文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦、B.LEAGUE

Bリーグが始まって最初のオフも半分が過ぎた。ほとんどのチームが編成を終えて、新シーズンに向けたトレーニングも本格化しつつある。リーグが統合されてクラブや選手を取り巻く環境が大きく変わる中、各チームの編成はどのような考えの下に行われたのか。Bリーグ初代王者に輝いた栃木ブレックスの鎌田眞吾代表に話を聞いた。

「他で必要とされる選手をブレックスは多数擁している」

──このオフはチームの顔ぶれが大きく変わりました。Bリーグがスタートして最初のオフで、チームや選手を取り巻く環境が大きく変わる中、どのチームも編成は難しかったと思います。

Bリーグ1年目は何としても初代王者になりたいという思いでチーム一丸で戦い、最高の結果で終わることができました。しかし2年目を迎えるにあたり、難しさも感じていました。いろんなところから選手に声がかかるのは当然予測できましたから。

──選手の退団が先行する展開になりましたが、ある程度予想できたということですか?

そうですね。控えの選手の躍動もあって昨シーズンの結果がありました。クマ(熊谷尚也)や須田(侑太郎)選手はウチではセカンドユニットでしたが、スタメンとしてやれるチームはあるでしょう。声がかかればステップアップの気持ちが芽生えるのは当然のことです。彼らともいろいろ話はしたし、移籍が決まった以上は新天地で頑張ってほしいと思っています。

ナベ(渡邉裕規)の引退は想定外でしたが、前もって聞かされてはいたので、代わりをどうしようかと考えることができました。想定外だったのは古川(孝敏)選手ですね。私としては、どの選手にも残ってほしかったんです。特に古川選手はウチのエース的な存在で、残ってほしいという意思表示をずっとしていたのですが、結果的には他のチームを選ぶことになりました。そこは正直に言うと想定外でした。彼の思い描く環境を整えられなかった私の力不足でした。

──ファイナルまで勝ち進んでシーズンが長引いたことで、編成の面で出遅れたということはありませんか?

私としてはどの選手も残す前提だったので、出遅れた感じは特にないと思います。ただ、いろんな状況で選手が出ることになってしまい、それを受けて動くことになった部分はあります。どの選手もプレータイムを求めるのは当然ですし、やれる自信も付いてきたと思います。プロ選手として、そういう環境でオファーが届いたのであれば、それに関しては私は納得しています。

実際にリーグの規定で言えば、1月1日からは選手に声をかけてOKなので、その間に話もあったのでしょう。相手チームからは交渉通知書が郵送とメールで届きます。シーズン終盤になると結構ありました。でも、他のチームに必要とされる選手をそれだけ擁していることはブレックスにとっては良いことです。

「同じ方向を見ることのできる選手が集まっていた」

──今は自由競争とも呼べる状況で、複数年契約を結ばない限りはいつ誰が出て行ってもおかしくない。サインしない限りはどうなるか分からない中で、どんな基準で編成を行ったのですか?

昨シーズンもそうですが、優勝を目指して同じ方向を見ることのできる選手が集まっていたのがブレックスです。やっぱりベースとして、それは常にあります。優勝チームですが、もう一度優勝を目指すというチャレンジに対して、そこにしっかりと向いていける選手が必要でした。ポジション的なバランスはありますが、ブレックスとしてのチームコンセプトは重視しました。

例えば喜多川(修平)選手は実績もありますが、人間性も非常に素晴らしいと思います。アイシン時代から何度も対戦する中で、「ああいう選手がいたらいいよね」と常々思っていました。彼自身に頑張ってもらわなければいけないのはもちろんですが、我々もちゃんと彼にアプローチしてレベルアップしてもらえば、きっと大きな戦力になります。彼も自分のキャリアのことを考えて栃木を選んでくれました。

山崎選手はスラムダンク奨学金でアメリカに行った選手ですが、富山にいた昨シーズンまでは、正直そこまでスポットライトを浴びていたわけではありません。それでも身体の強さがあるし、バスケットに対する素直な向上心を持っています。182cmとそれほど大きくないですがウイングスパンがあって、遠藤(祐亮)選手のようにディフェンスで貢献しながらアウトサイドシュートを決めていく選手になれる。まだ24歳でブレックスで成長できる幅があると思っています。

──もう一人、鵤誠司選手は、長谷川健志ヘッドコーチの青学時代の教え子ですね。B1経験がないことは問題ではなかったですか?

NBL時代に広島で見ていましたから。ポイントガードであれだけのサイズがある選手はなかなかいません。今回は古川、須田、熊谷、渡邉の4選手が抜けました。鵤選手にはポイントガードから2番、3番までできる可能性があると思うので、プレーの幅を広げながら日本代表のチョイスに入るぐらいに成長できると見ています。ブレックスに入ってB1の選手たちと切磋琢磨したら非常に面白いんじゃないですかね。

「このチームだからこの結果が生まれている」

──そして昨シーズンの優勝に大きく貢献したライアン・ロシター選手とジェフ・ギブス選手は再契約が決まり残留となりました。ギブス選手のケガは問題ではなかったですか?

アキレス腱なので、期間は要するかもしれないけど100%治ります。彼は優勝に大きな貢献をしてくれたし、なおかつチームに非常に良い影響を与えてくれる選手です。もちろん早く復帰してほしいですが、しっかりと治して昨シーズンのようなパフォーマンスを見せてくれればいいと思っています。ロシターについては問題なく契約できました。彼はもう5シーズン目、外国籍選手でありながらチームに強い思い入れを持ってくれています。

──新たな外国籍選手のセドリック・ボーズマンは3番ポジションです。

古川選手が抜けた穴を補う意味があります。彼の代わりになる選手はそうはいないので、そこを1番から3番までこなせるボーズマン選手に。日本人ビッグマンの竹内公輔選手を擁するメリットを最大限に生かす意味もありました。さらに言えばボーズマンも勤勉なチームプレーヤーですし、最後にチームに加わった(アンドリュー)ネイミック選手もそうです。その点にはこだわったつもりです。

──ネイミックが復帰となった一方で、トミー・ブレントン選手がチームを去りました。

ネイミック選手については、チームプレーヤーであること、そしてバスケットに取り組む姿勢の部分を評価しました。ブレントン選手については、もちろん評価していたのですが、チーム全体のバランスを考えた時に相手の外国籍選手とマッチアップできるサイズの選手が必要だという判断をしました。

──ケガをしているギブスが復帰するまでのつなぎ、という考え方ですか?

いや、そこはギブス選手が復帰したタイミングで総合的に判断します。その時点でのチームのバランスを見て、最善の判断をしたいと思っています。

──ちなみに田臥勇太選手が栃木を離れるとは全く思っていなかったのですが、契約交渉とは別で、チームに対する要望など「こうしてほしい」という話は出ましたか?

わがままな選手ではないので、彼から「こうしないと嫌だ」というのは特にありません。契約の前段階からしっかりとコミュニケーションが取れているので、ざっくばらんに「こうなりたいよね」という意思疎通を常にしています。

誰かに特化するわけではないチーム、ということは常に話しています。チーム一丸となって、一人ひとりが自分の役割を果たす、同じ一つのところを目指す。個々の選手がすごいんだけど、「このチームだからこの結果が生まれている」というブレックスでありたいです。プロ選手なので、それぞれいろんな考え方があっていいとは思いますが、根本としてはファンがいて会社があってチームメートがいて、そういう成り立ちを常に理解している組織であるべきだ、みたいなことを話しています。

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