文=小永吉陽子 写真=小永吉陽子、FIBA.com

「良い素材はいるが、力の発揮の仕方を知らなかった」

2015年、アンダーカテゴリー(U-16~U-19)のヘッドコーチに就任したドイツ人のトーステン・ロイブルは、『眠れる巨人』という言葉で日本のバスケットボール界を表現した。

「日本はバスケットボール人口で言えば、どの国と比較しても多い。選手たちは賢く勤勉で、しつけもされている。しかし、良い素材は眠ったまま。どうやれば海外チームに勝てるのか、力の発揮の仕方を知らなかった。だからしっかりと将来性をガイドして育成することで、選手たちの目を覚ましたかった」

そうして取り組んできたのが、準優勝となって世界の切符をつかんだU-18アジア選手権であり、18年ぶりに出場した世界の舞台、U-19ワールドカップの戦いだった。

このチームがこれまでと明らかに違ったのは、八村塁のような突出した選手を抜きにしても、チームケミストリーとディフェンス力を高めれば、アジアを勝ち抜くことが可能だと証明したこと。そして八村が加わったワールドカップでは、世界の強豪を相手に接戦に持ち込める力を示せたこと。敗れても課題を修正しながら次戦の準備ができるようになった点だ。

そして、チームが本当の意味で一つになったのは、八村のファウルトラブルを全員でカバーして初勝利を挙げた2戦目のマリ戦からだった。日本にとって八村の力は絶対的であり、世界的にもトッププレーヤーであることは大会のパフォーマンスでも示されたが、八村不在の時間帯に逆転に持って行けたマリ戦以降こそ、日本らしい粘る戦い方ができた一戦だった。

イタリアにわずか2点差で敗れ、日本はベスト8の目標は達成できなかった。しかし、このチームはここで終わらなかった。「アジアのトップチームになる」と意気込んで韓国との接戦を制すと、その後は「世界でトップ10になる」との目標を掲げてエジプトに延長戦で勝利。世界から3勝を挙げ、フル代表を含めてFIBA世界大会で歴代最高順位となるトップ10入りを果たした。

ただ、スペイン、イタリア、カナダといった欧米の強豪国に対して勝ち切るだけの力がなかったのは事実。今後、世界との差を埋めていくために、今大会に向けた強化がベースとなるのは間違いなく、世界大会に出場し続けて、その差を知る選手やコーチを一人でも多く輩出していくことだ。だからこそ、次世代に向けて強化の継続が大切になる。今後につなげていくためにも、今大会の成果と強化体制について、ロイブル・ヘッドコーチに総括してもらった。

「ヒーローと敗者はわずかな差、頭を下げる必要はない」

――今大会は日本と接戦を演じた相手がベスト4入りしました。イタリア(2位)やスペイン(4位)という強豪国と戦えた手応えはどんなものですか?

どちらも、あと少しだったので勝ちたかったけれど残念だった。特にイタリア戦では国際的にもトップレベルのディフェンスを見せられたと思う。チームコンセプトを守り、しっかりとゲームプランを実践してくれた。これまでだったら30点差、40点差で敗れていた強豪国を相手にしても戦うことができた。1年前に両国と対等に戦えると言ったら笑われただろうが、選手たちはそれをやってくれた。

イタリア戦でシューターが当たらない分はマーフィー(榎本)が頑張ってくれたが、イタリアを前半21点に抑えたのは、相当エネルギーを使うディフェンスをしたということで、そこで脚力を使ってしまった。それでシューターたちはシュートを打ち切る脚がなかったのかもしれない。終盤はファウルが鳴らない不運もあったが、ヒーローと敗者はわずかな差。ミラクルを起こすにはあと2点ほど足りなかったが、自分たちが敗者だったとは思わない。選手たちには頭を下げることなく、堂々とコートを去ってほしいと言いたい。

