朝山正悟

広島ドラゴンフライズは、悲願だったB1昇格を果たした。ただし、それはポストシーズンを戦うことなく、シーズン中断とそれに伴う裁定によりもたらされたもの。新型コロナウイルスの影響があり、昇格決定の瞬間をチームとファンで共有することもできなかった。チーム創設2年目に加入し、キャプテンとして、時には選手兼任のヘッドコーチまで務めて広島をB1に引き上げるべく全力を尽くした朝山正悟は、この昇格をどんな気持ちで受け止め、新シーズンの戦いにどう思いを馳せているのだろうか。

「ようやくつかんだ昇格が、イメージとはだいぶ違う」

──新型コロナウイルスの影響によりシーズンは中止となりました。チームは好調で最後までやりたかったとは思いますが、プレーオフで負けるリスクも現実的にはあるわけで、とにかく昇格という目標は果たした形です。今回の昇格をどう受け止めますか。

僕は最後までやりたかったです。今シーズンはもともといる選手に加えて大型補強を行い、B2で結果を残すことを求められるチームでしたし、試合を重ねる中で「今シーズンは行ける」という実感、ここから終盤に向けてもっと上がっていく感覚がありました。結果としては信州ブレイブウォリアーズさんと勝率で並び、得失点差で2位だったんですけど、信州さんとは開幕で2試合やっただけなんです。プレーオフで戦うチャンスがあると思っていたし、そこでシーズン中にどれだけ成長したかをお互いに見せられると考えていました。だから、途中で終わってしまったことは今もショックですね。

──シーズン中止決定の後、昇格が正式に決まるまではライセンス審査の結果待ちでした。昇格が決まった時の印象は?

待つ間は毎日どうなるんだろうと不安でした。昇格が決まった時も、たくさんの方からお祝いのメッセージをいただいたり反響は大きかったんですけど、ここまで本当にいろいろあって、ようやくつかんだこの昇格が、イメージとはだいぶ違うな、と(笑)。あのタイミングで西地区優勝がもう決まっていて、あとは勝率1位を目指すというところで、最後はずっと連勝していました。シーズン終わりまで良い形で行って、プレーオフのホームコート開催を決めて、そこでファンの皆さんも含めて全員で喜びの瞬間を分かち合う。そんなイメージを思い描いて、追い求めていたところがありました。

だからまさかこういう形になるとは思っていなかったし、この状況でみんなでお祝いするわけにもいかないので。決まってから3日ぐらいは慌ただしかったですけど、そのままサーッと終わった感じです(笑)。

──広島に来て5年、「ここまで本当にいろいろあって」の部分を聞かせてください。2015年に加入を決めたのは、ヘッドコーチだった佐古賢一さんの影響が大きいと思いますが、2部でプレーするつもりはなかった。つまり、この時点でいずれ始まるBリーグでB2に振り分けられることは決まっていませんでしたよね?

決まっていません。自分自身としても広島が6チーム目で、自分のキャリアを考えた時に佐古さんの下でやりたいという気持ちが大きかったです。アイシンで一緒にプレーさせてもらった時に感じたこと、プライベートで一緒だった時に感じたことが大きくて、その佐古さんがコーチになってどんなバスケットをやるのか、そこに興味を持ったのが一つありました。もう一つは僕自身にいつかコーチをやりたい気持ちがあって、そのために良い経験ができると思いました。

朝山正悟

「いろんなことを乗り越えて、経験して今がある」

──しかし大変だったのはその後で、朝山選手は1年目に膝の十字靭帯損傷という大ケガを負い、Bリーグが始まるタイミングで竹内公輔選手が移籍してしまい、チームはBリーグ1年目に入れ替え戦に進むも横浜ビー・コルセアーズに敗れました。

1年目に昇格できなかったのは相当ショックでした。しかも、完敗でしたからね。でも、それらすべてが繋がっているんです。僕と公輔がまともにプレーしたのは数試合だけ。彼がアキレス腱のケガから戻ってすぐに僕がケガをしてしまったので。それでB1昇格を逃したあの試合があり、それで佐古さんがチームを離れてしまった。あの時期、僕自身も考えに考えたんですけど、最終的に出した答えは「ここからは自分が広島を背負う」ってことなんです。

まあ、まさか次のシーズンに選手兼任でヘッドコーチをやるとは思いませんでしたけどね(笑)。ヘッドコーチをやった2017-18シーズンは、背負わなければいけないこと、やらなければいけないことが多くて、一番キツかったです。プレーヤーとしての僕は24時間バスケットのことだけ考えることなくキャリアを過ごしてきたんですけど、あの時だけは寝ている時までバスケのことしか考えませんでした。苦しかったですし、あの経験が自分の中で生きているとも思います。また、あの時に感じたこと、支えてもらった人たちの思いが今に繋がって、僕のモチベーションになっています。佐古さんから受け継いだものもあるし、その後のいろんなことを乗り越えて、経験して今があるんだと思っています。

──「自分が広島を背負う」という覚悟は大きなものです。言ってしまえば、広島に来るきっかけだった佐古さんが辞めた時点で、B1のチームに移籍するという選択肢もあったのではないかと思います。それとは逆に、覚悟ができたのはなぜですか?

