋賀の中山佑介さん(パフォーマンススーパーバイザー)に指導してもらったウエイトトレーニングがすごく良かったので、そういった環境もどれだけ整っているのか、コミュニケーションを取りながら考えさせてもらいました。

──オファーを出すチームはどこも熱意を持って「齋藤選手が必要だ!」と口説くわけですよね。その中でも名古屋Dは抜きんでていたと感じましたか?

ありがたいことに、他にもすごい熱量でオファーしてくれるチームはたくさんありました。その中で名古屋Dの決め手になったのは僕が入るバスケットのスタイルがイメージしやすかった部分です。チームメートに実力のある選手がいて、同じポジションのポイントガードにも僕とは違ったタイプの選手がいます。笹山(貴哉)さんはずっとこのチームでプレーしていて『名古屋Dの顔』になっているところで、僕は新しいチャレンジをしたいと思いました。

ヘッドコーチから言ってもらえたのは、トランジションバスケをやりたい上で、ウイングがしっかり走ってもボールプッシュが足りないということです。僕は笹山さんや小林(遥太)さんほど身長がない分、スピードでプッシュはできると思いました。ウイング陣は日本代表の安藤(周人)さんを始め実力のある選手が多いし、狩野(祐介)選手も一緒に滋賀から移籍してきました。僕のスピードで周りを生かすというイメージができたことが大きいです。

──ここ4年間、名古屋Dは『笹山選手のチーム』としてやってきました。開幕まではチーム内競争があって、プレータイムを勝ち取らなければいけません。まだ競争はこれからだと思いますが、齋藤選手としては先発でプレーするつもりですよね?

練習はハーフコートでの対人がようやく増えてきたところで、外国籍選手がまだ合流できていません。でもチーム内で競争しあうのは大事だし、もちろん先発は狙っています。今おっしゃったように笹山さんは『名古屋Dの顔』ですが、僕としては練習の中から戦うことでプレータイムを奪っていくつもりです。

齋藤拓実

「どれかで突出するよりも、オールマイティーに」

──速いテンポを作り出せるポイントガードとして齋藤選手、苦しい時間帯に頼れるスコアラーとして狩野選手とレオ・ライオンズ選手、精神的支柱としてジェフ・エアーズ選手と、ピンポイントで良い補強ができました。ただ、名古屋Dはここまで『勝てていないチーム』であり、『変わらなければいけないチーム』です。新加入選手として『変える』役割を担う上で、このシーズンでチームをどこまで変えていきたいと思いますか?

チャンピオンシップで優勝できるところまで変えたいです。何かが足りないとすればリーダーシップの部分で、練習に合流しても僕のこれまでの経験を生かせると感じました。昨シーズンはスパーズでNBA優勝経験のあるジェフと一緒にプレーしましたが、彼は優勝するために何が必要かを熟知しています。最初は特にチームケミストリーのことをすごく厳しく言っていました。僕もアルバルクの時に優勝するチームがどんなものかは経験しています。まだ外国籍選手は合流していませんが、そういう厳しい意見を出すことは少なからず今の名古屋Dにとってプラスになると思います。

昨シーズンの滋賀には英語ができる伊藤大司さんがいて、ヘッドコーチと外国籍選手の間に入ってくれました。あれだけのコミュニケーション能力を持つ選手はいませんが、コミュニケーションをしっかり取ることがいかに大事かは分かっているので、僕と狩野さんで昨シーズンに良かった部分を名古屋Dに持ち込めたらと思います。

──齋藤選手はチームで2番目に若い選手になります。厳しい指摘をビシビシ言っていくのは難しいのではありませんか?

リーダーシップの部分は昨シーズンだと僕よりも伊藤さんや狩俣(昌也)さんがやってくれていました。僕はプレーの面でこうした方が良いんじゃないかとか、意見を出していく感じです。喝を入れることは正直まだまだできていないのですが、この移籍を機にそこも変えなきゃいけないと思っています。

チームに合流して、名古屋Dは本当に仲の良いチームだと感じています。良すぎてダメな部分もあるのではないかと思うので、そこのメリハリはしっかりと付けていかないといけないですね。

── 齋藤選手は以前から「チームを勝たせるポイントガードになりたい」と繰り返し語っています。でもポイントガードにはいろんなタイプがあって、自分の得点とアシストで試合を決める笹山選手のようなアタッカータイプもいれば、コート全体の状況を把握してコントロールする伊藤選手のような司令塔もいるし、ディフェンスでエナジーを出して背中で引っ張る狩俣選手のようなリーダータイプもいます。齋藤選手が思い描く『理想のポイントガード像』はどんなものですか?