大会を通して見ればカナダには25点差で敗れたが、他のすべての試合で接戦ができたので、日本もパワーハウスと戦えるというメッセージになったと思う。

――ベスト8は逃しましたが、下位トーナメントでは「アジア1位と世界のトップ10になる」と目標を定め、韓国とエジプトを倒したことは評価に値します。この2戦の戦いぶりは。

寿命が10年縮まるような試合でしたが(笑)、勝ち切ったこのチームを誇りに思います。私自身、このチームをコーチすることが誇りです。これだけの短い期間で世界のトップ10を達成できたのですから、これは日本にとって一大ニュースです。

エジプトにも韓国にも、かっこ良く勝とうなんて思っていなくて、非常に難しい試合になると思っていました。韓国は常に日本に対して気持ちをぶつけてきますし、エジプトにはフィジカルの差とホームコートの応援もある中で、最後の最後で自分たちに勝利が転がる厳しい戦いとなりました。

――エジプトとの延長戦では気後れすることなく戦い、韓国戦では11点ビハインドから逆転しました。今までの男子代表はなかなかできなかった戦いぶりです。選手たちのタフネスさについてはどう感じましたか?

エジプト戦は西田(優大)が最後にフリースローを落とさなければ延長にはいかなかったのですが、選手たちはあと5分間余計にプレーがしたかったのかもしれません(笑)。そして延長は余計な5分間ではありませんでした。三上(侑希)の3ポイントがいいところで決まり、みんな自信を持ってやっていました。

延長ではとにかくディフェンスが良かった。日本には走れる選手がいるので、45分間で走り勝ったという感じです。長い時間、試合をやればやるほど、日本のほうが走れるので勝つと思っていました。韓国とはアジア選手権決勝レベルの戦いでしたが、激しく走ったら韓国は終盤ついてこられなかった。エジプトと韓国には走り勝ったと思います。

「日本は小さくて弱い、というイメージは払拭できた」

――9位決定戦のプエルトリコには1点差で惜敗しました。足りなかったことは?

敗れてしまったことはとても残念。プエルトリコが相当良いディフェンスをしてきました。ロースコアに抑えられたのもあるし、ケガで西田が不在だったので、シューターという武器を1枚欠いたこともある。でも言い訳はしたくないです。西田がいなかったので10~15点を他で埋めなきゃいけなかったが、それは三上と杉本(天昇)で埋められたので、オフェンスで困ったことはありませんでした。

ただ、西田不在はディフェンス面で痛かった。韓国とエジプト戦で一番良いディフェンスをしていたのは西田でした。最後に相手がタフショットを決めたことは間違いないですが、最後の一番重要なところのディフェンスで西田不在の弱点が出てしまいました。

最後は塁にボールを持たせて、一番良い選手に日本の命運を託しました。それで入らなかったので仕方ないです。プエルトリコにやられたのは、スカウティングでは全くシュートが入っていない選手だったんです。誕生日とクリスマスが一緒に来たような感じでシュートが入ってしまいました。プエルトリコが強かったということ。でも全体的にはディフェンスは良く、西田の穴を埋めるゲームはできたと思います。

イタリア戦もそうでしたが、あと一歩のところで負けた試合はギリギリのところで残念なミスがあった。プエルトリコ戦はフリースローが問題だった。フリースローについては、大会中に一度は良くなったのだけれど、また問題が戻ってきてしまったので今後の課題です。

――「ミラクルを起こそう、世界を驚かそう」というコンセプトでやってきましたが、日本が世界に見せられたことは何ですか。

日本は今大会のみならず、アジアの中でも身長が小さいほうですが、トランジションで戦うペースを速くして、プレッシャーディフェンスを仕掛けることで世界が相手でも戦えることは示しました。

いろんな国のコーチたちが言っていたことは、この大会では2つのチームが驚きをもたらしたということ。一つはカナダであり、もう一つは日本。カナダもアメリカを準決勝でやっつけて驚かせましたが、能力以上のパフォーマンスをしたのは日本だと言われました。これまでの日本のイメージは小さくて弱いというイメージでしたが、それを払拭できたと思います。チーム一丸となってやれば戦えることが証明できました。