文=丸山素行 写真=野口岳彦

第3戦にもつれる激闘も「自分たちのプレーをすれば」

アルバルク東京とのセミファイナルはまさに死闘、2試合を終えて決着がつかず、第3戦までもつれた。第2戦は勝っていたゲームをミスで落とした形。少なからず気落ちした部分があったかと思うが、キャプテンの篠山竜青は逆のことを言った。

「ニック(ファジーカス)がフリースローを外して逆転されて、最後も辻(直人)が良い形でミドルシュートを打ちましたけど外れてしまって、という負け方で、A東京が強くて敵わなかったのではなく、ウチのプレーをしてウチのシュートが外れてしまった負け方でした」

第3戦の特別ルールの是非は議論を呼んでいるが、チャンピオンシップに入る前には「第2戦を取ったチームが勢いがあるので有利」と見られていた。実際、ディアンテ・ギャレットに注意を引き付け、ジェフ・エアーズに3ポイントシュートを打たせる狙いが的中して第2戦を制したA東京の士気は高く、勢いは間違いなくあった。だがそれでも、川崎が焦ることはなかった。

篠山は言う。「しっかりと10分間、自分たちのプレーをすれば第3戦をモノにできるという自信はあったので、冷静に入ることができました。序盤、少しリードされましたけど、自信は揺るがすことなくしっかりついていけた」

北卓也ヘッドコーチは第3戦に入る前のインターバルで休養を優先し、ミーティングを行わなかったと試合後に明かしている。その点を篠山は「特に話すことはなかったですし」とサラリと言う。「修正点もそんなになく、シュートを入れるだけという感じだったので。疲労でしんどかったので、身体を休めることだけに集中しました」

「チームにとって一息つけた」得点が流れを呼び込む

第3戦の前半を終えて8-11とリードを許していたが、そこでも慌てた様子は全くない。「5分あれば5点ぐらいまで何とかなるかな、という気持ちでやっていたので」と篠山は言う。そこは川崎、残り1分を切ってもタイムアウト一つで流れを変え、劣勢を覆す試合を何度も重ねてきた。その実績に裏付けられた自信は、そう簡単には揺らがない。

「後半の出だし1発目、フリースローでちゃんと2点追加できたのは、チームにとって一息つけたというか、そういう部分はあったと思います」。そう篠山が振り返るのが、後半が始まってすぐに篠山がドライブで仕掛けた場面。ファジーカスのスクリーンでギャレットの対応がわずかに遅れた隙を見逃さず、リングにアタックしてファウルをもぎ取った。ファジーカスさえも落とすようなプレッシャーのかかる場面、篠山はいつもどおり体勢を低くするフォームからフリースローを2本決めて、1点差に詰め寄った。

篠山が言うとおり、川崎にとっては「一息つけた」フリースローの得点だったが、A東京はこれにプレッシャーを感じてしまった。結果、A東京はまだ慌てる必要のない点差と残り時間であるにもかかわらず、落ち着きを失いプレーの精度を落とした。逆に川崎は集中をさらに高め、ファジーカスとライアン・スパングラーに良い形でボールを集めて突き放した。

A東京はシーズン終盤、そしてチャンピオンシップに入ってからチームの完成度を急速に上げた手強いチームだったが、苦しい時間帯に崩れない粘り、試合を通した安定感で川崎が上回った。

ファンに感謝「とどろきがあんな声援でいっぱいに」

第3戦を制するブザーを聞くと、篠山は大きく両手を振って観客を煽った。「2戦目に負けた後も3戦目も、本当にたくさんの声援をもらえました。とどろきがあんな声援でいっぱいになるのは初めてだったので、素直にうれしくて、感謝の気持ちを伝えたかったんです」と篠山は言う。

東芝から川崎へとチーム名が変わった今シーズン、観客動員もアリーナの雰囲気作りも苦戦が続いた。チームが勝ち続けているにもかかわらず、観客数が2000人を切ることもしばしば。それでもポストシーズンに入り、アリーナの雰囲気は確実に良くなった。これもまた、川崎がシーズンを通じて積み重ねてきた成果だ。

残るは一発勝負のファイナルのみ。篠山はチームへの自信をこう語る。「ウチはニックと辻が中心で、相手チームもそう思っていただろうし、メディアに取り上げられる時もこの2人だったんですけど、辻やライアンのケガがレギュラーシーズンにあったおかげで、周りの日本人選手が成長して、今日にしても藤井(祐眞)だったり長谷川(技)だったり栗原(貴宏)さんも、2本柱以外の選手たちで勝利の流れを持ってこれるようになっています。そういう意味ではチーム全体で上り調子で来ていますし、感覚的にも良いものを感じています」

ファジーカスと辻に偏ることなく、どこからでも勝負の流れを作ることができる。そして試合を通して高いレベルでパフォーマンスが安定し、苦しい時間帯にも崩れない──。すべてはポイントガードとしてチームを操る篠山がカギとなる。その篠山自身も、今年は自ら得点を奪うという点で大きく成長した。シーズンを通して積み上げたものは、27日のファイナルでどんな結末をもたらすのだろうか。