今おっしゃられた全部ですね。どれかで突出するよりも、オールマイティーにできなきゃいけないと思っています。昨シーズンはディフェンスも評価してもらえたんですけど、プレータイムが長かったこともあってディフェンスが疎かになっていた部分があり、それで「狩俣選手はディフェンスでハッスルしている」という印象があったと思います。僕も滋賀でエナジーを出してディフェンスをしたつもりですけど、もっともっとやっていかないといけない。チームに何を求められるかを考えた場合「ハッスルしなくていいよ」ということは絶対にないので。ヘッドコーチからはディフェンスの強度も高いと言ってもらっているので、そこはアグレッシブにプレッシャーを掛けて、どんどん身体をぶつけていきたいと思います。

オフェンスでは、能力が高いウイングの選手たちを生かすことを考えて、自分で攻める回数は昨シーズンより減るかもしれません。そこでアシストを増やしつつ、そちらのマークが厳しくなった時に自分できっちり点数を取ることが大事になります。チームに求められるプレーを高いレベルでやりたいですけど、個人的に特にこの部分でアピールしたいとはあまり思わないですね。

齋藤拓実

「僕が日本代表に入るには、富樫選手を超えないといけない」

──明治大からプロに来て、ここまで一番成長した時期はいつだと思いますか。

一番は学生の代表チームにルカ・パヴィチェヴィッチが来てくれた時ですね。まだアルバルクのヘッドコーチになる前で、A代表のコーチをやりつつ学生の代表チームの指導もしてくれたんです。その時に教わったピック&ロールだったりディフェンスの知識がすごくて、短期間でバスケットIQがすごく高くなったと感じました。それがアルバルクに入るきっかけの一つだったんですけど、アルバルクではさらに洗練されたピック&ロール、強度の高いディフェンスを経験させてもらいました。学生の時から比べるとグンと伸びたと自分でも思います。

──A東京で良い経験を積んで、滋賀で結果を出して、今シーズンは名古屋Dでさらに突き抜けようというところですが、現時点で2桁得点が期待できて、爆発すれば得点を20に乗せられるポイントガードはBリーグの中でも数少ない存在です。オリンピックが来年になり、2023年には自国開催のワールドカップがありますが、日本代表への『欲』はどれぐらい持っていますか?

今はまだまだ結果を出せていないので、自分のチームで優勝を目指してやっていきたいと思います。その上で代表に呼ばれたらうれしいし、自分の力を試してみたい気持ちはありますが、日本代表のことで頭がいっぱい、ということはないですね。

──今は代表メンバーが発表されて、そこに自分の名前がなくても別に悔しいとは思いませんか。

優勝してナンボの世界にいて、滋賀ではあと少しでチャンピオンシップ進出という領域までは行けたと思うんですけど、今の日本代表のポイントガードの富樫勇樹選手、篠山竜青選手、安藤誓哉選手はみんな、自分のチームを勝たせて、強豪チームに定着させていますよね。そこが僕との違いで、まだまだ結果が足りていません。

── 齋藤選手は171cm、富樫選手ほどではありませんがポイントガードの中でも小さい部類に入ります。ポイントガードの大型化の必要が議論されている今ですが、小さい選手でもやれるのか、本当はもっと身長があればと思うのか、どっちですか?

身長、あったらいいですよね(笑)。他のところで負けるつもりはなくても、リバウンドでは勝てないので(笑)。実際、学生の時と違ってBリーグには2メートル以上あるインサイドの選手と常に戦っていて、そこでフローターでかわして決めたりすれば自信になるし、スタッツとして結果は出しているのでやれる自信はあります。でも、世界で戦うことを考えたらポイントガードでも190cmとか、ある程度のサイズが必要になってくると思います。小さい選手がダメだとは思いませんが、『小さい選手枠』はあっても1つですよね。つまり富樫選手と僕が招集されることは絶対にないはずです。僕が日本代表に入るには、名古屋Dでのプレーで富樫選手を超えないといけないと思っています。

──では、千葉ジェッツとの試合はいつも以上に意識することになりますか?

いや、優勝を目指す以上は千葉だけを意識することはないですね。

──頼もしいです。では、名古屋Dのファンの皆さんへのメッセージ、「やってやるぞ」という決意表明をお願いします。

僕を含めて新しい選手が移籍してきて、これまでよりももっと展開の速い、面白いバスケットができると思います。それができる選手は揃っているので、それぞれが上手く噛み合えば本気で優勝が狙えるチームです。実は僕はドルフィンズアリーナでの試合を一度も経験していないんです。アルバルクでは東京での試合しかなく、昨シーズンは途中で終わったので名古屋での試合がありませんでした。だから初めてのドルフィンズアリーナで、ドルファミの皆さんに会えるのを楽しみにしています。ケミストリーを大事にして優勝を目指しますので、応援よろしくお願いします。