佐々宜央

佐々宜央の2019-20シーズンは、12月に就任3シーズン目に突入していた琉球ゴールデンキングスのヘッドコーチを途中退任し、その後、2月中旬に古巣である宇都宮ブレックスにサポートコーチとして復帰を果たした激動の1年だった。そして新シーズン、様々な選択肢がある中、佐々は宇都宮にアシスタントコーチとして本格復帰を果たす。この決断に至った思いを聞いた。

「将来的な話をすると間違いなくヘッドコーチはまたやりたい」

──いろいろと聞きたいことはありますが、まず髪が眩しくなった理由を教えてもらえますか?

自粛期間中に柴犬の赤ちゃんを飼い始めました。そこでオヤジになるということで、柴犬と同じ色にしたというのが理由です。あまり面白そうじゃないですね(笑)。

──では本題に入ります。昨シーズン途中から宇都宮に復帰し、新シーズンも残留することになった経緯を教えてください。

そもそも昨シーズン途中に琉球のヘッドコーチを辞めて、2020年にもなったし、36歳で無職はまずい、仕事をしたいと考えていました。その中で、昔チームにいた時からの関係もあって、宇都宮の鎌田(眞吾GM)さんに相談に乗ってもらっていました。当初はチームにかかわるということではなく、スクールやクリニックにかかわる形で仕事をやらせてくださいというのが出発点でした。ただ、そこで「練習にも顔を出したら?」という話になって、「せっかくなので」とチームに加わる形になりました。ただ、サポートコーチの肩書きでしたけど、昨シーズンは練習で審判をする、試合もベンチの横でチームを応戦していたくらいのスタンスで、コーチングの仕事はしていません。

中断という形でシーズンが終わりましたけど、仕事がない中で相談に乗ってくれた鎌田GMの存在もあって、新しいシーズンでどこか他のチームに行く考えはなかったです。ただ、シーズンが切り替わったので、これからはチームに関わっていく仕事もしたいとなり、今回の契約延長でアシスタントコーチとしてお世話になる形となりました。

──ヘッドコーチを続けたいというこだわりはありませんでしたか?

正直、将来的な話をすると間違いなくヘッドコーチはまたやりたいと思っています。ただ、琉球をシーズン途中に辞めたことにはいろいろな理由がありますけど、すごく大きな部分で言ったら、やっぱり自分の力量不足が間違いなくありました。そういったところで、もう一回今は力を蓄える時期で、ヘッドコーチではないと素直に思っています。

佐々宜央

「ブレックスは日本人選手の役割を常に大切にしたいと考えている」

──これまでの経験を踏まえ、どのような形でチームに貢献していきたいと考えていますか?

かつてブレックスでアシスタントをしていた時と今では、自分もレベルアップはしていると思っています。そこは本当に琉球でヘッドコーチをやらせてもらった経験値がものすごく大きな財産になっています。竜三さん(安齋HC)もヘッドコーチとしては4シーズン目になりますが、指揮官ならではの悩みについて、手助けできる部分はあるんじゃないか。他の人にはできない部分で、自分がもたらせるのはそこかなと意識しています。

──安齋さんとはかつて宇都宮で同じアシスタントコーチを務め、今はサポートする立場です。関係性も変わることで気を使う部分はありますか?

ヘッドコーチだから言いづらくなったとか、そういう気の使い方は全くしていないです。もともとそういうところはなく、 竜三さんとは良い関係だと思っています。ただ、ヘッドコーチになると本当に見えなくなるものがあるんですよ(笑)。そこは自分が以前とは違って経験もあるので、気を使わなきゃいけないと考えています。 そういった自分が失敗してきた経験を ヘッドコーチに対して話す時もあれば、選手にアプローチする時もある。 竜三さんのために何かしていきたい、この点についてはすごく気を張っています。僕もあの人にはより良いヘッドコーチになってもらいたいし、その助けになりたいです。

──外国籍のレギュレーション変更により、ビッグマン以外の選手も取りやすくなりました。宇都宮もLJ・ピークとウイングの選手を補強し、ライアン・ロシターを帰化枠で起用できることを含め、選手起用のバリエーションはかなり増えていきます。

日本人の活躍という言い方が正しいか分からないですが、ブレックスは日本人選手の役割を常に大切にしたいと考えています。それこそライアンが帰化して、さらに自分でガンガン得点を取りにいく外国籍のポイントガードを取って彼らにボールを預けっぱなしという選択も可能性としてはあります。

ただ、ブレックスの理念として結果を求めると同時に、ボールシェアを常に意識して一人ひとりに役割がある。そこで日本人選手も主体となっていくものがあって、ピークを獲得することになりました。彼はユースの時にアメリカ代表に入っている経歴の持ち主ですが、ロールプレーヤーをこなせて、コーナーでスペースを作り出せる選手です。ハンドラーもできますけど、サポートの役割に徹することもできる。ボールがないと落ち着かない外国籍選手は多いですけど、彼はそういうタイプでないことは一つのポイントです。

──今はチーム練習がスタートしたばかりですが、それまではどのように過ごしていましたか?

