文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一、FIBA.com

筑波大の吉田監督とルカコーチの2人がプロ入りを後押し

約1カ月前に発表された馬場雄大のアルバルク東京入りは、この夏のBリーグの移籍市場における最大のサプライズになるだろう。筑波大に在学中で、卒業するのは来年春。また馬場自身が海外志向を明言していた。それだけに、A東京への加入は予想外だった。

昨日行われたアルバルク東京の新体制発表会見に出席した馬場は、その意図をこう語る。

「吉田(健司)監督の下、筑波大学で4連覇を目指すという時に、どうしても海外挑戦のことが頭に浮かんで、後輩の八村塁選手だったり、1つ上の渡邊雄太選手が向こうで頭角を現して活躍していて、自分も向こうでやりたいって思いが強かったんです。この1年すごく悩んで、吉田監督と相談しながらやってきました」

「ルカヘッドコーチもA東京に行くということで、少しでもレベルアップできるところ、環境が整っているという部分でA東京を選んで、この先ハードなことを求められると思いますし、大学と違ったステージだと思うんですけど、貪欲な姿勢を見せながら常に目標は海外に置いて、成長できる場としてA東京で戦っていきたいです」

馬場がそう語るように、決断のキーマンとなったのは筑波大の吉田監督、そして新たにA東京のヘッドコーチになったルカ・パヴィチェヴィッチの2人だ。

吉田監督は筑波大の戦力低下を厭わず、馬場をプロの舞台へと送り出した。「海外に行くか悩んでいたところで、吉田先生のほうから『登録を切ってBリーグでやったらどうか』と言われました」と馬場は明かす。「ルカも面倒を見てくれて進路も心配してくれたので、そこはコミュニケーションを取っていました。その中で、吉田先生がBリーグの各チームに『馬場はこういうことになった』と発信してくれて、話を聞きながらという形です」

ルカは代表のテクニカルアドバイザーを務めた約半年の間、とりわけ馬場を熱心に指導した。代表合宿に呼ぶのはもちろん、2月のイランとの国際強化試合で馬場をデビューさせ、公式戦である東アジア選手権でもプレーさせた。そして在任期間を通じ、マンツーマンのワークアウトで馬場を徹底指導。「オリンピックに向けて自分をレベルアップさせたい」という、飢えにも似た馬場の欲求を満たした。

ルカとの関係について、馬場はこう語る。「出会った当初はただ海外に行きたいという思いで、海外に行けば何か変わるだろうと思っていた自分がいて、そこでルカは『そうじゃないんだ』と教えてくれました。『アメリカは何も与えてくれない、自分がまだそのレベルに達してない中で行っても時間を無駄にするだけだ』って。Bリーグも甘く見てはダメだと言われて、自分を見つめ直す時間にもなりました」

「そういった部分では父親のような存在なんですかね」と言って馬場は照れ笑いを浮かべる。「間違った考えを持つ子供を正すみたいな。すごいフレンドリーに接してくれますし、友達のような感覚でもありますね」

「自信があるかと言われればそうではないですね」

大学での実績は申し分ないし、日本代表でもBリーグのトップ選手の中で遜色のないパフォーマンスを見せている馬場。プロでのデビューシーズンであっても即戦力として通用すると予感させるし、リーグの主役を演じることも不可能ではないだろう。それでも馬場自身は「自信はあまりなくて、若造ですし」と慎重に話す。

「海外の選手とやるのと日本の方々とやるのとでは、流れにしろスタイルにしろ全然違うと思います。そこは少しどうなるのかなと思っています。自信はあまりなくて、まだまだ若造ですし、まだ吸収しないとと思っているので、自信があるかと言われればそうではないですね」

とはいえ、臆しているわけではない。「Bリーグでの戦いが楽しみですか?」という質問を投げ掛けると、ただちに「もちろんです」と明るい声が返ってきた。「やるからには倒す勢いでやりたいですし、それが自信に繋がればいいと思ってます。今から楽しみです」

新シーズンで最も注目を集めるルーキーになるであろう馬場がBリーグを席巻するのか、あるいはプロの壁に苦労するのか。いずれにしても、馬場にとっては刺激的な1年が待っている。