取材=小永吉陽子 文=鈴木健一郎 写真=FIBA.com

序盤に圧倒されるもツーガードで『走るバスケット』を展開

バンガロール(インド)で行われたアジアカップは昨日が最終日。日本は決勝でオーストラリアと対戦し、74-73と接戦を制してアジア3連覇を果たした。

オーストラリアは今回からアジアに編入された相手。FIBAランキング13位の日本は準決勝でアジア最高位である10位の中国に競り勝ったが、オーストラリアはさらに上の世界4位。グループリーグでは敗れており、リベンジを期しての対戦となった。

日本は藤岡麻菜美、水島沙紀、長岡萌映子、髙田真希、大﨑佑圭の5人が先発。この大会でブレイクした藤岡が武器であるドライブから先制点を奪うが、そこから2-12のランを浴びる。フィジカルなディフェンスに圧倒されて攻守に積極的を欠き、ケルゼイ・グリフィンとマリアンナ・トロのビッグマンにインサイドを破られる。またリバウンドに飛び込む姿勢も出せず、単純な高さでの争いではリバウンドで相手に圧倒された。さらにオーストラリアは力押しだけでなくシュートセレクションも良く、日本の守備の意識を内に向けては外からも効果的なシュートを決め、開始3分半で4-12となったところでトム・ホーバスヘッドコーチはたまらずタイムアウトを要求した。

ここで町田瑠唯を投入して藤岡とのツーガードに。町田がプレーのテンポを上げたことで日本の『走るバスケット』がようやく出るようになった。足を使ったディフェンスで相手にタフショットを打たせ、リバウンド争いにも激しさが出始める。攻撃も藤岡を中心に機能し、最後は藤岡のアシストを受けた長岡が難しいバックショットをねじ込んで17-17と追い付いて第1クォーターを終えた。リバウンドで7-17と圧倒されたことから考えると、よく持ち直したという立ち上がりだった。

窮地に陥った日本代表を救った水島の『爆発』

第2クォーターも藤岡と町田がハイテンポなバスケットを展開するが、オーストラリアも真っ向勝負に応じて一進一退の攻防に。それでも終盤、フル出場が続く藤岡は疲れからキレを失い、町田も投入されてからは休みなし。この2人がペースを維持できなくなったところでバスケット・カウントの3点プレーを連続で決められ逆転を許し、33-39で前半を折り返す。

日本は藤岡、長岡、髙田の3人がほとんど休みなくプレー。消耗戦しかあり得ない先の展開を考えると非常に厳しい状態だったが、ここで救世主が現れる。先発したものの仕事ができないまま最初のタイムアウトで下がっていた水島だ。第3クォーターになってコートに戻った水島は最初の3ポイントシュートを決めると、そのまま波に乗った。

水島の『爆発』とともに、守備を立て直したのも大きい。長岡は第2クォーター終盤、髙田は第3クォーター序盤に3つ目の個人ファウルを犯していたがプレーを続行。激しさを保ちながらもそれ以上のファウルをせず、インサイドでしっかりと身体を寄せてイージーシュートの機会を与えず、オーストラリアの攻めを停滞させた。

水島は3本の3ポイントシュートを沈めると、4本目は打たせまいと強烈に寄せた相手のファウルを誘い、3本のフリースローを落ち着いて決める。すっかりリズムの狂ったオーストラリアは、続いて3ポイントシュートを狙った馬瓜エブリンにも軽率すぎるファウルを犯す。馬瓜もフリースロー3本をきっちり沈め55-49。町田の速攻から宮澤夕貴のバスケット・カウント、終盤には大﨑もしぶとくシューティングファウルを誘うなど、当たりの出た水島だけでなく、他の選手もしっかり攻め切った。

消耗戦の中で光ったのは町田の『強気のプッシュ』

59-53と6点リードで迎えた最終クォーターだったが、オーストラリアのパワープレーを止められず、いきなり0-7のランを浴びて逆転される。この間に髙田が個人ファウル4つ目、日本は絶体絶命のピンチに追い込まれた。それでも残り6分44秒、水島の3ポイントシュートでようやくこのクォーターの初得点を挙げた日本は息を吹き返す。

突き放したと思った日本が再び盛り返したことで、今度はオーストラリアが苦しくなった。『走るバスケット』に合わせた結果、終盤になって日本のスピードについていけなくなる。日本も体力的には限界に近かったが、町田はペースを落とそうとせず、強気のプッシュから水島に打たせるセットオフェンスを続け、水島も「これ以上は打たせない」というオーストラリアの気迫のこもったチェックに遭いながらも、タフショットを決め続けた。

水島は準決勝までで2本の3ポイントシュートしか決めていない。プレータイムが短かったことに加え、ドライブ主体の藤岡がポイントガードで出ている時にはリズムをつかめなかったが、この土壇場で町田のゲームメークとガッチリ噛み合った。

ヘッドコーチのトム・ホーバスもこの2人を使い続けて勝負を託す。残り1分26秒、水島がこの試合7本目の3ポイントシュートを決めて74-71とし、オーストラリアを突き放した。

最終盤はオーストラリアのパワープレーを必死に防ぐ展開。大﨑が粘りに粘って、ファウルぎりぎりの当たりで相手のターンオーバーを誘う守備のビッグプレーを見せる。残り10秒でオーストラリア最後のポゼッション、相手の強引なシュートがリングに弾かれ、そのリバウンドに全員が飛びかかる間に試合終了のブザー。日本が74-73でオーストラリアを下した。

「日本らしい、しつこいバスケットができました」

最後までどちらに転んでもおかしくなかった激闘を振り返り、ホーバスHCは「日本らしい、しつこいバスケットができました。第1ピリオドの出だしは悪かったのですが、そこから我慢して我々のバスケットになっていった」と語る。

水島は第3クォーターで14得点、第4クォーターで12得点の荒稼ぎ。かなりのタフショットを含む7本の3ポイントシュートを決めてチームを救ったパフォーマンスについて「セナ(水島)はああいう選手、入ったら熱くなる。タイミングが本当に良かった」と称えた。

ケガで準決勝以降は出場のなかったキャプテンの吉田亜沙美はベンチから声を出し、メンバーを鼓舞し続けた。「今日はベンチメンバーが頑張ってくれたのと、エブリンにしろ赤穂(さくら)にしろ河村(美幸)にしろ、試合に出た時に自分の仕事をした結果。その中で髙田や大﨑がベテランとしてチームを引っ張ってくれました。日本のチーム力で勝った試合でした。悔しい思いをしている選手も中にはいると思いますが、そういった選手たちも勝ちにこだわって声を出したりとか、ベンチでも自分の仕事をちゃんと行なった結果の優勝です」

ポイントガードの吉田が大会の要所で不在となったのは、日本としては大きなピンチだったが、町田と藤岡がその穴を埋めた。若手の成長が目立つ大会を「個人的には安心しました。特に町田と藤岡の2人がチームを引っ張っていけるポイントガードになったと思うとすごくうれしかったです」

リオ五輪の先発としては渡嘉敷来夢、栗原三佳と本川紗奈生の3人が不在の大会。さらには吉田もケガという状況で、アジアトップの中国、そして世界4位のオーストラリアを破っての優勝には大きな価値がある。若手が大いにステップアップし、ベテランとうまく噛み合った女子日本代表は、2020年に向けてひとまずは『視界良好』といったところ。トム・ホーバスの下でチームがこれからどんな成長を見せるか、楽しみは続く。