まず一つは、応援してくれるファンの皆さんのことです。僕の加入1年目はクラブ創設2年目で期待されていたのに、16試合に出場しただけでケガをしてしまいました。僕自身、広島にまだ何も残していないのに、ファンの人たちが体育館で「朝山、待っている」みたいなボードを画面に映るところに出してくれるわけですよ。そういった思いに応えなきゃいけない、何か返さなきゃいけないと思いました。確かに他のチームからのお誘いもいただいて、当時は悩んだりもしたんだけど、ここで向き合わなかったら一生後悔すると思いました。あそこで他のチームに移籍したら、ただプレーするだけの選手になっていたと思います。そうじゃなくて、自分がバスケットをする意義だとか、ユニフォームを着ることの責任感が、それまでと切り替わったタイミングでした。

──そういう意味でも、B1昇格の瞬間はファンと一緒に迎えたかったですね。

そうですね。オンラインでのイベントは企画させてもらったのですが、それ以外はファンの皆さんと接する機会が全くないので。だから早く来シーズンが始まってほしいです。ただ、今回一つ僕たちがプラスにできるとしたら、何もなければB1昇格がゴールになってしまったかもしれないことです。最後まで試合をして、昇格の瞬間をファンの皆さんに見せられたら、そこで目標達成になりますよね。でも今回、僕たちには『達成してしまった雰囲気』がないんですよ。みんなで喜ぶ瞬間がもう一つ先になった。それは多分、この広島のバスケット熱に火がつく一つの要素になるんじゃないかと思います。

朝山正悟

「簡単な言葉じゃないけど『背負っている』つもり」

──オンラインで実施した昇格会見で、朝山選手は「広島らしいバスケを見せたい」と語りました。それはどんなバスケですか?

佐古さんがヘッドコーチだった当初から、自分たちはチームとして泥臭さを大事にしてきました。地方球団ならではというか、一つの勝利に向かってコートの5人だけじゃなく、ベンチのメンバーもスタッフも、クラブも、それを見ているファンやスポンサーの人たちも含めて、全員でその雰囲気を共有して取りに行くんだ、という一体感が広島らしさだと思います。その裏にあるのはみんなが広島愛を持ってやれていることだと思うし、そこは自分自身も大事にしています。

──B1の舞台に立つまでの道のりは思った以上に険しくて、気づけば朝山選手は間もなく39歳です。プレーを見て身体的な衰えを感じることはないにしても、自分自分で年を取ったと感じることはありますか?

バスケをする上で調整の仕方は考えるようになりました。特に身体を作る時期は歯を食いしばって、若い選手たちに何とかついて行く感じです。毎年のチャレンジはありますが、シーズンに入った時に若い人間と一緒のペースでやっていたら、とっくにブッ壊れているので(笑)。そこは自分なりに調整のやり方は年々変わっていて、ルーティーンみたいなものは形になってきました。年を取ったというよりは、これが今の自分なのかな、と思うところですね。

──折茂武彦さんが同じシューターで、あの年齢まで現役を続けました。朝山選手は何歳まで頑張りますか?

いい迷惑ですよね、あの人は本当に(笑)。ずっとあこがれた選手だし、あの人の背中を追いかけてやってきましたけど、同じポジションというのもあるし、あの年齢までやったという指標を作ってしまったじゃないですか。僕は大ベテランの年齢なのに「折茂さんは50歳になるシーズンまでやった」と言われちゃうので、うーんって(笑)。

ただ、僕としては何歳までとはあまり考えていなくて、身体もそうですけど心の部分で、今はもう自分のためにバスケットをやる気持ちがあまりありません。自分の中で強いものは持っているし、簡単な言葉じゃないけど『背負っている』つもりなので、それが続く限りはやりたいです。

──満を持してB1に挑戦することになります。昇格まで時間がかかりましたが、無駄ではなかったようですね。

はい、それは間違いないですね。この5年間で年齢は確かに重ねているけど、プレーヤーとしても人間としても大きく成長させてもらいました。あと何年かは分からないですけど、それをB1の舞台で存分に出したいって気持ちでワクワクしています。

新型コロナウイルスがいつ終息するか分からない状況ですが、早くバスケットを見たい、スポーツを見たいと思っている人がたくさんいます。そこでまた試合ができるようになった時には、皆さんが感動と興奮を味わうことができるように、僕たちはコートで表現していきたいと思います。皆さんもB1での戦いを楽しみに今を過ごして、また会場に足を運んで温かい声援を送っていただけたらと思います。