ヘッドコーチを辞めましたが、将来的にはまたヘッドコーチをやりたい。その中でチームのマネジメント、組織を動かしていくところでの足りなさは痛感していたので、自粛期間中は本を読んだり、いろいろな映像を見たりしていました。結局はみんなが一つの目標に向かってストレスがなくなることはないけど、よりクリアな状況で向かって行くことが大事であり、そういう面で成功している社長の映像なども見ていました。その学びは今年のアシスタントコーチをやることにも生かしていけると思います。

佐々宜央

「純粋にバスケが好きだった時の気持ちを思い出せた」

──ちなみに『The Last Dance』は見ましたか? マイケル・ジョーダン全盛期をシカゴで過ごしていた佐々さんですが……。

そりゃ見ますよね。それこそ面白いのは作品に出ている映像の試合の中には、実際に会場で見ていたものもあります。それにジョーダンがニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで45番を着て55点取った試合も僕は会場にいました(笑)。

また、僕にとってあの時代のマイケル・ジョーダン、シカゴ・ブルズを見たのがバスケットを始めたきっかけでした。今は仕事となっていて好き、楽しいとはまた違った感情の中でバスケットと関わっている部分はあります。それが『The Last Dance』を見ることで、純粋にバスケが好きだった時の気持ちを思い出せた。そういう作品でしたね。

──王座奪還に向け、宇都宮はどこを高めていかないといけないと考えていますか?

ある意味スカウティングはされやすくなっているかもしれないですけど、チームとして良い意味で熟成してきていると思います。ただ、それでも初年度以降はファイナルに進出できていないので、そこには何か足りない部分があることも間違いないです。

そこで意識するのは、選手の主体性をより高めていくことです。試合の様々な変化に対して、コーチ陣がスムーズに対応していく力が必要です。それに加えて、選手たちもコーチの指示待ちではなく、自分たちで考えて動いていかないといけない。そこは渡邊(裕規)や遠藤(祐亮)は、僕が前にいた時とは全然比べ物にならないくらい成長しています。彼らだけでなく、これから加入するジョシュ(スコット)やピークも含めて、選手全員が自分たちで打開していく力をつける。相手がどうこうより、自己解決能力をいかに高めていけるのかが大事だと思います。

──佐々さんにとって新シーズンは、リスタートなのか。長いコーチ人生において、どんな位置付けになると考えていますか?

リスタートという言葉に違和感は全然ないです。ただ、これまで積み重ねてきたモノもあるので、やり直すというより変化の1年という考えです。古巣に戻って似たようなことをやるんじゃないか、という感じにならないためにも変化が求められる。自分自身でそれを求めていきたい。変化が進化に繋がって、チームに貢献できる1年にしていきたいです。

──開幕戦の相手は琉球です。そこに対する特別な意識はありますか?

もちろん今はブレックスの人間なので試合には絶対に勝ちたい。かと言って琉球で自分がかかわっていた選手のパフォーマンスがめちゃくちゃ悪かったらそれはちょっと悲しいですし、そういった私情が入るところはあります。Bリーグとして久しぶりの公式戦で、だからお互いが本当に質の高いプレーをして好ゲームになる。その上で最後はブレックスが勝つと思っています。

──ファンへのメッセージをお願いします。

昨シーズンの途中からいろいろな動きがある中、自分のところにも様々な声が届いています。その中でも、自分に対して声をかけたもらえたことへの感謝はあり、どんな形でも気にしてもらえたことをプラスにとらえています。自分がまた指導の現場に戻ったことを喜んでくれている人がいることは耳に入っていますし、そういう人たちのためにもバスケットを盛り上げたいという気持ちでやるしかない。ファンの皆さんは、バスケットを一緒に盛り上げて行く仲間だと思います。

──最後に大事な大事な質問を忘れていました。柴犬の名前は?

これちょっと恥ずかしいんですけど、名前は公表しておきます。ソラマル。由来はご想像にお任せします。漢字の空に丸。どっちかというと空の方に意味がある。丸はあんまり意味がないです。