文=丸山素行 写真=野口岳彦

篠山と辻を支えたセカンドユニットとしての働き

川崎ブレイブサンダースはBリーグ初年度の昨シーズン、レギュラーシーズンでリーグ最高勝率を記録し、チャンピオンシップでもファイナルに駒を進めて、前評判通りリーグの主役を務めた。ポイントガードの藤井祐眞にとっては3年目のシーズン、長丁場の60試合すべてに出場し、川崎が誇る強力セカンドユニットにおいて軸となった。

1試合平均のプレータイムは21.8分とキャリアハイの数字。先発ポイントガードを務める篠山竜青のプレータイム(22.6分)と比べても遜色はない。そして1試合平均7.8得点という数字は、篠山の7.5得点をわずかではあるが上回っている。

「去年は辻(直人)さんがケガで僕が出る時間も多かったので」と前置きをしながらも、スタッツにも内容にも藤井も十分な手応えを感じていた。「後半にかけてすごく良くて、個人としてもあれだけできたことは本当に自信になっています」と藤井は言う。

先発出場はゼロ。そこはキャリアの充実期にある篠山が総合力で上回ったという結果だ。その篠山もシーズン終盤にグイグイと調子を上げてチャンピオンシップで主役を演じ、日本代表でも評価を高めた。チームメートであり、先輩であり、そしてライバルでもある篠山を「うらやましいというか、すごいなと思いました」と純粋に称えるのがなんとも藤井らしい。

勝負の世界で戦うプロにとって、チーム内の競争もまた勝たなければならないもの。日頃からバチバチとライバル意識をぶつけることが、成長のためのモチベーションになる選手も多い。だが、藤井はそういうタイプではないようだ。「篠山さんと辻さんには前にボンといてもらって、その後ろに僕がいる。『どちらかがダメでも僕がいるぞ』っていう、その感じが好きなんですね」

日本のトッププレーヤーの背後に控える自身の立ち位置について「居心地が良いのかもしれないです」と照れくさそうに話す藤井だが、決して現状に満足しているわけではなく、「自分もそれに負けたくないなとは思ってます」と言う。藤井なりの矜持は「相手選手や相手チームに『こっちのほうが面倒くさいんじゃない?』って思われたいんです」という思いだ。

シーズンオフは実家のある島根県松江で『充電』

ベンチスタートではあっても、コートに立てば誰よりもエナジーを出し、オフェンスでもディフェンスでもその時に求められる役割に全力で取り組む藤井。開幕からファイナルまで走り続けたBリーグ1年目のシーズンは、相当にハードなものだったに違いない。新シーズンに向けた再始動を前にリフレッシュできたかを聞いた。

「準優勝で終わった後、ファン感謝デーまでは報告会やスポンサーさんへの挨拶回りをして。それから実家がある島根県松江に帰省しました。姉がやるというので僕も『じゃあ』とイカ釣りをして。兄もちょうど帰省したので、珍しく家族全員が揃いました。あとは祖父母の家に行ったり、鳥取にいる大学時代の先輩に会いに行ったり、地元のバスケ仲間と軽く遊びのバスケをしたり飲みにいったり。2週間ぐらいゆっくり過ごしました。その後の短いオフには静岡に行って、高校(藤枝明誠高)の仲間とBBQをしたり海に行ったり」

オフを満喫した後は川崎に戻って始動。現在は2部練習がずっと続く追い込みの時期で「かなり疲労が溜まっている」とのこと。それでも藤井の表情からは、一度リセットされて再びバスケに熱中する喜びが感じられた。ただ、先ほどの篠山と辻との比較に話題が戻ると、「前に出たい気持ちはあるんですけど、やっぱり辻さんは『持ってる』んですよ、スター性みたいなものを……」と言う。

篠山と辻よりも『前に出る』という意識が成長を呼ぶ

しかし、セカンドユニットとして十分な存在感を示した次のシーズン、やはり藤井には『主役の働き』を意識してもらいたい。それは藤井自身のレベルアップだけでなく、川崎のチーム力アップにもつながる。そう問いかけると藤井はこう言った。「もしかしたら、シーズンに入ればちょっとそういうモードになっているかもしれません。『今は辻さんじゃない、俺だから!』って。だからアーリーカップでもいろんな経験をしたいし、そうなれるように準備しておきます」

コート上で見せる激しさとは裏腹に、話をすると温厚で控え目な藤井。それでも新シーズンは『縁の下の力持ち』ではなく、縁の下からスポットライトを浴びる場所に飛び出し、そのアグレッシブなプレーを存分に見せてもらいたいものだ。